聖なる契り
@bigboss3
第1話
その昔、一つの町がそこに巣くう悪の宗教は自らがかじった禁断の果実によって滅んだ。
それが世界的に広がり世界の神に滅びを与え新たな神を創世した。
一五年前、ある少年少女がカルトを作り自ら滅びを招いた。そして、新たなシステムが構築されて、平和の世界ができた。
そして新たな滅びと再生が今おきようとしていた。それは死と再生のリングのように。
私はそこで傘をさしてたっていた。周りには何人もの人々が目の前にある神々しい像と建物にお祈りをしていた。
『今日はまた、あの日が近づいております。今から一五年前、一五人の少年少女が起こしたカルト立てこもり事件。通称〝カストロン事件〟その命日かこの年も近づいています。目撃者の多くが口を閉ざし、政府も2XXX年まで公表しないとしてます。事件現場では多くの遺族が涙を流しなら事件をかみしめています』
電光掲示板ででかでかとあの日のニュースをしめやかにながしている。
この太陽系には七つの宗教が存在する。私の仕事はその宗教を病的に批判しテロを起こそうとする輩の排除。
世界が地球から飛び出して、既存の宗教が衰退してもなお、人々は新たな神を作りそのそこを聖地にして祈りを捧げている。
「アギト、前方にいる人物に注意しろ」
「確認した。すぐに取り押さえる」
私は電磁ライフルを腰から取り出して、引き金に力を入れる。
そして、服につけたひもを引こうとする瞬間に銃を向けて、引き金をひいた。男は痙攣を起こし、爆弾のひもを引く暇も無いまま倒れ込んだ。
「自爆テロ犯の無力化を確認、これより、取り押さえる」
私はすぐにその人物に近づいて、慎重に体を調べ始める。相手の体の中から現れたのは原始的な爆弾だった。
即ち、肥料と化学製品で作った爆薬。それを服につけてひもを引けば火がついて爆発というなんとも原始的な構造だ。
「司令部、こちらアギト。爆弾を確保した。しかし爆弾の成分から爆発範囲はたいしたことないと思われる。引き続き捜索をこう」
「了解した、すぐに探し」
そう無線が言いかけたとき、後ろの方で大きな爆発が起きた。周囲からは悲鳴がおきてパニックが起きた。
「こちら、司令部。協会で爆発が起きた。さっき捕まえたのは囮だ、すぐに急行せよ」
私は慌てふためいて、事件現場に向かった。後ろで気絶していた男など無視しても差し支えなかった。後のことは無人機が回収して当局に引き渡されるはずだ。
私は十一才のときに仲間内十五人とともに集団自殺したことがある。当時私たちには「カストロン様」と言うみんなで作った神様をあがめていた。
子供心で作った物なのだが、やがて、周囲の信仰に流されるのを嫌がった、私たちは徐々に被害妄想にとりつかれ始めた。
それはよく言われるカルト集団としての被害妄想にとらわれ始めた。
そして、ついに私たちは終末論を掲げだし、どこから手に入れたかは定かではないが、第二次世界大戦のstg45という、HKG3ライフルの元になった銃を手にして、これもどこかで手にしたかは忘れたが、化学兵器を手にして、迫害していると見なす警察を襲って自決しようと計画した。
しかし、計画を始める三日前に誰かがチクったのか、それとも足がついたのか、警察の無人機や特殊部隊がやってきて、秘密基地を包囲。今考えれば正気じゃなかったのかもしれない。警察相手に銃撃戦を仕掛けて、みんな手傷を負い、最後に毒ガスを開封して自決をはかった。
当然、私も含まれてはいたが、どういう訳か病院のベットの上で寝ていた。そして、両親は泣き崩れ、捜査員の鬼のような表情が私の目に焼き付いた。
「あの、ほかのみんなは?」
「残念だが、助かったのは君だけだよ」
私はひどく落胆してしまった。なんせみんながカストロン様の元に逝ったのに、自分は逝くことができなかったのだから。
そして、今の私にはみんなが死ぬときは一緒だと誓った、結社の紋章だけが残っていた。
あれから、もう十五年がたつ。私は今、無宗論者にになって、宗教監査官という仕事に就いている。
「世界は宗教同士による対立と抗争の時代からついに脱却することができました。かつて地球に存在した宗教は人類の大厄災から人を救うことができずに衰退し、代わりにカルト呼ばわりしていた一部の宗教やシャーマニズムなどが中心に、新たに信者を獲得し、失望した人々に救いを説きました。また、宗教戦争を防止する観点から、信者にはナノマシンの登用が義務づけられて、信仰心の極端化を防止することに成功。これ以後、行きすぎた信仰心をもつ人々に尊重することの重要性などを教育するなどの政策が行われ・・・・・・」
今では教科書にも載る普通の人なら喜びそうな事を当たり前に伝えるラジオを耳にしながら、私は危険人物のリストを見ていく。
そこへ、ダークウェブから、連絡が入った。どうやら、副業の仕事が入ったみたいだ。
「さて、今日の仕事は・・・・・・マリファナを混ぜたタバコをマリエッタ教の聖職者に横流しと・・・・・・」
私は内容を確認すると秘密回線で注文のための暗号を送った。秘匿回線で返ってきた暗号は少し時間がかかるとのことだった。
「先輩、何しているんですか?」
「あ、ちょっとした息抜きな」
私はすぐに回線を切って脳天気な後輩に「何のようかな?」と聞いた。
「今回の個人崇拝派の事件の後処理についてですが、背後関係はないようです」
「そうか、まあ、信仰の自由を求める連中なら同じ事を言いそうだな」
私は肝を冷やす思いで裏取引のことを考えていた。聖職者が違法なドラックを混ぜたタバコを吸っていたなんて知ったらスキャンダルじゃ済まないだろう。
「そうだ、少しだけ休みを取るから、後の仕事を頼むな」
「えええ、そんなー」
ショックを受ける後輩を尻目に私はコンピューターに入っている休暇届をタイプして副業のための時間を取る準備をするのだった。
その日の夜、私はとあるタバコ畑の農家の所にいた。そこのおばさんに話をして、私が原価で買いたたいた医療用の大麻を樹脂化したマリファナを自家製のタバコにブレンドしてもらっていた。
「おばちゃん、今回もありがとね」
「いいってことよ。アギトちゃんにはここの農家たちに助けてもらったから」
この地域の農家は自家製のタバコ葉を作ることが黙認されたいわばグレーゾーンの地域。世界的な禁煙ブームを背景に公的なタバコ生産が中止されて、今ではこの地域のような自家製の農家で作るところでしか、吸うことができない世の中だ。
そんな危ない橋を渡っているのに今度は医療用名目で手に入れた大麻樹脂をタバコに混ぜ込んで、高値で売ろうというのだ。
「もう、ソロソロだと思うけど」
「では、味を拝見と」
私は、紙巻きタバコのキッドを持参して、吸う準備を始めた。
味は手作業の割にかなりの純度だった。これ相手も喜んでくれるだろう。
「いい感じだ。この調子で作ってくれないか?」
「ありがとう、それじゃ翌朝までには一カートンは作っておくよ」
それを聞いた私は少しほくそ笑んで、できたてマリファナ入りタバコを楽しんだ。
「ここいらへんは、イタコの風習がまだ残っているのか?」
「国際宗教機構が絶滅寸前の伝統宗教を世界的に保護してくれたおかげでなんとかやっているよ」
そう言いいつもため息をして言葉をさらに続けた。
「とは言うけど、正直なところ後継者が皆無になって、いつまで続くのか・・・・・・」
「子供の頃だったらわかったかもしれないけど,今は・・・・・・」
それを聞いたおばあさんは「何を信仰していたんだい」と聞いてきた。
「そんなたいした物じゃない。子供の頃の友達と一緒に作った自分だけの神様だったよ。俗に言うカルトってやつ」
「あらー、カルトね」
その言葉を聞いたおばちゃんは渋い顔をして、紙タバコを生産していく。
「それで、どっぷりはまった私たちは武器までそろえて、終末論にはまり、挙げ句の果てに化学兵器まで取り出して、集団自決。生き残ったのはこの私だけ」
「一体、何をしたらそうなるんだい?」
その言葉ののち私は頭の髪を分け入って、おばちゃんに「この頭の傷はそのときの物で縫い合わせた物だ」と見せた。
それを見たおばちゃんは首をひねり「これはどこで怪我を?」と聞いてきた。
「それがガキの頃だったから覚えていないんだよ。なんか、いろんなやつと会っているというのが薄らぼけで覚えていて・・・・・・」
「これ、怪我と言うよりも手術痕に見えるよ」
「おばちゃんはわかるの?」
「ええ、昔の病気で手術を受けた時にね」
おばちゃんはそう言って胸の傷を見せてきた。なるほど、私の頭の傷と全く同じだった。
おばちゃんは胸をしまうと、何百本のタバコの束を箱に詰め込んでいく。
あっという間に目標の数を大きく上回る。一〇ダースができた。
これだけそろえば聖職者たちからガッツリもらえる。
「よし、できた。これだけあればかなりの見返りが期待できるだろうよ」
「ありがとう、おばちゃん。ほうしゅうはきっちり払うから」
私はできたてほやほやのタバコを木箱に詰めて、私に渡した。
そして、おばちゃんに「またね」と言って小屋の外に出たときだった。
向こうの方から軍から払い下げたヘリコプターが音を控えて飛んできた。マークは何もない民間のヘリみたいだった。
「なんだ、こんな田舎に何のようだ?」
私は不思議に思ってヘリから近づいてみたら、ちょうど扉が開いて、中から人が現れた。その瞬間、私は一気に青ざめてしまった。
「アギト宗教監査官」
「ミッチェル長官、どうしたのですか。こんな田舎にヘリに乗り込んでやってくるなんて」
ミッチェル・エルダー。国際宗教機構を統括する大物で、私のような一監査官にしてみれば、会いたいなんて言っても一蹴されるレベルの女性だ
「きょうここに来たのはあなたに会ってもらう人物たちがいるからよ」
「誰ですか、私に会いたいというのは?」
その質問にミッチェルは明らかにお見通しですよと言う笑顔を作り、その人物を連れてきた。それは、取引相手であるマリエッタ教の聖職者たちだった。両手には手錠がかけられて、所々爪の辺りが内出血や爪が剥がされているのがわかり、そして顔の辺りにやけどの跡が見受けられた。
「マリエッタ教の聖職者が何のようですか。身なりがボロボロですけど」
「あなたの持っているマリファナを混ぜたタバコを違法に使用もしくは購入した角で拘束させてもらったの」
そう言って長官は黒い手袋をはめたてで、後方で待機していた兵士たちに、指示をした。
兵士たちは中に入ると、おばちゃんと作りかけのタバコとマリファナを押収していく。当然私の持っている木箱も取り上げられて、乱暴に箱を破壊して、中の物をたたき出した。
「長官、供述の通りです。末端価格で五〇〇万はあります」
私は思わずブルブルと震えだしていることに気がついたが、後の祭りだった。
「アギト監査官。これでは言い逃れはできないわね」
「・・・・・・そのようですね。このまま拘束ですか?」
「あなたの返答如何ではそうなるわね」
私はこの状況で言い逃れできるとは到底思えなかった。かといって、自分で言うのも何だが、優秀な監査官を失うのをもったいないと感じてはいるはずだ。
「でも、あなたを裁くことになると、今度はここで自家製のタバコを生産している農家たちも連座して、処分を下すことになるわ」
「や、やめておくれ、私だけでも問題なのにほかの人たちまで巻き込まないでおくれ」
おばちゃんは必死になって長官に食い下がった。その様子は隊員が押さえつけないと行けない位だ。
「おばさんは少し黙ってて、これは私たち国際宗教機構の問題なの」
エルダーはおばさんに圧をかけて黙らせた。そして私に向かってある条件を突きつけた。
「アギト監査官。もし罪を認めて無期限の休職を受け入れれば今回の事は不問に付して、酒などの違法な嗜好品の売買から手を引けば、問うことはせず、このマリエッタ教の聖職者を処分するのみで済ませるわ。勿論、ここでの農作業も認める」
「・・・・・・もし断ったら?」
「ここで処理する。そうすれば表沙汰にもならないし、こっちとしても利があるわ」
「わかりましたよ、処分は受けます」
「よろしい、では、アギト監査官。あなたはしばらくの間休職を命じる。その代わり、ここの農家の人たちの責任は問いません」
その言葉の後、私は周りにいた部隊員に拘束されて、そのまま、ヘリに乗せられた。
その間際にマリエッタ教の聖職者たちと目が合った。
私は思わず彼をにらみ付けたが、聖職者の方は「誤解しないでほしい、我々も内密に事を進めていたのだが、前々から監査官たちから嗅ぎ回っていたんだ」と言い訳がましい事を口にした。
当然のことだがそんな言葉なんて信じる価値もなかった。
「おばちゃんごめんな」
「ほんとだよ、これで商売ができなくなったらどうするんだい」
ヘリに乗り込んだ私は上空から見るタバコ畑の田園風景と、そこにそびえる火山の山並みを見つめながらため息をつくほか無かった。
無期限の休職を受けた私は実家のある地方都市に向かって列車に乗り込んでいた。
その建物の周りにはリングル教の宗教施設がビルに混じって立っていた。よく見てみるとその建物の足元には多数の信者たちが集まって、中にあるご神体をおがみにやってきた。
私はその姿をみて「そんなに拝みたきゃ自分がご神木になりゃ好いのに」と呟いた。
「間もなく、三国に到着します。お降りの方はお忘れ物の内容にご注意ください」
アナウンスとともに人々が次々と列車から降りていく。その多くはここにあるリングル教の信者だった。輪廻を信じるこの宗教は私の両親が崇拝していた宗教でもあった。
「おおい、アギト、久しぶりだね」
「あ、馨ちゃん。久しぶりだね」
馨は私の昔なじみで今はリングル教の信者のためにお土産を売っている。
「今日はどうしたの?」
「実は詳しくは言えないけど、休職命令が出されて久しぶりに実家に戻った」
「へえ、そうなんだ。じゃあ、うちの手作り団子でも食べないかい」
私は喜んで彼の誘いに乗ることにした。
巨大なアーケードには信者目当てのお土産屋が建ち並び信者たちの宗教意識に多大な支えをしていた。
しかし、宗教を信じていない私にはこの光景は見るに堪えなかった。
「しかし、ここも繁盛しているよな」
「うん、おかげで今日もガッツリ稼いでいるよ」
お互いに喜びを楽しみ合いながら、彼の経営するお土産に向かっていく。
「・・・・・・ねえ、アギト。実は君に隠していることがあったんだ」
「なんだ、何を隠しているんだ?」
その表情は罪悪感に満ち満ちているのがひしひしと伝わっているのがわかった。
「その、君たちがカストロン様って言う神様を祈っていた頃に僕は君たちの様子をスパイしていたというか、隠れて君たちの行動を教師たちに漏らしていたんだ」
その言葉を聞いた僕は顔をゆがめてしまった。
集団自殺をする原因になった人物が目の前に現れただから。
「なんで、そんなことを?」
「・・・・・・実は噂になっていたんだよ。最近妙な宗教がはやりだしているって。しかもかなり狂気にはらんでいるから、学校内は勿論警察でもカルトしてみていたらしくて、君とお友達だからって親に言われて」
そこから先の言葉を続けることはできないみたいだったが、今更なんと言われようと、結果が変わるわけではなかったため、「気にするな、もう済んだことだと」と慰めた。
「でも、なんで広まったわけ?」
「あのとき、君の友達が自慢していて、そのうち学校内で同調が起き始めて、入らない人は暴力を振るわれたりして、完全なカルトだって騒ぎ出したから」
「初耳だな」
「そりゃそうだよ、だって保護者や学校が秘密にしながら警察と連帯していたんだから」
そう言いながら焼き揚げの抹茶味の大判焼きを袋に詰めて私に渡した。数からして家族分の物みたいだった。
「これ、ご家族に渡しておいて」
「ありがとう、最もうちの家族はかなり悪い状態だけど」
私はそう言って、別れを告げた後、来た道を逆に向かって歩こうとしたときだった。
「馨、何やっている!」
「やめなさい、死ぬ気なの?」」
突然、馨の家族と思われる男女の叫び声が聞こえてきたかと思うと、爆発音が聞こえた。
思わず、振り向くと屋台から体が火だるまになった男の姿が出てきて「私はこれから神に生け贄を捧げます」と叫んで飛び出してきた。
辺りは悲鳴がとどろき、上空からは撮影用の無人機が上空をホバリングしていた。
私は辺りを見回し、近くに何か無いか探し、すぐ目の前にあった消化器を手に取ると、それを手に馨にめがけて消火を始める。
周囲の人も、ホースを使って炎を沈めようとする。しかし、さっき聞いた限りでは油を使ったため、消すことは容易でなかった。
一番効果があったのは私の消火器で、酸素をなくした火は瞬く間に消えていった。
「一体、何が・・・・・・」
私はすぐに救急体を呼ぼうとした直後に、次々と爆発や火災が発生して、人々を次々と焼き焦し始めた。
そうなるとリングル教の信者や観光客はパニックに陥り、次々と火が攻めっている方向と反対に逃げ出し始める。
「くそ、何がどうなっている」
私は人混みを避けて不意に馨の屋台に視線を向けると、見慣れたマークが見えた。それは私の幼き記憶を呼び覚ますのに十分な物だった。
「え、なんで、あのマークがここに?」
それは紛れもなくカストロン様を崇拝していた時にみんながあかしとして一緒に作ったマークそのものだった。
しかし、なぜ馨の店にこんな物があるのか、私は不思議に思い、とっさに端末のカメラ機能を使って撮影を始めた。
「馨、死なないでくれ」
「誰か、誰か助けて」
馨の両親はウェルダンに焼けた自分の息子を抱えて助けを求めたが、救おうとする者は皆無だった。
「お母さん、私が運びます。何か、服で包んで体温を下げないようにしてください」
「は、はい。わかりました」
そう言って火が迫る中、両親は近くの布を持ってきて、馨を包み込んだ。
そのとき、耳元で馨が何か呟いているのが聞こえてきた。私は耳を近づかせて何を言っているのか聞いてみた。
「・・・・・・だ、・・・・・・す、・・・・・・」
「おい、馨一体何を言っている?」
「か・・・・・・す・・・・・・と・・・・・・」
何か言っているみたいでだんだんと聞き取れるようになった。
「カストロン・・・・・・リンネル・・・・・・解脱・・・・・・・贄・・・・・・」
それが、私の昔なじみが発した最後の言葉だった。彼はそのまま口にした後に呼吸を止めてそのまま動かなくなった。
「何しているの、早く運んでくださいよ」
「その必要はありません」
私はその手を優しく握らせて、そのまま静かに離れた。
両親は息子の最後を受け止められず、パニックを起こして息子を揺すろうとするが、私はすぐにやめさせて、彼の亡骸を背に全力でその場を後にした。
『速報です。リングル教の総本山三国市で爆発事件が起きました。目撃者の証言によりますと、突如意味不明な言葉を口にしたかと思うと近くの油などの可燃性類を使って焼身自殺を図り、その炎が建物に燃え移ったとのことです。この火災により八四人が死亡、三〇〇人以上が重軽傷を負い、六〇〇棟の建物が焼失したとのことです』
翌朝のニュースはあの火災のことで持ちきりだった。私は軽いやけどを負っただけで済んだが、事態は深刻だった。
警察官や消防官に連れられて実況見分をさせられた。あのときの火災の生存者にして目撃者だったことがこの事態を招いた。
「すると、馨さんは突然火だるまになって、でてきたと?」
「はい、私が会話するまでは何の違和感もなかったのですが、突然彼の家族が叫んだかと思うと、飛び出てきた」
「でも解せないな」
警察官は首をひねって焼け跡を見回る。私が「何か気になることでも?」と聞いた。
「いやね、焼死した馨の遺体を検視した情報によると、彼はリングル教が配布しているナノマシンを投与されていることが確認されていて、実際に総本部の確認もとれています」
「それなら、自殺を防止する機能が働いて、強制的に止められるようになっているのではないですか?」
私も不思議に思った。この時代になるとナノマシンを使った自殺防止機能が取り付けられるのが一般的になっていた。
各宗教は共通して殉教から名誉の死に至るまでいついかなる、そして様々会社奥を持ってしても、自分を殺してはならないと確約されている。
「システムのどこかに欠陥があるのでしょうか?」
「その辺はお宅の管轄ではないですか?」
警官は冷ややかな目つきを私に向けた。まあ、そんな目で見られとも仕方が無い職業ではあるのは認めるところなのだが。
私破損雨を易々の避けながら、あのマークを探していた。焼け跡はほぼ炭と言って良いほどに焼け焦げていて、ケリ一つで崩れ落ちそうな状態だった。
それでも燃え残った建物の中にカストロン様のマークを見つけることができた。万一の証拠隠滅を防止するため端末で撮影して証拠写真として残した。
「何だね、そのマーク?」
消防官の一人が私のやっていることに気がついて聞いてきた。
「このマークと同じ者がないか調べてきてほしいのです?」
「わかった、消防官達に連絡しておこう。それから付近の警官にも連絡しておく」
そう言って、無線機を使って書く消防官に彼も撮影しておいたマークがほかの建物にも無いか確認した。
「どうでしたか?」
「いくつか報告が来たよ。間違いない。火災の発生現場にこれと同じマークが見つかった」
それを聞いた私は「それなら、撮影して、こっちに送信してください」と頼み込んだ。
消防官はその他のみに応じ、広大な事件現場に多数のドローンを放って撮影された。
ドローンのデータはすぐに私の端末にいれられて、保存された。それは間違いなくカストロン様のマークそのものだった。
「一体これは何なんだ」
「わからん、でも、被害者が同じようなマークを記しているところから見ても無関係とは言いがたい」
私は消防官達に事実を伏せて、そのデータを持つことにした。
「ここからは、私が私的に調べますから、皆さんは火災の現場の後始末をしてください」
「私的とはなんですか?」
「一応、私は休職中の身ですし、これ以上あなた方に迷惑を被ると上がうるさいですから、こうした方がやりやすいかと」
言葉を濁した私に消防官や警察官達は不思議そうな顔をして私の言葉に従った。
「あの、不満があるのはわかりますが、そろそろ良いでしょうか?」
「仕方が無い。しかし何かあったらまた呼びますのでその点は留意してください」
私は礼節の甲冑の中にあるドロドロとした者を腹の中に納めて、焼け野原と廃屋になった商店を後にした。
お昼の三時に、私は図書館に向かった。図書館とはその昔、本を貸し借りするところだが、代わりにデジタル化された電子書籍を期限付きでダウンロードして端末で読むところになっている。
一方の書籍はと言うと、書庫と言う保管庫に温度と湿気に注意して保管されている。
私はここで、一五年前に自分たちが起こしたカルト事件に関する内容を調べていた。今ではほとんど見られない新聞紙をこれまた貴重なマイクロフィルで保管されている。
「ええと、事件は一五人の少年少女が隠匿した毒ガスを使って、包囲する警察や特殊部隊に使おうとしたか」
内容は全て警察が発表したとおりのことが述べられているだけであった。
一応いろんな資料を読みあさってはいるのだが、どれも同じ内容ばかりで見つからない。
ふと、一枚の記事に私視線が向いた。それは生存者に関する内容だった。
「えっと何々、この事件で一五人の少年少女は全員毒ガスによる自滅で、意識不明の重体、現在医療施設で懸命の治療が行われている」
それを見たとき私の脳裏に疑問がわいた。確か、私を除く全員が死亡したことになっているはず。では、この後に私だけが助かったのか?いや、それはおかしい、両親の話では発見されたとき、私だけが奇跡的に生存していたと聞いている。
そして、その記事を書いた人物に連絡をしたいと思い、その新聞記事の書いた会社の住所を調べて、ネットで調べた。
しかし、すでに倒産していて建物も駐車場に変わっていると、ネット記事に載っていただけだった。
「やっぱり当てが外れたか」
私が落胆していると、電子メールが端末に届いた。宛名はリングル教からで何か勧誘のような者が届いていた。
「何だよ、スパムかよ」
私は思わず削除のマークをタップしようと仕掛けたときに、なにか、数字のようなものが書かれていた。
それはボリビオス暗号表だった。そこには「アギト、カストロンを、私たちで、取り戻そう」と書かれていた。
「誰だ、こんないたずらしやがって」
私は腹が立ったが、同時にカストロンで引っかかりを覚えた。
「でも、誰があれを知っているんだ」
私は一抹の不安を覚えつつも新聞社があった場所に向かうことにした。
当然ではあるが建物など全くなく、ある空き地に止まる自動車が何台かだけだった。
「やっぱり何にも無いや」
私は期待していなかったが、誰か知り合いがいないか、調べて見ることにした。
「すみません」
「はい、何でしょう?」
近所で犬を電子綱でひいてあるく男性に聞いてみることにした。
「あそこにあった新聞社について何かご存じのことはありませんか?」
それを聞いた男性は何か隠し事でもあるかのような態度であたりを見回すと、私の耳に語りかけた。
「ここじゃ、大きな声じゃ言えないけど、ここにあった新聞社は潰されたんだよ」
「潰されたって、誰にです?」
「リングル教の青年部が中心になったリングル党」
「少数政党だな。で、何が原因なんです?」
「私も詳しくは知らないのだけど、なんか、昔おきたカルト教団のスキャンダルを調べていたんだけど、世界中の主宗教が圧力をかけて、潰そうとしたんだ。でも、よく粘ったと思うよ。なにせ、報道の自由を盾にして、調べていたんだから」
なるほど、確かに今の宗教の政治介入をダミー組織や間接的な政党などで置かぬ今の時代にしては粘ったと思う。
「それが何で、少数政党に潰されたのですか?」
「私も仕事の帰りに現場を見ただけだから、何があったかは知らないのだが、なんかすごい乱闘騒ぎがあって、死人が出たって話しだよ」
「それなら、動画や写真とかで世界中に掲載されているはずですよ」
「それが、全く話題にも載らなくて、それらも載らなかったんだよ」
私はそれを聞いて何か大きな力が働いて圧殺されたと感じずにはいられなかった。
「それで、中にいた人間は?」
「さあ、そこまでは・・・・・・」
私は「わかりました、ありがとうございます」と言ってその場を後にした。
実家に帰ってきた私は持っていた資料を精査して、この事件に関して調べ始めた。
「カストロン、カストロン、だめだ、全然ヒットしない」
私は頭を抱えながら端末をベットにおいて冷やそうとしたとき、お袋がドアを開けて部屋の中に入った。
「アギト、どうしたの?」
「お、お袋。勝手に俺の部屋に入るなよ」
慌てて私は起き上がり、お袋を思わず怒鳴りかけた。
「ごめんなさい、今日はあなた宛に荷物が届いたから、持ってきてあげたの」
そう言ってお袋は重そうな箱を持ってきて、それを白い床に置いた。それは何か縦に長い箱で何か善太に金属系の何かに覆われている感じだった。
「何それ?」
「荷物の中身は無可動銃だって書いてあったけど?」
「俺、そんなの頼んでないけど」
「とにかく、持ってきたから。それと、今夜はピザを頼んだから、家族で食べましょう」
私はそれを聞いて、「わかったから、早く部屋から出て行ってくれとお袋を外に出すと、中身を確認することにした。
『こちらの箱を開けるには本人の生体情報が必要です。あなたと生体情報が一致しません』
私は首をひねってしまった。この箱はよくある極秘の荷物を送られたときに、生体情報で開けるタイプの物だった。しかし、宛名は私の物だったのに生体情報が一致しないとはなんともおかしな話しだ。
「誰が、こんな物を送りつけたんだ」
そう思って私は荷主の丸いものをのぞき込むと突然箱の解錠する音がして、『生体情報が一致しました』という声がした。
「なんで、急にあいたんだ?」
私は不思議に思いながらその箱を開けてみると、それは一丁のライフルが出てきた。そのライフルを見たときどこか懐かしい物をかんじた。
「これはstg45ライフルだ」
懐かしさを覚えながら、ライフルにふれると、その銃に何か鬼神感を覚えた。ある程度はきれいに整備はされていたが、この銃が妙に気になって調べていると、ナイフでアギトと削られた文字を見つけた。
「これ、ひょっとして、一五年前にみんなで持っていた。stg45じゃないか」
私は驚き、荷主の履歴を調べようとしたが、ご丁寧に履歴が削除されていた。
一体どこで手に入れたのか、普通ならとっくの昔に溶鉱炉でとかされて何かに再利用されているにも関わらずである。
「もし、これが俺のだとしたら、生体認証があるから引き金が」
そう言って私が引き金を引こうとしたらロックが自動的にかかって、撃てなくなった。
「おかしいな、上書きでもされたのか?」
不思議に思いながら、もう一度引き金をひこうとしたがまたロックがかかった。そこで、端末を使ってロックのかかった理由をしろうとした。
『この銃の登録者はアギトという少年の物のため、本人にロックをフリーにしてもらってください』
「そのアギト本人だ。すぐにロックをフリーにしてくれ」
私は端末を介してこの銃のロックを外そうとしたが、端末から返った返答は『あなたはアギト本人ではないためロックを解除する資格はありません』とのことだった。
「おかしい、じゃないか。何かの間違いだろう」
『いいえ、コンピューターに誤作動はありません。考えられる理由として他人の一部が移植されて、それが本人の物と認識しない可能性です』
そのとき、私張ることに気がついた。あの箱を開けるとき目の部分を通したところ、箱が開いた。私は意を決して「それじゃ、俺の目で開けられるかやってみてもらえないか」と端末にしゃべった。
端末はすぐに私の目をスキャンしてそれをstg45のロック機能にアクセスした。
『網膜スキャンを確認しました。銃のロックを解除します』
そして、改めて銃の引き金を引いたら玉が入ったままだったらしく、銃声が一発音を立てて発射されて、壁に穴を開けた。
「な、何なの?」
さっきの銃声で驚いたらしく一階からからお袋の動揺する叫び声が聞こえてきた。
「何でも無い、中に爆竹が破裂しただけ」
「もう、脅かさないでよ。きょうもマーズル教が火星行きの宇宙船で事件を起こしたのに」
それを聞いた私は割れてニュース動画を端末で見た。
『速報です、地球時間3時に火星に向かっていた星間シャトルのドアが外れて、三〇人近くが宇宙空間に吸い出されたとのことです。繰り返します・・・・・・』
事件のあらましは突然マーズル教の信者が叫んだかと思うと非常用ドアロックのスイッチを押して、ドアを開けて外に吸い出され、それに巻き込まれて座席をロックしていない人たちは次々に吸い出されたとのことだった。
私は直感的にあのマークがないかと思い探してみた。結果はピタリと当たり、事件を起こした信者の前にカストロン様のマークが残っていた。
「これは、偶然にしてはできすぎている。早いとこ調べないと」
私は錆だらけの脳細胞に油を差して、事件へ介入することに決めた。でもその前に、家族に聞かなくてはいけないことがある。
その日の深夜、数年ぶりに家族がそろい、皆が水炊き鍋という伝統料理で囲んでいた。
私は談笑を楽しむ裏で聞かなくてはならないタイミングを伺っていた。そして再び収納していた銃と一緒に。
「親父、実は気になっていることがあって」
「なんだ、アギト。家族だから何でも聞いてもかまわんよ」
親父は普段話していない息子の質問に首をひねりながら、私の言葉に耳を傾け始める。
「一五年前。生存者は俺一人だったんだよね」
「ああ、そうだ。毒ガスを吸ってお前以外の友達は死んだ時化されている」
「確認した?」
私は一応の質問をしたつもりだったのだが数秒間の沈黙の後「私は見たわけではないが、彼らの家族から聞いた」と答えた。
「話を少し変えようか。どうやって俺は助かったの?」
「そ、それは・・・・・・」
「どうしたの、何か不都合でもあるの」
「い、いやそう言うわけじゃ」
やはり、親は何か知っている。しかも、何か言い出せない重大な秘密を。私は気になって周りの家族の様子を見てみたが全員が私と視線を合わせようとしなかった。
答えずらい父親に変わって口を開いたのは母だった。
「いいわ。あなたにも覚悟して聞いてもらうときがきたのよ。あなた、いい?」
親父は黙ってうなずき、私も心の準備だけは付け焼き刃で整える。
「アギト、あなたが助かったのは脳死移植のおかげなのよ」
「別に不思議なじゃないだろう。今時脳死移植だなんて」
私は移植されたときいてもピンとこなかった。確かに移植の是非については宗教によって様々だが、無宗論の私には何の抵抗もなかった。しかし、お袋から聞かされた帽子を食うほどの真実だった。
「でも、普通の移植じゃないの。あなたは脳そのものを他人の体に移植されたの」
その真実に私は思わず、ごまポン酢の容器を下に落とした。まさか、そんな大胆な書術をされたなんて。
「そ、そんなこと、ほんとにできたのか。なんか授業で聞いたけど人の脳をほかの動物に移植しても、その動物にしかならないって」
「そう、私もそう聞かされた。でも、その最高のチームのリーダーが言ったんだ。その対策も万全だと」
「一体何をしたんだ」
私の質問に母は全てを明かした。手術の後ナノマシンとサイコセラピーで私の人格も移植し、ドナーから本人に返られるとのことだった。
「その際、追加オプションとしてドナーの顔とあなたの顔を入れ替えたわ」
「でも、大ニュースになるだろう、そんだけの手術したら」
「主治医や病院はこれは試験段階だから口外しないようにと言われたのだ」
父親はこれで胸の支えがとれたという表情で胸をなで下ろした。
「しかし、いつ気がついたんだ」
私は待ってましたと言わんばかりに、持っていた銃を開封し、この銃が一五年前に私がみんなで持っていたライフルであること。そして、その際にみんなは奪われないようにコンピュータに強い仲間を使って生体認証を独自にいれていたこと。そして、手術痕と生体認証のエラーについて話した。
「なるほど、確かにそれなら気がつかない方がおかしいな」
「問題は、誰が俺にこのライフルを送ったかと言うことだよ。このライフルはとっくの昔に処分されたと思っていたから」
「確かにね、不思議な事ね」
私は次に端末の写真を家族全員に見せた。そのマークを見た両親は目を丸くしてそのマークを凝視した。
「このマークは家族や学校で話題になったやつよ」
「どこで見つかったと思う。リングル教周辺でおきた火災の現場」
「何で今頃になって?」
「わからないけど、調べてみる必要がある。親父もお袋も家族全員でどこか知り合いのところで隠れてくれ」
「え、なぜだ」
「俺の直感だと、人類規模に広がるとおもうから」
それを聞いたみんなはどっと笑い転げた。みんなは口々に漫画の見過ぎだとか行ってきたが、私は拳を床にたたきつけて、冗談ではないという態度を示した。
さすがに、私の態度に気がついたみんなは顔を凍り付かせたまま、動かなくなった。
「大げさかもしれないが、みんなは安全なところに行ってくれ」
「アギト、お前はどうするつもりだ」
「俺は、一五年前の事も含めてこの事件を調べる。上にも上申して復職を願うつもりだ」
それを聞いた両親は肩を叩き「気をつけろよ」と言葉をかけてくれた。
「ごめんな、折角のパーティーをこんな形にして」
「いいんだよ、いずれ言わなきゃ行けないことだったんだから」
私はお袋の言葉を聞いた後に床にまいた、ごまポン酢をお掃除ロボと共同で後片付けを始めるのだった。
翌日、私は特別回線でミッチェル長官に上申の報告をお願いした。案の定、長官の唇はかみしめていて、かなり歯がゆい思いをしている感じが私の目からも明らかだった。
「と言う訳なのです。最近おきている拡大自死は一五年前と何か関わりがあるのでは無いかと思うのです」
「話はわかったわ。しかし、あなたは休職中のみであるあなたを復帰させるには、かなりの時間を要することになるわ」
「それなら、スムーズに行く方法としてこれはどうでしょう。マリエッタ教の聖職者がマリファナ入りタバコを吸引していたというのは?」
「・・・・・・いいわ、ただし、二週間だけよ。それ以上は正式な手続きをしないといけないから。それまでに事件の真相を調べなさい」
私はそれを聞いて特別回線を切り、スポーツタイプの電動バイクにまたがり、事件を担当した公安庁の本部ビルに向かった。
公安庁の前では空気をピリピリさせながら私の到着を待っていた。まあ、それも仕方が無い。力関係で言えば私の方が長官色より遙かに大きいのだから
私は身分証を提示して門をくぐり、建物の地下にある資料室に向かって事件に関する内容を閲覧した。
内容は事件発表では隠されていた現場の惨状が写真や動画となって残されていた。しかし、その中にあるべき物がないことに気がついた。
「あいつらの死体がない」
そう、死者が出たのなら、ここにあるべき物。死体の写真が載っていなかった。私は一枚一枚資料を目に通して、死者に関する資料を見た。
事件の中心人物であるA少年を含む一五人の少年少女は毒ガスで瀕死の重傷を負いながらも、一命を取り留めた。
「おかしいぞ、生存者は私一人のはずなのに」
私はすぐにその事情を調べるために担当した捜査官達の名前を調べて、秘密に名前をコピーを取り行方を追うことにした。
「何か、わかったことでもありましたか?」
付き添い名目で監視にきた職員が私に質問を投げかけた。
そのいつ門にたして私は「まあ、色々とわかったことがありましたよ」と答えて、その返答の一つとして。「所で子供達の持っていた銃は処分されたのでしょうか」と聞いてみた。
「そう聞いておりますが」
「知らないのですか?」
「その後、国際宗教機構の職員と名乗る人たちがやってきて、銃器を始めありとあらゆる証拠物品を捜査資料の写真やデータだけを残して持ち去ったのです」
それを聞いた私は少し驚いて「何もかもですか?」聞き直すと職員は黙ってうなずく。
私は何か隠さなくてはいけない何かを含んでいる事を感じずにはいられなかった。
建物から出た私は経過報告を本部に連絡をいれて、次に私が入院していた月野瀬会病院に向かうことにした。
月野瀬会病院は月面基地を拠点とする宗教団体ムーンセルフを母体にした総合病院。ここは大学病院並みの設備と医療技術を持つ事で有名で私もあの事件の後に入院させられた。ここならカルテとかありそうで、なにかわかるかもしれない。
「それで、当時の執刀医とか、関係者は見つかりますか?」
「すみませんが、これらは個人情報ですので。私たち一塊の医師はなにも・・・・・・」
受付の人間が丁重に断りかけたため、手帳をかざして身分を明かす事にした。
「それでは、少し待っていてください」
そう言って、少し待つことにした。私は暇を持て余してテレビを見ることにした。
「速報です。ツエルコフスキー基地で大規模な暴動が起きました。暴動の中心になっているのはムーンセルフの信者で、彼らは殉教を叫び次々と銃を乱射、無人の機動兵器によって賃あるされたとのことです」
これは月の方でもかなり騒ぎが大きくなっているみたいだった。今頃上も大あらわになっているに違いない。
「アギト監査官。お待たせしました。医院長がやってきました」
「ご苦労、では少し時間を取らせてもらうよ」
私は図々しく、応接間に入っていく。中では渋い顔をして私をにらむ偉そうな初老の医師と中年二人が鎮座していた。
「国際宗教機構の監査官がこのような一介の病院に何のようだ」
「・・・・・・私の顔を覚えていませんか」
私のぶしつけな質問に職員は怪訝な顔をして見つめる。
「知らんな、私はあなたのことなど記憶にないが?」
「ああ、そうですか。私もあなた型みたいな偉いさんは覚えてないよ。なにせ、ここに入院したのは一五年前の事ですから」
「一五年前というと、確か少年少女の起こしたカルト事件の事ではないか?」
どうやらその事件に関しては覚えているようで、私はさらに突っ込んだことを聞く。
「そのとき、助かったのは少年一人だった。そうでしたよね。そこで手術を受けて一命を取り留めた」
その一言に医院長はくわえていたタバコを口から離してそのままパクパクさせた。
「も、もしや君は?」
「ようやく思い出したようですね。最も送られてきたstg45ライフルの認証に引っかからなかったら、気がつかないところでしたよ」
ほかの二人はただ黙って下をうつむいただけだった。
「一体、何が目的だ?」
「気休めですから、テレビでも見ましょう」
私は端末を使って、備え付けのテレビにスイッチをつけた。そしてちょうど、さっきの事件が大々的に報道されていた。
「このニュースか。うちの母体も大騒ぎになっているだろう」
「確かに、でも、この事件が十五年前に起きた事件と関連があるとしたらどうでしょうか」
「え、何だって?」
私は撮影された映像の中にさっきのマークを見つけ、『あのマークを見たことは?』とみんなに質問する。
「なんだろう、どこかで見た気がするな」
「あれは俺が子供の頃に崇拝していた神様のマークです」
「なるほどな、でも、何で今頃?」
「それはわかりません。ですが、今回の事件と何か関連があるとにらんでいます」
そう言って、私は前に見せた、火災現場の写真を彼らに公開した。まるでコロンボや古畑のような行動で規定違反だがそんなこと気にするいとまもなかった。
「私もテレビで見ていたし、他の子達にも同じような跡があった。
その医院長の軽率な発言を私は見逃さなかった。
「他の子、他の子もここに運ばれたのですか?」
「そ、それは・・・・・・」
「教えてください、本当に私だけですか。助かったのは?」
三人が三人、渋い顔をして互いを見合い、仕方が無くその重い口を開いた。
「わかった、正直に話そう。確かに君も含めて全員助かった。いや、助かったというのは語弊がある。あのとき君たちの脳だけが無事だった。肉体部分はガスを長く浴びたせいでもはや使い物にならなくなっていたから」
「それで、脳移植というわけですか。しかし、よく一五人物憂し患者が見つかりましたね」
私の言葉を聞いた三人が三人首を横に振ってそれは全く違うと言った。
「君しか都合がつかなかった。残りは国際宗教機構の大本である各宗教宗派に引き取られてしまった。新しい肉体が手に入ったらそれに移植すると言ってね」
「それから、私の仲間はどうなったのですか?」
「それきり何の音沙汰もない。私たちは嘘の発表をするしかなく、警察にもそう上に掛け合って、そうするように言うほか無かった」
「・・・・・・わかりました、ありがとうございます」
私は一言お礼を言ってこの病院を去ることにした。一五年前に一四人の脳が各宗教に連れて行かれた。これは一体どういうことを意味するのか。
そこへメールが届いた。差し出し人不明のそのメールはただ地図と航空ルートだけが書かれていて名前などは書かれていない。
私は一抹の不安を抱えつつも月野瀬病院の門を出るのであった。
その日の午後、私は極東バルトのナハシティにいた。ここはかつてある国の一部だった頃、一部の国防軍が電撃的に起こしたクーデターとそれによる周辺の経済と軍事地域を占領し『アジアのバルト三国』を表明して独立。その軍事経済を武器に別の共同体に合流。現在では周辺国を超える経済と軍事の大国として栄えている。
「確か、ここに運ばれた問いのだがな」
私はここでリングル教のナハ支部に向かっていた。ここに二つの脳が運ばれてきたらしいと言うのだが、その痕跡などみじんもかけらもなかった。
そこにあるのは聖女めいた美しい女性とお付きの女の人が人々に説教をしているところだけだった。
「うわ、目がおかしくなりそうでいやな光景だな」
私は思わず本音を口ずさんでしまった。その一言をその聖女めいた女性が耳に入りには刺して時間が無かった。
「そこの男よ、私の説法が気に食わないようだな」
驚いて足組みしていた足を下ろして直立不動になってしまった。さすがにこの状況では言い逃れはできない。
「こちらへ、ちこうよれ」
私は条件反射的にナイフを構えて、差し違える準備を始めていた。なぜそう考えたかは知らないが、そんな気がしてならなかった。
「下手なことはしないでください。私はこれでも無神論者なので」
「まあ、なんとかわいそうな人。あなたもいずれ神の存在を知ることになるでしょう」
私は腹の中にある怒りをこらえて、その女の華美な言葉に心の飲まれないよう粘る。
不意に手を出して何かを差し出すかのような仕草をした。不覚にも私がその手を取ると何かを握らされた感触を覚えた。
わたしは不意に何か懐かしい感触のような物を感じてしまったが、すぐに条件反射的に撥ねのけ、すねに蹴りを入れたままその場を後にする。
「不敬だ」と言う四方八方の抗議など気にもとめずに、私はそそくさとその宗教施設の扉を蹴破って逃げ出した。
運悪く、その日はスコールで、滝のような大雨が降りそそぎ、人々は次々と建物の陰の中に隠れていく。
私はやむを得ず、宗教施設の屋根で雨宿りをして、渡された紙のメモを開いた。内容は以下の通りだった。
〝今日の夜、ナハのバスターミナル近くにある転車台跡の所で再会しましょう〟
そのとき私の移植された脳細胞に電流が走ったような感覚が襲った。
「まさか、あの女が昔の仲間なのか?」
疑問はつきない。だが、気にしている場合ではない。ちょうどよく雨が上がり、私は急いで銃器の闇市場に急いだ。
闇市場は旧ゴザの基地にできたスラム街に隣接していて、多様の人種が生活をしている。
私はその中で中近東の兵器を密売する地域に足を急がせた。そこで私はクルツ弾のケースを二箱購入して同じくイエメン辺りで入手したというstg44の断層も一緒に購入して装備を調える。
勿論、銃は持っている。一五年前にそろえていたあの思い出の銃だ。私はすぐにホテルに戻り、銃器の手入れをして攻撃のための準備を始めるのだった。
その日の夜。私はモノレールから降りて、電気バスでごった返すバス乗り場に向かう。
ここはかつて線路があって鉄道の始点として活気づいていた所だと聞いている。ネットで調べたところによると、ここでよく機関車の方向転換をしていたのだという。
「ここらしいが、あの聖女もどきはどこにいるんだ?」
「聖女もどきとは失礼ね」
私は振り向くと、さっきの神々しい服装とは打って変わって、昔のアメカジという格好をした、あの施設の聖女が光学迷彩をまとってやってきた。
「ずいぶん、派手で時代錯誤な格好をしてきたな」
「この町で、さっきの格好でやってくると目立つでしょう。お久しぶりね。アギト君、いや今はアギト監査官、と言った方が良いかしら」
お昼の聖女めいた言葉とは想像できないくらいに気さくに話しかける。しかし、私にはその聖女がどこの誰なのか皆目見当もつかない。いや、それ以前にこの女が私の仲間なのかわからない。
「お前は何だ?」
「何だって失礼ね。折角、一五年ぶりに再会して、やってきたのに」
「そうですよ、忙しいなかで抜け出してきたのですのに」
ふくれっ面する辺り、この女が私の仲間だと訴えていることは何となくわかった。
でも念には念を入れておかないと行けない。私はライフルを取り出し、二人に銃口を向けて、動かないように脅す仕草をした。
周りの人たちも思わずぎょっとした表情で見つめたかと思うとすごすごと逃げていく。
そして銃を上に向けて、これを握って見ろと無言に押し通す。
「その銃は私たちが持っていたstg45ね」
私に渡された銃を握ると、ロックがかかり、動かなくなった。私は次に、「自分の目でロックを解除できるか」と聞いてみた。
彼女は銃の光彩認証を通してみると、電子音がしたかと思うと銃のロックが解除された。
「どう、これで信じてくれた?」
「これだけじゃ信じないぜ。仲間なら昔、カストロン様の入れ墨をいれていたはずだ」
これは嘘、よくある引っかけの言葉だ。本物なら「ええ、みんなで一緒に、入れ墨をいれたわ」と、答えるのがよくテレビとかで流れるオチだ。
「馬鹿言わないで、そんなのいれているわけ無いでしょう」
当たりのようだ。間違いなくこの女は私の仲間の一人だ。問題はこの女は一体誰なのかということだ。私は履歴を確認するために端末をかざす。
『このライフルの使用者はアギト。もう一人はミコトであることが確認された』
ミコト、それは私の仲間の一人で近所でもよく勉強ができると言うことで評判の女の子だったのはドナーの記憶によって上書きされかけた記憶の中で覚えていた。
「お前ミコトか。しかし、眼鏡で地味っ子だったお前が聖女とは笑いが止まらないぜ」
「あなたこそ、カストロン様を私たちが見ても病的なほど信仰していたのに、今じゃ、無神論者になるなんて、おかしいじゃない」
彼女の指摘されたとき私は首をひねった。私の記憶の中にそのような考えを持っていた事を全くって良いほど思い出さなくなっていた。
「覚えてないでしょうね。私も彼女の体に私の脳を移植されてから、ナノマシンとサイコセラピーで完全に彼女の影武者(ドッペルゲンガー)に仕立てられたの」
彼女の言葉を聞いてなるほど、それで感上げが簡単に変わったというわけだ。
「それで、わざわざ、俺を見つけ出してここに来たと言うことは、何か話しがあると言う事だよな」
「・・・・・・そろそろ、頃合いだと思うけど」
私は一体何の事だろうと不思議に思った直後に各ラジオから大音量で声が聞こえてきた。
「我らカストロンを信じぬ者と信じる者よ。皆よく聞け、一五年前我らカストロン様を信仰する一五人の殉教者達は長きにわたる影武者生活を強いられているが、今こそ、七つの宗教の楔から、解き放ち尚且つ。その上で七つの宗教を滅ぼし、カストロン様の手で世界を再生へと導く」
その言葉はどこか懐かしく、その上で息苦しいぐらいにつらかった。まるで体の全てが拒否反応を起こして、脳を吐き出そうというそんな感覚だ。
「な、なんだ、これ」
「どうやらあなたの体が持ち主として受け付けないようになってきたようみたいね」
「一体どういうことだ?」
そう言って私がかの達を見てみると、彼女たちの方でも同じように苦しそうな表情で倒れているのが見てわかった。
「この放送はある特定の声が発せられる言葉や音源音質などで特定の宗教に反応して、人を自死に追い込む作用があるの」
「じゃあ、これらの最近起き始めている集団自死や拡大自殺はお前らが?」
私は真相の核心部分を捉えたように思えたが、彼女は笑みをした後、首を横に振った。
「少し違うわ。これは私達のからだが狂気を起こして始めたのよ。もっと言えばこの事件のはじまりは私たちがカストロン様を信仰し始めたときからよ」
「まさか、俺たちの殉教は誰かに仕組まれていた者だというのか」
「私たちも最初は信じられなかったわ。でも、このドナーとなった本物の聖女さんが私たちに指示を下したときに、全て吐いたわ」
ドナーがしゃべった?私には全く理解できない発言だ。まるで今でもそのドナーが生きているかのような口ぶりだったため、どういうことだと聞いた。
「今はここでは話せないわ。でもあなたもきてみればわかるわ。あのお方の姿を見れば」
「おい、それは一体?」
私が話しかけたときに、待ちの中でまたもや悲鳴が起き始めた。見るとバスが勝手に通りに猛スピードで人々をはねていた。そして、タイワン軍の車列に突っ込み、再びバックしてひこうとしたとき、旧米軍崩れが質流れの銃をバスめがけて何発もうち込んだ。
窓はあっという間に蜂の巣となり内側に血が飛び散って動きを止めた。
その姿を見た人々は呆然としながら近づいたときに、今度は別のバスが暴走して近くのホテルに突っ込んだかと思うと、今度は全身血だらけの男が中国語で何かを叫びながら、ピストルを持って人々めがけて引き金を引く。
よく見ると、その人々はさっき一緒にお祈りをしていた信者ばかりだった。
「おまえ、一体何をやった」
「私はわからないけど、恐らくさっきの説法に問題があったようね」
「おい、その説法で信者を洗脳したというのか?」
「ご名答、その通りよ。私の発したスピーチの中に人を動かす何かがあったのよ。残念だけど、今の私にはどのようにしたかはわからないけど」
それを聞いた私はなるほどと納得しつつも、早いとここの苦しみから逃れたい思いも一緒にない混ざっていた。
「ナノマシンでも打ち込んだ方が良いかな?」
「別にかまわないけど、覚悟を決めた方が良いと思うわ」
不思議に思いながら私はふらつく体を引きずりながらもパニックになる人混みに向かって歩いて行く。そこにはナノマシンの販売店があるからだ。
「アギト、来月に宗教サミットがあるわ。同窓会と思ってきてくれない?」
「・・・・・・考えとくよ」
私はその言葉を背に修羅場の中へ消えていった。
彼女と抜き差しならぬ再会をしてから四時間経った深夜、まだ、あの苦しみが収まらない。やはり、拒絶反応なのか苦しい。と言うか何か混乱のような者に思えた。
「何なんだよ、一体」
私は首に使い捨ての注射器を打ち込んで、ナノマシンを体内に入れた。店の話しでは効果が出るまで時間がかかるとのことだが、悪化するよりかはましだと思った。
「それにしても、生きていた事は事前にわかっていたけど、まさか、影武者として活躍していたとはな」
私は持っていたstg45を取り出して清掃を始めようとしたときに、端末からコールが鳴った。それは長官からの者で私は銃をベットにおいて、コールをタップした。
「長官、お久しぶりです。事件が起きて大変ですよ」
「今、ニュースを見ていたわ。大変な騒ぎだったわ」
私は長官の体で尾が何かいつもと違う感じがしたみたいで、少し不思議に思いながら話を聞いていた。
「長官、実は・・・・・・」
「話さなくても良いわ。あなたが脳移植で助かったことも、そしてほかのみんなも無事だったことも」
私は思わず目が飛び出しそうになった。情報が漏れてしまったのだと感じてしまった。
「驚いたでしょう。込み入った理由があるの。今のあなたの体は私の息子の者だったの」
「長官の?」
「ええ、息子がドナー登録していたから、同意書を書かされたわ。丁度そのときにあなたたちが運ばれてきたから」
そう長官が言った直後に「まあ、私的な半紙はここまでしといて」と話を変えた。
「二つ聞いて良いですか、一つがいつ気がついたのですか?」
「少なくとも、採用試験の時の医療カルテを見た時ね」
「もう一つが、息子さんは無神論者ですか?」
「薄々気がついていたわ」
その言葉を聞いた直後に私は急に頭が混乱し始めて、体がおかしくなりそうになってしまった。頭の中で神はいないとかカストロン様とかが交互に出始めて、パニック状態だ。
「どうした?」
「な、何でもありません。それより三国でおきた馨はリングル教の説法とか受けましたか?」
「いいえ、でも、ネットでバイブルを読んでみただけよ。ただオーディオブックだけど」
「そ、それを送ってもらいませんか?それと、私を何らかの方法で次回の宗教サミットに送ってもらえませんか?」
「それは手段は問わないと解釈すれば良いのね」
「そこは創造にお任せします」
そう言ってコールを切った後は頭の狂った私は倒れ込んでしまった。もう銃の整備をする元気もない。
「・・・・・・しまった、オーディオブックを聞かなきゃイケな・・・・・・」
そう頭の中で考え込んだ直後に私は木を失ってしまった。
気がつくと、沖縄の太陽が水平線から昇り始めていた。ゆっくりめを開けたとき思わず体を起こして、今何時だと端末を探す。
端末は銃の横に転がっていた。私はお知らせを確認すると頼まれていたオーディオブックがメールで送られていた。
「これがリングル教の説法か」
私は万一に備えて、銃から弾丸を抜いて、弾丸を遠くに置き、ナイフ一式も引き出しにしまって鍵をかけた。
そして、オーディオの再生ボタンにタップしてイヤホンに耳を傾けた。
「・・・・・・人は勿論、虫も植物も生き物の魂は水の循環のように動いています。そして、そこから生まれて消えて・・・・・・」
それはなめの由来にもなった円環の話しそのものだった。そこには人の救いがいるのだとか色々言っていた。
その直後、私の頭と心に何かおかしな考えが浮かび始めた。
『私は殉教する。そして、人々に安息の安らぎを求める。そして、その安らぎを妨げる者を排除し、安らぎを求める者を導くのだ』
その考えが頭の中にぐるぐると回転するかのように出てきた。そして、いつの間にかライフルを持っていた。
そして、この穢らわしさを浄化しなくてはと考えてしまった。
「失礼します。ルームサービスです」
運悪く、そこにはホテルの係が朝食を持ってきてくれた。その瞬間、私は銃口を向けて殉教と叫びながら引き金を引いた。
「ひい!」
係は思わず腰が抜けてその場で倒れてしまう。そのとき一瞬我に返り、端末をタップして止めてしまった。
私は荒い息を出しながら、その鬼のような形相を係に向けた。係は恐怖で止まっていた思考を再び働き出して逃げ出してしまった。
「俺は一体どうしたんだ?」
そう考えていたときに、あの考えに見覚えがあったことを思い出す。それは一五年までにみんなで一斉に言い合った殉教の言葉だった。
まさか、馨はこの言葉を聞いて火だるまになったというのか。信じられなかった。
「でも、なんで今頃?」
不思議に思いながら、鍵を取り出して、断層を取り出したときに、事態を聞いた慧敏がピストルを持って私の部屋に入ってきた。
「動くな」
「ま、待ってくれ、私はただ」
「言い訳は跡でゆっくり聞くから持っている物を床に落とせ」
(こりゃあ、まずいことになった)
なんとかしないと。私は普段は使わないライフルを使った近接戦闘術を使うことにした。
幸いstg45やたら頑丈にできていたため。ちょっとやそっとでは壊れることはなく、鈍器代わりにもなったため、簡単に倒してしまった。
「さて、急いでに支度しないと」
私はすぐに荷物を積み込み初めて逃げ出す準備を始めるのだった。
『間もなく開催されます宗教サミット。今回は大厄災の始まりでもある北米最大の都市で行われる事になりました・・・・・・』
あの出来事から二ヶ月が経った。その間にも世界中で殉教がおこなわれて人々に恐怖を植え付けていた。
私は念には念を入れて、下準備をしていた。月野瀬病院にも連絡をいれて事が済んだときの下準備もして置いた。
『今回の議題はやはり地球内外で行われている。殉教という名の拡大自殺や大量殺人についてです。世界中でナノマシンや電子タグなどの導入によるシステム化で無くなりつつあった大量殺人がここに来て一気に増え出して、世界各地でシステムの強化などが議論されるらしいです。また・・・・・・』
北米の新興都市では連日サミットの内容を知らしていた。まあ、当たり前だがこんだけのことを起こしておけば警戒をしない方がおかしいという物だ。
私は長官の計らいで会談が行われる宗教施設での清掃員という肩書きで入ることができたが、それはあくまでも肩書き、下手なことすればつまみ出されるぐらいではすまない仕打ちを受けるのだ。
私はシーツの山の中にstg45を隠し持ち、それをキャスターで運びながら、ミコトの指示した場所に向かっていた。
外の方では人々がシステムに対する不満とも不安ともとれる抗議の声を上げながら、救いを求めていた。
他力願望のことを言うのかもしれない。救いなど他人に求めるのではなく自分の力で解決する物なのだ。この考えは長官のご子息か自分なのかは未だにはっきりしないところがあるが、今はそんなことに気にかける必要は無い。
私は清掃員の格好から警備員の格好に着替えて、偽造したパスで施設の一室に入った。
そこには聖女の影武者であるミコトがベットの上でお祈りをしていた。その姿を見るだけではまさに美しき聖女そのものに見えたが、中身はある意味洗脳を受けた私の仲間だった。それは私自身もそうである。
「清掃にやってきました」
わざと嘘をついて、こっちの反応を伺った。彼女は驚いてこっちを見たが、私の顔を見て、すぐに祈りをやめて、こっちに立ち直った。
「アギト君、よくここにこれたわね」
「ここにこれるように長官からの計らいでね。そっちの準備はできているかい」
「ええ、もうすぐ撮影が済んだら、ここにある会議室に降りていく手はずになっているわ」
私はそれを聞くとシーツの中からstg45を取り出して、弾倉を取り付けて寿を撃てる準備をした。
「それを、わざわざ持ってきたの?」
「この銃は俺たちのバイブルでもあるからな。それに万一に備えてもう一つ準備をしておいた物がある」
そう言って、私が取り出したのは化学兵器とナノマシン兵器の詰まった容器だった。勿論使うつもりはないのだが、万一に備えて、とある場所から盗んできた物だ。
「どうするの、それ?」
「プランBに備えた物だ。ガスと指向性ナノマシンを混合していたやつをリュウキュウの裏市場からもらってきた。黙ってだけど」
それを聞いたミコトは突然頭と胸を押さえながら苦しみだした。どうやら、昔のトラウマを蒸し返したようで、やけに苦しそうな様子だった。
「おい、大丈夫か?」
「へ、へいき、ちょっと苦しくなっただけだから」
彼女はそう言って備え付けのコップを取り出して、水をくみ一気に口の中に流し込んだ。よっぽどこれがいやだったに違いない。
まあ、これのせいで脳移植する羽目になったのだから仕方が無いことなのだが。
「少し落ち着いたか?」
「ええ、なんとか・・・・・・」
彼女がコップを置いた直後に端末のアラームが鳴り「もうすぐ、会議が始まります。支度してくださいという」敬語を使った女性の音声が響いてきた。
「わかったわ、護衛と一緒に向かいます」
そう言って端末をタップして出かける準備を始める。
「じゃあ、一緒に行きましょう」
彼女は友達感覚から聖女の影武者感覚に変わって、私との動向を促す。
私も護衛としての自覚を持ちながら彼女とともに部屋の外に出て行く。
廊下は妙に長くなっていて、周りには明らかに装備過剰な武器を携帯する警備員がサングラスのお国かが役目を光らせながら睨みをきかせていた。
「さすがはサミットを開くためだけあって警備は厳しいな」
「し、大きな声を出さないの」
私は思わず口を閉じてしまい、その様子を警備員が睨みをきかしていた。外の方では人々の抗議の声が時より反響して私たちの耳に届くのがわかった。
歩いて三分してようやく目的の会議の場についた。私の目の前には巨大で荘厳な扉が重厚な威圧感を醸し出して、私の侵入を拒んでいるかのような雰囲気を出していた。
「いよいよ、懐かしい再会よ」
「ああ、覚悟してるから、早く入れてくれ」
私のその一言で重厚的な音を響かせて、その扉がゆっくりと開いた。そして、私の目の前には、長いテーブルに各宗教の主要聖職者たちが優しい笑みを作って、私を胃や彼女を出迎えてきてくれた。
その周りには多数無人カメラが飛び回り、撮影を始めていた。それは地球内外の報道関係者の物だった。
ここは神聖な場所のために一般人がけがさないよう投入したらしい。
「わかっていると思うけど、ここで気やすい態度を出しちゃだめよ。そんなことしたら大変な目に合うから」
「俺をだれだと思っている。伊達にこの業界で修羅に修羅くぐってきたわけじゃないから」
耳元でそのように返した後に、彼らの一人ひとりを見てみた。恐らくこの連中は人数的に見て、昔の仲間が暗示やナノマシンでの移植で自分が本人だと思い込んでいる奴らだ。
一応端末には念入りに準備をしていた、私を含む一五人のデータを出すチャンスをうかがっていた。
「それでは、皆さん。これより、会議を始めますから、お下がりください」
聖職者の一人が手を挙げて下がるよう指示すると、無人機たちは羽を取を響かせながら、穴の中に消えていった。
「……アギト、もう、警備員の真似をする必要はないぞ」
私はその言葉を耳にして、銃口を片手に持ち、もう片方で端末を使って、一人一人の遺伝情報や生体認証を確認していった。
反応は二種類に分けられて、一方が肉体の持ち主である、聖職者たち。そして目の部分はかつてカストロン様を崇拝していた、私の仲間の反応だった。
「これで、気が済んだか?」
若い聖職者の一人が私の行動に面倒くさそうな顔をして聞いてきた。
「今のところはな、お前ら一五年間いったい何していたんだ。それになんで影武者なんかになる必要がある?」
「まあ、いっぱい聞きたいことがあるのは分かるわ。もっとも我々も最近本来の自分を取り戻しかけたところなのよ」
最近、取り戻した?一体どういうことだ?そんな簡単に自分を取り戻せるのか私の疑問は風船のように膨らんでいくばかりだ。
「まずは、一五年前に我々は一度死んだ。アギト、お前も含めてな。そして、脳移植で我々は助かった。そこまでは知っているな」
私は黙ってうなずいた。そしてさらに話を続け始める。
「我々のドナーの先が問題だった。そのドナーがまだ候補生だったころの今の身分だった。その時彼らは自分たちの意志で脳だけを摘出された」
「何のために、そんなことを?」
「……システムの一部になるためだったのだ。しかし、それだと後々面倒なことになるから、替え玉としての人物を探したら丁度良く我々を選んだ」
「それで、移植後にドナー本人だと思い込ませるための処置も行われていたと?」
「まあ、そんなところね」
私はその時にすぐにいぶかしんで、今までのことを考えを巡らませて、再び口を開いた。
「……仕組まれていたな。こんなに虫がいい話があるわけがない。ドナーと言いサイコセラピーといい、最初っから出来過ぎている。いや、恐らく俺たちがカストロン様を崇拝し始めた時からずっと、これが目的じゃなかったのか?」
私が推測を口にし始めた直後にスピーカーから綺麗な聖女の声が聞こえてきた。
「さすが、アギト監査官。一五年前の事件が我々の掌のうちだったとよく見抜いたな」
「その声は、ミコトに体を提供した聖女さんだね。今どこにいる?脳みそだけになってコンピューターとして生きているなんてせこい種明かしはなしですよ」
私の皮肉に一五人分の高笑いが会議室全体に響き渡り、我々の脳みそに振動をあ与えた。
「見事に言い当てたわね。では、ここから先の展開はどうなるかわかるかしら」
私がいったい何が起きるんだと首をひねっていると、ミコトがどこで手に入れたのかペッパースプレーを取り出して私に吹きかけようとした。
とっさに右手で大手目をやられないようにしたが、その直後腹部に電流が流れてそのまま硬直してしまった。
動かなくなった私の体の真上には無表情で一四人の男女が見下げていた。
「やっぱり洗脳は解けていなかったのか?」
「正確に言えば、我々がナノマシンを遠隔操作して操っていただけよ。洗脳が解けかけたのは事実だったから、予備のプランを実行しただけよ」
「くそ、このまま、貴様らの脳みそを破壊してやりたいが、今どこにいるのかがわからないのじゃやりようがない」
「悔しがらなくても、聖女様たちのところに行く手はずになっているわ」
ミコトがそう口にすると、リモコンのスイッチを押した。すると、床がしたにおり始めて、きらびやかな装飾は水槽上の何かに変わっていった。
そして、そこに現れたのは、コンピューターにリンクされた、一五人の脳とそこに待ち構えていたミッチェル長官がそこにいた。
「驚いたな、こんなきらびやかな建物の下が、お前たちの中枢だったなんて」
「灯台下暗しということわざがあるけど、まさにその言葉通りね」
ミッチェル長官は険しい表情で私たちを見つめていた。彼女は私、というか私のなかまである影武者達に銃口を向けて、少しこわばった表情を向けていた。
「俺を殺すつもりですか?」
「いいえ、あなたたちを殺すのよ」
「なぜですか、長官。私たちを殺せば、大騒ぎになりますよ」
あなたたちとは紛れもなく私らであることは容易に想像がついた。でも何で今頃になって消そうと考えたのかわからなかった。
「システムのデータ取りは終了したの。後は、元の体に戻るだけよ」
「データ取り?一体どういうことだ」
「わからないか、アギト監査官」
その声を聞いた私は中央部にある脳に視線を向いた。恐らくあれが親玉という所だろう。
「どちら様でしょうか?」
「お前のドナーだよ。つまり長官の息子だ」
それを聞いた私は目が飛び出そうになるかと思った。同時に話が違うじゃないかと長官に視線を向けた。長官の方は「私も今知ったのよ」という目配せで返した。
「アギト、お前もお袋も驚いているだろ。脳死したって聞かされていたからだろう」
「脳は死んでなかったと?」
「その通りよ、長官のご子息は神を信じていなかったから、システム構築には都合がよかったからね」
「それは合理的に物事を動かすからか?」
私はほかのシステムに組み込まれた脳に質問をした。脳は一斉に「その通りだ」と音声を介して答える。
「聖職者はみんな神秘主義者だと思っていたが、違うようだった」
「おや、私たちが合理性と効率性がないものだと思っていたのかい」
脳髄は私を馬鹿にした口調で鼻で笑った。最も肉体そのものがないためほんとにはなで馬鹿にしているのかは甚だ疑問なのだが。
私は重い体をやっとこさ、体を起こし、銃を杖代わりにした。
「やめなさい、その銃をどちらに向けても、引き金を引くわ」
「長官、あなたには渡しに対して引き金を引くことはできません」
「ほう、なぜだね」
「お前の体を元に戻したいのなら無傷の方が良いだろう。傷がついてしまったら元に戻る確率はぐんと減るからな」
私の言葉に対して「甘いわね」と長官は口を開き引き金を引こうとしたが、彼女中はロックがかかってしまった。
この事態に彼女も驚いてしまったみたいだ。たぶん私の銃もロックがかかってしまっているに違いない。
「お袋、ここで銃は使用厳禁だよ」
「ここは神聖な場所よ、ここでの銃は自動的にロックがかかる仕組みになっているわ」
「それなら、銃で無ければ良いんだな」
そう言って端末のスイッチを押した。脳髄達は「一体何のスイッチだ」と聞いてきた。
「一五年前の亡霊の改良がただ」
「ふはははは、何を馬鹿な。水槽に守られているのに自分が自滅するだけだ」
「でも、守られた要塞からはたたき出すことができる」
それを聞いた脳髄達はしまったと言い慌ててシステムの解除をしようとしたが、それが誤りだった。
私は銃をあげて、守られているはずの水槽に向けてホールイワンショットを打ち込んだ。いくら強固に守られているとは言え、同じ所を何発も受ければ簡単に割れる。
そして最初に狙ったのは私のドナーの脳髄だった。脳髄は溶液から排出されて、見るも無惨な光景になってしまった。
「レビゥーーー」
それが長官のせがれの名前だったのは初めて知った。彼女はなんとか助けようとしたがすでに手遅れだった。
「な、ば、ばかな」
「伊達に一五年もこの仕事を続けていたわけじゃないのでね。でも、あんたらなら換えが効くはずだと思うがね・・・・・・」
もうそろそろやばくなっている頃だ、周りを見ていると彼あの肌もどす黒く変質し始めていた。やっぱり前のガスの改良型はきついな。
「ねえ、私たち、もうすぐ死ぬの?」
「二度目の生が終わるだけさ。もうすぐ三度目の生まれ変わりが始まる」
私たちはもうすぐ死ぬという絶望に打ちひしがれた仲間達に励ましの言葉を口にした。だがこれは単なる希望論ではなく、前もって下準備をしていた私の一つだった。
当然ではあるのだが、ほかのみんなは気がつくわけがなかった。
『緊急モードに移行、システムをバイオ対策モードに移行し、脳部分を外に排出、システムを緊急停止します』
お決まり文句の言葉とともに脳がカプセルが二重の水槽から出された瞬間を私は見逃さなかった。
「これでも食らえ」
私は肌が黒くなりかけた体にむち打って、ライフルをケースが割れるまで撃ち続けた。一つのケースを割るのに二〇秒ぐらい、弾は一つに尽き十発。つまり三〇発弾倉につき三つの割合、合計五個の三〇発弾倉を必要とした。
ケースに入れられた脳髄が一つまた一つと割れるごとにシステムが崩壊していくのが感じ取れた。
『システム中枢に、異常発生、モジュールを一部切り離します』
アナウンスが次々とながされるごとに、輝いていた量子コンピュータの輝きがなくなり機能を止めていく。
「無駄なあがきだ、そんなことしたところで私の代わりはいくらでも」
「そう、あなたの代わりがあるように彼の代わり、正確には彼の意思を継ぐ物がね」
そう、死にかけた体になりながらも、どこから取り出したのかstg45を持って、私の破壊活動を支援した。
どうやら、彼らの支配もシステムが破壊ないし停止することにより支配から解放されているみたいだった。
「お、おのれ、ば、ばかなこと・・・・・・」
「そう私たちはその馬鹿を極める物よ」
そう言って元の腐れ仲間達になった影武者達は笑い合いながら、脳髄だけでなくほかのコンピューターも一緒に銃乱射をおこなった。
次々に鉛玉が撃ち込まれていきながら、煙と火花が上がってその機能を物理的にもシステム的にも完全に止めていく。
全ての機能が停止したのは一時間ぐらい経ったところだろう。脳みそはどこぞの料理の出来損ないみたい、潰れて、移植が完全に不可能な状態になってしまい、至る所にガスと火災の煙でいっぱいだった。
最も私たちも全く無傷と言うわけでもなく、全市が黒くなって死後硬直が起き始めていた。かつての、美しい装飾を着飾っていた服はボロボロで見るも無惨な姿だった。
「ははは、これでよかったんだな」
「ようやくみんな一緒に殉教ができるね」
口々に一五年来の望みが叶った事に喜びを投げ出していた。でも私はわかっていた、殉教はもう少し先になるとわかっていた。
痛む体を転がして長官を見てみると、いつの間にか長官は口に銃を突っ込んだまま事切れていた。
息子が本当に死んだ事に絶望したのか、それとも、ガスの痛みに耐えかねて、一気に死ぬことを望んだのかは今となっては知るよしもない。
いずれにしても、息子の元に行けたことは彼女にとってどれだけ救いになったのか。私はその顔を見ることすらできなかった。
と、突然、床が再び持ち上がり始めて、元の位置に戻り始めた。
見ると防護服を身にまとった月野瀬病院の職員が全員分のキャスターや担架を担ぐもしくは押して現れ出た。
「皆さん、大丈夫ですか?」
「これが大丈夫だと思いますか?」
痛む体にむち打って引きつった笑顔を見せる。職員はマスクが曇りガラスだったため、表情を読み取ることはできなかったが、ため息の音が聞こえたため、あきれていることはわかった。
「とにかく皆さんを緊急搬送します。おい、彼らを早く」
そう言って職員達は私たちを次々に乗せていく。最もその乗せ方は患者を丁寧に扱うと言うより、死体の処理に近いくらいに乱暴だった。
「おい、もう少し丁寧に扱ってくれよ」
「大丈夫ですよ。脳にダメージが無い限りは多生乱暴でも運んでOKだって院長が言っていましたから」
そう言って私に体は、いや長官の息子の体は乱暴に放り投げられて、運ばれていく。
一歩建物の外に出てみるとそこはまさに地獄さながらの光景が広がっていた。さっきまででも活動をしていた人たちは次々隣人を襲い、殴ったり蹴ったりしていた。時に集団リンチを加えたり、車で突っ込んで人をはねていったり、ナイフで人を刺したり切り刻んだりと様々な方法で「殉教」をしていた。
職員達は、その地獄をくぐり抜けんと懸命に、体を盾にしながら、進んでいく。私たちはその光景をただただ見守ることしかできなかった。
なんとか、緊急の航空機が駐機する高速道路にたどり着く。航空機は核パルスに載せ替えた元ジェット機。恐らくジャンボと呼ばれた国宝級の飛行機だった。
それにしても、よくこんな狭いところに着陸できた物だなと今になって考えていた。
開いたハッチにこれまた強引に押し込められて、体がした胃袋のような透明な袋に詰め込まれたのを確認するなり、乱暴に離陸して飛び上がった。
そこから先は記憶が全く定かではないのだが、最後に見た景色ははっきり覚えている。それは窓越しに、煙が上がり火災や爆発音が次々おきた、町の見るも無惨な光景だった。
あの出来事から半年が経った。私達は生きている。いや、正確に言えば生まれかわったと言うべきだろう。元の体の遺伝情報が月野瀬病院に残っていたおかげだ。
月野瀬病院が誇る培養技術で肉体は新しく作られて、新型毒ガスで使い物にならなくなった肉体から二度目の移植をおこなった。
当然ではあるが、遺伝情報が同じのため、拒絶反応は全くおきなかった。
そして、現在の私たちはと言うと、タバコ畑にいる。
勿論ここで再びタバコ畑でタバコをふかしている。
「アギト君、ありがとう。おかげでみんな影武者生活から解放されたわ」
「よしてくれ、そもそもみんなのアイコンであるstg45を俺に渡していなかったら、ここまで大事にならなかったよ」
私とミコトは口々に冗談を言い合いながら、タバコに火をつけて楽しんでいた。
『ニュースです、何者かによるシステム破壊によって各宗教で分裂が起き始めたことを受けて、国際宗教機構はカストロン教に一本化することで合意。これによって地球内外で広まっていた七宗教は一時解体されて、統一することになりました』
「一五年前、俺たちが崇拝していて神様がついに、俺たちの元に戻ったんだな」
私はその感慨深い感情を抱きながら、鉱石ラジオの音声を聞いていた。
「私たちの洗脳も解けたことだし、私たちにとってはまさに大団円ってとこかしら」
私たちは立ち上がって、タバコ工場の地下を降りていく。下では銃器の製造が私たちの許可の元でおこなわれていた。
「しかし、すごいな。これだけの物がたくさんできるなんてな」
「カストロン様の聖遺物として銃器の製造が世界各地でおこなわれているわ」
総彼女が話しているのと同時にラジオからニュース速報が聞こえてきた。
『速報です、新たな地球の統一宗教として一宗教として、そして一カルトとして人々から迫害されていたカストロン教を地球の新たな主宗教として認可されました。これに伴い聖遺物として第二次大戦のアサルトライフルであるstg44、stg45、国民突撃銃の三種類の生産がおこなわれています。政府筋によりますと、粗悪な部材による暴発も起きており、国際宗教機構は安易に安物を購入してはならないと注意を呼びかけています』
人気の聖遺物は痛いなと私は常々感じた。異物が遺物に変わったときにそれで外貨を稼ごうとする輩いることは時代の流れから言って当然の事だった。
ちなみにここで製造されているのは私たちが一五年前から持っているstg45である。人々は日夜、注文が入るとプレス加工などで大量に増産して、世界各地に送っている。
内部機構はG3を参考にして現代でも十分に通用する物にしている。
「アギト君」
「ああ、おばちゃん。だめじゃないか。ここは危ないのに」
「そうよ、ここには火薬もあるから下手にここに入ると危険よ」
私はおばちゃんにそう言って出て行くように言ったが、彼女はスマホを取り出して時間を指し示した。
「大変だよ、私の時計が一〇分遅れていたから、もう時間になっているよ」
「なんだって、そういうことは早く言ってもらわないと」
私たちは慌てふためいて階段を上ってみんなの待つ出入り口付近に集まった。
「遅いじゃないか」
「ごめん、時間がわからなかった」
「今度から気をつけてね」
これで一五人がそろった。私たちはイコンであるstg45に弾をいれ多状態にしながら、その腐りかけた扉をゆっくりと開けた。
私たちの目の前には数十万人もの人の群衆がそこにあった。
全員が全員各の銃を天にあげて「カストロン様万歳、カストロンに栄光あれ」と叫んだ。
そして中枢である我々カストロン教の聖職者は人々に殉教と討滅のための説法を無線を使って訴える。
「人々よ、これより我らは、自らの持つ武器を持って、神カストロンを仇なす邪教どもを滅ぼす」
「皆が一人一人が神の剣となり、神の意志を信じて、自らの意思を信じ続けろ。それだけは誰にも変えることのできない、自らの聖戦だ」
「「「「「カストロン様万歳、カストロン様に栄光あれ」」」」」
田んぼを埋め尽くすほどの人の山は一斉に歓喜の声を上げて、闘争のための士気高揚の言葉を口にする。
「さあ、いかん、我らの戦いの意思に続け」
そして山が崩壊すかと思うほどの私たちの言葉によって、その声は響き渡り、地球の外にまでつながっていくように思えた。
「さて、人々の戦意高揚にも一役買ったことだし、一五年前の誓いでもするか」
そう言って我々は銃を聖剣の近いと同じように向け合って、誓いの言葉を口にした。
そして天に高く持ち上げて、誓いの言葉を口にしてた。
「我ら、カストロン様より近いしこの銃を持って世界に武を持って邪をこの世から消し崩し、異教徒からの迫害をこの聖遺物の力を持って、贖い幾多の血と涙を超えて、その力に飲まれることなくその猛々しい光を人々にみせん」
私たちの力強い言葉を聞いた信者達はこれまでに無いほどの歓喜の声と銃声を響かせて高揚感を高めた。
まるであのときの私たちのようだ。私たちは喜びの思いをかみしめて人々に堂々たる姿を見せるのであった。
聖なる契り @bigboss3
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