例のメガネ。

あまたろう

本編

「服が透けて見えるメガネを作ったんだよ」

「またベタな発想だな」


 急に素っ頓狂なことを口走ったのは、発明好きのナツメだ。授業中に何を言うのか。

 まあ、一時間目は道具に魔力を注入して特殊効果を付与する授業だったからこういうのもアリか、と思い直す。

 ……で、成功したのか。


「成功したと思うんだけど、どうやら僕ではちゃんとできてるのかどうか分からなくて」

「えっ、何で?」

「なんか条件があるみたいで。仮説だから今は内容については伏せるけど、それを確かめたいから一緒に何人かで試したいんだ」


 ああ、お前は発明ばっかであんまり友達多くないしな。


「とりあえず、ミカサくんもちょっとつけてみてよ」


 ……と言われたので、面白そうだということでちょっとかけさせてもらうことにした。

 ちょうど授業が終わって休み時間になったので、適当な相手を探す。


「じゃあ、ちょっと委員長を見てみようかな」

「うわ、見えたらうらやましいな」


 容姿端麗、頭脳明晰で空気の読める、外見も中身もザ・クラス委員長というべき佐伯さえきを実験台にしよう。

 メガネをかけて佐伯を凝視してみる。


「透けない」

「残念」


 ……が、何か変だ。メガネを外して違いを確かめる。

 これは……。


「服が1枚だけ透けているように見える」

「え?」

「ちょっと、佐伯に今日の肌着が薄いグリーンなのかどうか訊いてきてくれないか?」

「え、やだよ」

「ですよねー」


 そういえば、お前はどう見えてるんだ?


「なんにも変わらない」


 あれ、そうなのか。

 じゃあつける人間によって変わるということになるので、このメガネが何かの条件によって服が透けて見える効果があるというのは間違いなさそうだ。


 ……というわけで、クラスの悪友2人に「服が透ける」ということは伏せてメガネを試してもらうことにする。

 実験台はもちろん佐伯だ。気の毒だが。


「なんか佐伯が白い上着を着てる」というのは悪友1。

「上着なのかどうか分からないけど、布みたいなものをかぶりすぎて真ん丸になっててもはや誰か分からん」というのが悪友2の感想だった。


 悪友と別れたあと、棗と作戦会議をする。


「透けて見えるどころか服着るとかどうなってるんだよ」

「……そういうことになるのか……」

「ん? 仮説とやらと合致してるのか」

「うん、そんな感じ」

「じゃあそろそろ教えてくれ」

「うーん、その前に副委員長の飛鳥あすかくんで試してほしいんだけど」


 飛鳥か。

 佐伯に匹敵する成績と人の良さを併せ持つ、ほぼ完璧な男子生徒だ。先ほどの悪友とは正反対だな。

 さっそく飛鳥にメガネをつけてもらうことにする。もちろんその効果は伏せて。

 で、例によって実験台として佐伯を見てもらう。


「これをかけて佐伯さんを見るってこと? 変な度が入ってたら目が悪くなっちゃわない?」

「度は入ってないから大丈夫」

「それならいいけど」


 そっとメガネをかけて、佐伯を見るその顔がみるみる真っ赤に染まったかと思うと、慌ててメガネを外す飛鳥。


「な、ななななな、何このメガネ? さ、佐伯さんの服が……!」

「「どういう風に見えた?」」

「ささ、佐伯さんがぜ、全裸に……!」


 マジか。それはうらやましいな。


「やっぱりそうだったのか」

「さあ、仮説とやらを教えてくれ」

「このメガネは、心が綺麗な人ほど服が透けて見えるんだと思う」


 え、ダメじゃん。


「そんなこと言わないでよ。条件はランダムなんだから。操作するにはもっと経験を積まないといけないんだよ」

「……それにしても、よりによってその条件はないだろうよ」

「そんなこと言ったって……」

「で、性根の悪いヤツは逆に服が増えて見えるってことか」

「おそらく」


 これじゃあ使えないな、と思った俺たちは、不本意ながらこれを装備できるのはお前だけらしい、ということで飛鳥にそのメガネを譲った。

 困った顔を浮かべながらも飛鳥はそれを受け取った。……断らなかったのは、ヤツも男だということだ。


 それから程なく、飛鳥から「透けなくなった」という苦情とともにメガネを返品された。

 俺たちは一人の清らかな人物の心を堕落させてしまったようだが、その代わり気の合う友人を獲得することになった。


(おわり)

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例のメガネ。 あまたろう @amataro

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