0-4

「さぁ、着いたわよ。ここがグランデルア王国を統治するガイア様のいらっしゃるグランデルア城よ」

 眼前に広がるバカでかいお城を前にして、俺は度肝を抜かれる。

 漫画とかで見た事あったけど、流石に実物を見るのは初めてだ。

 でかい。この一言に尽きる。

 堂々と建つ目の前のこいつは己が気品と品格高い事を理解しているように感じてしまう。

 流石はこの国の象徴なだけはある。今や獣風情の俺なんかが入ってもいい場所なんだろうか。

 いや、入れてもらおうじゃないの。その為に来たんだ。

 しっかり、挨拶させてもらうぜ。

「やっぱ自分の足で敷地を跨ぐべきだよな。じゃなきゃ失礼だ」

 言って俺はメルダの肩から降り、目の前の城門前のつり橋を渡ろうとする。

「ちょっと待った。メインストリートはお客様用よ。アンタは私のコネなんだから裏から入るわよ」

 言われて思わずコケる。何だよ。緊張の一瞬が台無しだよ。

「俺だってお客様だろ?」

「あのね。ガイア様はお忙しい方で謁見は国外の王族でも基本ひと月はかかるの。アンタがここを渡って謁見したいって思うのは勝手だけど、それが叶うのは早くて一年後ね」

 一年って。そんなかかるのかよ。多忙すぎだろ、ガイア様。

「仕方ない」

 メインストリートを通れない事は非常に悔やまれるが、挨拶が遅れるのは良くない。諦めるしかないようだ。

「分かったら着いてきて。こっちよ」

 言われて俺はトボトボとメルダの後を着いていく。

 少し歩くと、城の裏にやってきた。

 いわゆる裏口にはメルダと同じ近衛兵の軍服を着た人達が出入りしていた。

 「ここから入るわ。乗って」

 言われて俺はメルダの肩に乗ると、メルダは裏口に向かって歩みを進める。

 裏口の前まで来ると扉の前には長槍を持った門番が二人立っていた。

(あれ?この門番二人とも女性だ)

「グランデルア近衛部隊所属、S級メルダ・ヴァニーロンダ。こちらはグランデルアに立ち寄った冒険者。名をニャス様。ガイア様にご挨拶をと特別謁見の申請を受け、それを受理した」

 メルダはそう言って首にかけていた月の形をした金色のペンダントを門番に見せた。

「どうぞ」

 それを見た門番は扉を塞いでいたクロスした長槍を手元に引いて、中に入れてくれた。

 門番の横を通り過ぎ城内に入った俺達はそれからしばらく歩き、カツンカツンと奥に進んでいく。

 そこで俺は浮かんだ疑問をメルダに聞いた。

「なぁメルダ。さっき特別謁見の申請を受理したって言ってたけど、謁見するかしないかは普通、女王様が決めるんじゃないのか?」

 それにメルダは真っすぐ前を見たまま、静かに答えた。

「さっきも言ったけど、アンタがガイア様と謁見するには早くて一年後。今から一年先に謁見するどの王族より早く謁見できるんだからいいじゃない。それよりもう着くわよ」

 何か分からんがはぐらかされてしまったようだ。何だかメルダは城に着いてから雰囲気が変わった様な気がする。まぁいい。確かにすぐに挨拶できるのはメルダのおかげだし、これ以上は何も言うまい。

「この先にガイア様がいらっしゃるわ。粗相のないようにして」

「おぅ」

 俺の中にも少なからず緊張が走る。王女様に会うなんて初めての事だからな。

 俺は気合いを入れる為に思い切り息を吐き、メルダの肩から降りた。

 するとメルダは王の間の扉をノックして言った。

「失礼致します。S級メルダ・ヴァニーロンダ、特別謁見の冒険者様をお連れ致しました」

 刹那、眼前の王の間の大きな扉がゴゴゴゴと轟音をがなり立てて、ゆっくりと開き始めた。

 時間をかけてゆっくり開いた扉の奥にはレッドカーペットが広がっており、その先の王座にその人は鎮座していた。

 この国のトップ。遠目からでも分かる美しさ。俺の心臓は大きく鼓動を始める。

 俺達はレッドカーペットを踏み締め、王座の前まで移動した。

 レッドカーペットの周りには近衛兵が一列に並び、王座に座る女王様の一番近い場所に眼鏡をかけた女性が手に大きめの本を持って立っている。

 女王様の目の前に来たメルダはその場に片足をついて忠誠のポーズを取る。俺はそれを見て同じ様に真似をした。

「ガイア様。この者が冒険者のニャス様にございます」

メルダは目を閉じ、忠誠のポーズのまま静かにそう言った。

おもてを上げよ」

 そう言ったのは王座に鎮座する女王ではなく、その隣の眼鏡の女性だった。目を開き、頭を上げると目の前の女王がゆっくり王座から立ち上がった。俺は気品高く清楚で麗しいその姿に思わず見とれてしまう。

 女王様は純白のドレスに身を包み、腰まで長い、毛先がロールしているピンクの髪をなびかせ、透き通るような綺麗な顔立ちで、エメラルドグリーンの瞳をこちらに向け、力強く俺を見てからメルダを見た。

 その気迫にピリつくような、重苦しい神妙な空気が流れている。

 刹那、女王は口を開いた。

「メルちゃん! やっほ~お久しぶり~その子が冒険者の子だね! 何か思ったより小さくて可愛いね! 冒険者さんこんにちは! 私はガイア! って口臭くない? 大丈夫? いや~さ、本当は今日謁見の予定なかったから、昨日の夜これでもか~ってくらいにんにくマシマシの奴食べちゃったんだよね~でもさっきメルちゃんに会ってほしい人がいるって聞かされてさ、友達の頼みだもん! 口臭いかも知れないけど……」

「ガイア様!」

 そこで隣の眼鏡の女性が女王様の名前を呼んで話をさえぎった。

 呼ばれた女王様は眼鏡の女性を見て、いけないいけないと咳払いをして仕切り直す。

「よくぞ、参りました冒険者様。お待ちしておりました」

「いや、無理だろぉ!!」

 俺は思わず、女王様に渾身のツッコミをしてしまった。

 広すぎる部屋に、俺の声がこだまする。

刹那、レッドカーペットに並ぶ、近衛兵達が一瞬で俺の周りを囲み、長槍をこちらに突き付けた。

 近衛兵達の隙間を横目で見ると、眼鏡の女性が驚いて口を大きく開けて、固まっている様子が見えた。

「無礼者め! ガイア様になんて口を叩くんだ!」

 お怒りの近衛兵の皆さんに俺は、

「なんちゃって! 的な?」

 おどけてこの場をどうにかしようと試みた。

「貴様、馬鹿にしているのか!」

 YES 逆効果。

「ちょっと待って!」

 するとこの状況はまずいと思ったメルダが咄嗟とっさに止めに入ろうとするが数に圧倒され、メルダは俺が囲まれた輪の中に入っていけない。

「止せ! お前達」

 刹那、その声が部屋中に響き渡った。

 その言葉に近衛兵達は静まり返り、一列になって、女王様にひざまづく。

 王座からカツンカツンとゆっくり俺の前に女王様が歩いてきた。

俺の眼前に立った女王様はその場でしゃがみ込み、俺の顔を見て口を開く。

「だよね~! やっぱりあそこから立て直すのは無理あるよね~」

 女王様はそう言うとはははと高笑いをして、踵を返して、王座に鎮座した。

「ガイア様!」

 またもや眼鏡の女性が女王様の名前を呼んだ。

「だってぇ~しょうがないじゃん! メルちゃんは友達だよ? 最近話せてなかったし、それにあの話し方疲れるんだもん。私に全然合ってないっていうか、友達とくらい普通に話させてよ~」

「いけません。ガイア様はこの国の王です。上に立つ者としての心構えはしっかりして頂かなければ」

「はいはい。ま~たいつものお小言タイムね~それは耳が無くなるくらい聞きましたよ~だっ」

 目の前で突然始まった女王と眼鏡のお姉さんの言い争いに俺は拍子抜けし、ぽかーんと口を開く。

「メルダ、何これ?」

 今繰り広げられている状況と思っていた女王像との違いに俺の頭は混乱する。

「ごめんなさい。ちょっと待ってて」

 言ってメルダは喧嘩中の二人近づき、言った。

「ガイア様、マルチェ。お客様が見てます」

 言われて、二人ははっとしてこちらを向いた。

「これは申し訳ございません。大変お見苦しい所をお見せしてしまい……」

「冒険者さ~んごめんね~」

 俺にそう言って深々とお辞儀をした眼鏡の女性の横で、女王様がにっこり笑いながら、謝罪した。

 その女王様を見て、眼鏡の女性は、女王様を一瞬見て、ガイア様! と小声で言った。

「い、いや驚いたけど、大丈夫ですよ」

 まぁ、俺も女王様に思わず突っ込んでしまったし。

「改めまして、こちらはグランデルア王国の王、豊穣女王デーメーテールの異名を持つ、ガイア・マーウス・グランデルア様にございます」

 こほんと咳払いをした眼鏡の女性は高々とそう言った。

「やっほー! ガイアだよ」

 眼鏡の女性は顔はそのままに、目線だけ女王を見て睨みを効かせ、一息つくと言葉を続けた。

「そしてわたくしはガイア様にお仕えするだっ……」

「お目付け役のマルチェだよ」

 ガイア様はマルチェ? さんの言葉を遮った。

 ごほんごほんと強めの咳払いをし、マルチェ? さんは続けた。

わたくしはガイア様にお仕えする大臣のマルチェ・ベアードと申します」

 マルチェさんは茶髪のボブカットにイエローの瞳、おしゃれな丸眼鏡をかけた、体型はスレンダーで襟が首にフィットした、肩から腰に掛けてスラっと細身の体系が目立つ、手首にフリルのついた黒装束を着ている。

「お初にお目にかかります。私、冒険者のニャスと申します。この度はこのグランデルア王国に辿り着き、国民の優しい人柄に惚れ、ここに拠点を設けたいと思いまして、貴殿へのご挨拶と共にその許可を頂きに参りました」

 我ながらにこんな言葉よく出てきたと感心する。

 前世で漫画やアニメに触れていた事が効いた瞬間だった。

 とはいえ、今言った事はそれっぽく言ったわけではなく本心だ。

 挨拶は当然として、これからはシュシュやメルダと生活を共にするんだ。急に知らん奴が自分の国に住んでいては女王様もいい気はしないだろう。だからちゃんと許可を貰いに来たってわけだ。

 それにシュシュやメルダの人の好さに救われたのも本当だ。

 そんな二人が暮らすこの国は間違えなく平和でいい国なんだって俺は思う。そして二人が豊かに暮らせるのは国の代表、つまりガイア様の器と力量だと思う。

「なるほど。いかがなさいますか? ガイア様」

 マルチェさんは俺の話を聞くと、ガイア様を見て言った。

「いいよ~!」

「なっ」

「えっ」

「はぁ~」

 マルチェさん、俺、メルダの順で声を上げた。何故か、メルダだけため息をついた。

「ガイア様、よろしいのですか!?」

「うん、いいよ~さっきニャスちゃんには粗相しちゃったし。それにメルちゃんが連れて来たお客さんだもん。いい人に決まってる」

 ニャスちゃん……

 そこまで言ってガイア様はそれよりニャスちゃんソレ何? と聞いた。

「へ?」

 思わずアホの声が出た。

「ほら、その足と足の間の丸い奴」

 言われて俺は自分の足の間に視線を落とした。

 そこにあったのは、俺の黒い体毛に覆われた、まごうことなき俺のニャン玉だった。

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異世界にゃんこ~ハーレム異世界で猫に転生したからニャン生楽しむ~ あかねこん。 @Rednecon

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