0‐3

「さぁ着きましたよ」

 シュシュがそう言うと俺の眼前の景色が先程訪れたレンガ調の建物に変わった。

 再度シュシュはワープストーンを自分の胸元にしまうと家の扉を開けて中に入る。

「ただいま帰りましたよ~」

 家の中にシュシュの声が響く。

 木のテーブルにはまだ朝食が置かれていた。見た感じ冷めてしまって湯気の一つも出ていない。キッチンからガチャガチャと音が聞こえる。

「おかえり」

 刹那そんな声がキッチンから聞こえてくると先程のツインテールさんがこちらに顔出した。

 シュシュの肩に乗る俺と目が合う。

「ちょっとシュシュ! ソレ連れて帰ってきたの!?」

 こっちを見るなりまたもや大きな口を開けて騒ぎ立てる。

「大丈夫ですよメルダ落ち着いて下さい」

 そう言ってシュシュはツインテールさんをなだめ、今までの経緯いきさつを説明した。

一通りの説明を終えるとツインテールさんはふーんと小さく言葉をこぼして、目を細めてシュシュの肩に乗る俺にゆっくり近づいた。

「この奇妙な生き物が旅人様ね~獣人族にしては妙に小さいわよね~」

 言って俺の頬を人差し指で優しくつついた。

「まぁ確かにこんな小さくてぷにぷになら、まぁ脅威はないか。分かったわ。シュシュもこう言ってるし信じてあげる」

 ここで俺の頬をつつくツインテールさんの顔が妙に赤らんでいる事に気が付く。

 何だ何だ?口元もにやついてる様に見える。

 まさかこの子猫好き!?

 いや、間違いない。同じ猫好きの俺には分かる。猫を前にすると口元が緩み、笑みがこぼれ、気が付くと魅了されている。

 今のこの子はまさにそれだ。

「ニャス様は小さくてもふもふでぷにぷにで可愛いですよね~」

 俺を夢中でつつくツインテールさんを見てシュシュが言った。

「べ、別に? 可愛いなんて思ってないわよ!」

 頬を分かりやすく赤らめてツインテールさんはそれに反論した。

 つつく手を引っ込めると分かりやすく腕を組んでふんとそっぽを向いた。

「ニャス様申し訳ございません。メルダは昔から素直じゃないところがありまして……でも本当は凄くいい子なんです」

「大丈夫だ。気にしてない」

 ツインテールにツンデレ。上等じゃないか。

 属性としては申し分ない。むしろいい。

 おまけに美少女で金髪碧眼と来れば文句の付け所がない。

 こんな一昔前のテンプレツンデレを拝めて俺は嬉しいぞ。

 異世界ってスゲー。

 なんてフィクションの世界でずっと見てきたテンプレ美少女を拝めて感動しながら俺は目の前の美少女様に言った。

「俺はニャス。新参者だけどこれからよろしくな」

 言われてツインテールさんはこれまた照れくさそうにして自己紹介をした。

「メルダ・ヴァニーロンダ。王宮で近衛兵をしてるわ。よろしく」

 刹那、驚きのあまり思わず声が出た。

「えっ? ヴァニーロンダ?」

 そこで横のシュシュが話に入ってくる。

「妹です~」

「ええええええええ!!!!」

 衝撃の一言に今の小さな体躯には似つかわしくない大声が俺の口から飛び出した。

「い、妹!? ま、マジで!?」

「マジですぅ~」「本当よ」

 二人から同時に発せられた言葉にまだ驚きが隠せない。

 だって、だってこの二人全然似てないぞ!

 いや、まぁ似てない姉妹もいるとは思うけど、容姿、性格、スタンス、何もかも正反対じゃねぇ?

「それに、王宮の近衛兵って……」

「メルダは私と違って凄く出来がいいので、王宮でガイア様の護衛隊をしてるんですよ~」

 言ってシュシュは笑いながらパチパチと手を叩いた。

 確かに今更だが言われてみれば、メルダの服装って深緑がベースのこげ茶色のワンポイントが入った、どことなく軍服みたいなデザインだ。

「もう私の事はいいわ。それより朝ご飯にしましょ」

 メルダは照れくさそうにそう言って、その場から朝食の置かれたテーブルに移動した。

「冷めちゃったわね。温め直すわ」

 言ってテーブルに置かれた食器を持ち上げるとキッチンに消えて行った。

「なかなか素直になれない子ですけど仲良くしてあげてください」

「あぁ、そうするよ」

 俺の返事を聞いてシュシュは優しく微笑んだ。

 肩に乗る俺を両手で持ち上げたシュシュは木のテーブルの上にちょこんと乗せて言った。

「さて、この椅子はニャス様には大きすぎますからね~ここで待っていて下さい。私も手伝いに行ってきますから~」

 言うとシュシュもキッチンの方へ歩いて行った。

 一人残された俺は周りをきょろきょろして二人の帰りを待つ。

 程なくして、朝食の乗った食器を持って、二人がこちらに帰ってきた。

「お待たせしました~」

 言って二人は持っていた食器をテーブルに置く。

 トーストに野菜の添えられたスクランブルエッグ。コーヒーの香ばしい香りが俺の尾行をくすぐる。

 こちらの世界の食べ物も向こうと遜色ない。小麦や野菜は異世界でも共通の食材みたいだ。

 二人は席に着くと両手を合わせる。

「さて、頂きましょう」

 言われて俺もその小さな両手を合わせると声を合わせて言った。

「「「いただきます!!」」」



***

「さぁ、出発するわよ!」

 メルダの声に俺はおぅと返事をした。

 朝食を済ませた俺とメルダはこれからこの国を統治する王女様のいる城に向かう。

 やはりこれからこの異世界で暮らしていくんだ。そこのトップに挨拶くらいしとかにゃ失礼というもんだ。

 メルダは王宮で近衛兵として仕事をしているって事で、そのコネを使って王女様にご挨拶に行くというわけだ。

「二人とも気を付けて下さいね~」

 扉を開けて外に出た俺とメルダをシュシュがにっこり笑顔でお見送りしている。

「「行ってきま~す」」

「は~いいってらっしゃい~」

 俺とメルダはシュシュに見送られて王宮に向かって歩き出した。

 横並びで歩く俺らは特に会話もなく無言の時間を過ごす。

 俺はその小さな足でてちてちと二足歩行で歩きながら、隣のメルダを見た。

 俺の身長だとメルダの顔は遥か頭上にあり、猫が人を見上げる視界に驚いた。

(ん?)

 そこで気づいた。

 メルダの奴、何だかそわそわしている。

 無言のこの空間で定期的に俺の方をちらちら見て、何か言いたげな表情をしている。

(何だ?)

 無言なのにこの視線が妙にやりづらい。

 なんだよ。言いたい事があるなら言えばいいのに。

 そこで俺はシュシュの言葉を思い出した。

(そうだ。この子素直になれないんだっけ)

 よしそれならと俺は思い切って隣のメルダに声をかけてみた。

「なぁメルダ」

 刹那、メルダは驚いたのかびくっと体を跳ね上げた。

「な、何よ」

「どうかしたか?」

「何がよ?」

「いや、ずっとこっち見てるから。何かあるのかな~って」

 俺が実は気づいてた事を知ってメルダの顔は真っ赤になった。

「は、はぁ? 別にみ、見てないわよ」

 この子、わかりやしー。

「そうか?勘違いならすまん」

 言って俺は顔を正面に向き直し、再び無言で歩く。

「……」

「……」

 無言の時間が続いて1分くらい経っただろうか。

 俺はそれとなくメルダを横目で見た。

(気にしてんだよな~!! やっぱりぃ!)

 見てるじゃん! めっっっっっっちゃ見てるじゃん。

 気にしちゃってるじゃん。俺を!

 メルダはやっぱり俺をちらちら見ては何か考えているような表情をして勝手に赤面して再度こっちを見ている。忙しい奴だ。

(ん?あれ?)

 この子に出会ってまだ1時間も経っていないが、今まで抱いていた印象が180度回転した。

 最初は偏見押し付けの思った事ガンガン言ってくる子に見えたけど、違う。

 この子は俺が思っているより、繊細だ。

 そして、自分が素直になれない事を理解してて、それを自分なりにどうにかしようと考えれる根が真面目な子なんだ。

 それが空回りして今はこんなん状態になってるけど。この子はいい子なんだって、素直に思えた。

「メルダ」

 俺はメルダを呼ぶ。

「な、何よ?」

「ありがとな」

 こんな体では遠すぎるメルダの顔をまっすぐ見て感謝した。

「何よ、急に」

「俺の心配してくれたんだろ?」

「えっ」

「城までの道のりは小さい体で二足歩行の俺にはハードだ。だからそんな俺を気遣ってくれてたんだろ?ずっと俺の足元ばかり見てたし」

 言われて顔を真っ赤にしたメルダは覚悟したのか、口を大きく開いた。

「あ、アンタ! グランデルア初めてなんでしょ? 王宮まで遠いから私の肩に乗ってもいいわよ」

「なれたな、素直」

 俺はにこっと笑うとメルダは目を大きく見開いて、風船のように頬を膨らました。

「べ、別にいいのよ。自分で歩くって言うなら」

 言ってメルダは俺の前を歩きだす。

「ちょっ!? 待って」

 歩く速度を上げたメルダに俺は慌てて駆け寄る。

 そんな俺を見るメルダの顔は何だか嬉しそうだった。

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