特級検眼士

リュウ

第1話 特級検眼士

 僕は、今年から大学に入学する。

 もう成人だし、今までの自分から脱しようと考えていた。

 見た目からと言うことで、今日はめがねを新調することにした。

 中学生の途中から、目が悪くなった。

 近視だった。

 遺伝ですねって眼科医が言った。

 眼球の形がどうのこうのって説明していたと思う。

 それで、めがねをするようになった。


 僕は、めがねが好きだった。

 それは、別人になれるから。

 真面目そうとか、

 勉強ができそうとか、

 コワそうとか、

 優しそうとか、

 おしゃれな人とか。

 めがねフレームによって印象が変わるらしい。

 目が大きく見えたり、小顔に見えたりもするらしい。

 今まで生きてきて、結局、”見た目”で決まる事を学んだ。

 

 どんな人間になろうかと考えながら、古そうな門構えのめがね店に入った。

 様々な形のフレームが並ぶ。

 色も沢山ある。

 どちらかと言うと三角形の顔型だし、学生なのでボストン型を選んだ。

 そして、検眼へと進んでいった。


 椅子に座らせて視力を測る。

 中央の赤い気球みたいのがはっきり見えるとわかるらしい。

 それから、丸いフレームの検眼枠をつけて、レンズを変えて調整する。

 赤いスエードを張った箱に検眼レンズが規則正しくきれいに並んでいる。

 検眼セット。

 ちょっと欲しい気もした。

 レンズを入れ替えを繰り返し、おなじみの”C”のどこが開いているかを答える。

「こんなところですかね」検眼士がレンズと検眼枠を片付けはじめた。

「よく見えるな」僕は呟いた。

「何を見るんですか?」と検眼士が言った。

「えっ「、何って……」

 僕は、急に思いつかなくて、何て言っていいか言葉に詰まった。

「見る目的によって色々なめがねがあるんです。

 僕は、お客様に提供できますよ」

 と、胸の黄色の眼の形のバッチを指差した。

「なんです、それ」

「これは、”特級検眼士”のバッチです」

「特級検眼士?」僕は、その言葉を繰り返していた。

「見たいモノを提供できるのです。普段見れないものをね」

 僕は、よくわからないと首をかしげた。

「えっ、僕の恋人になる人も見えるの」

「見えます」即答だった。

 自慢じゃないけど、今まで女の人と付き合ったことがない。

 そろそろ、恋人がいてもいいんじゃないかと思っていた。

 新しい学校と彼女。

 いいじゃん、登校が楽しみになる。

「特別にお見せします、お店が終わってから電話をください」

 特級検眼士は、電話番号のメモを渡してくれた。

 ラッキーなことに、これから高校の同窓会がある。

 いつもの仲間に会うのが楽しみだ。特に彼女に会える。

 僕には、ずーっと見つめていた人がいた。

 

 同窓会は、洋風の居酒屋みたいな店だった。

 特級検眼士に電話で伝えていた。

 二階もあり、そこから一階の様子を眺めることができた。

 宴会も中盤に入った頃だった。

 トイレの前で声を掛けられた。

 特級検眼士だった。

 検眼士は、二階を指差し、ちょっとお話しましょうと誘ってきた。

 僕は、検眼士について二階の席に案内され、ワインを注がれた。

「探しましょうか……恋人」

 あやしいと思ったが、淡い期待もしていた。

「性格が見えるめがねがあるんです。あなたに合った性格の人を選んでください」

「そんな、そんなめがねがあるんですか?」

「言ったでしょ。色々なめがねがあるって……見てみます」

 検眼士は、ガサガサと鞄の中を探って、めがねケースを取り出した。

「これですね」

 パカッとケースを開けると、レンズが三枚入った検眼枠だった。

「”三色めがね”っていいます。

 赤、緑、青の三つのレンズからなっています。

 光の三原色って、ご存じですか」

「確か、学校で習ったと思います」

「覚えていますか」はいと僕は頷いた。

「色には、意味があるのです。

 赤は、情熱、愛、欲望とかの象徴で、

 反面、ナルシスト、目立ちたがり屋、攻撃的、支配したがるという面もあるのです」

 検眼枠に赤色のレンズを入れ、僕に渡された。

 僕は、検眼枠をかけた。

「さぁ、友だちを見てください。赤のイメージ通りの人たちが見えるはずです」

 その通りだった。

 確かにはっきりと見えている人たちは、そう言う人たちだった。

 そうでない人は暗くてはっきりしない。

「ですから、緑には緑、青には青の象徴があるのです。

 レンズを重ねることもできます。

 重ねると色が変わりますね。

 緑と赤を重ねると黄色、

 赤と青を重ねると赤紫、

 青と緑を重ねると空色になり、

 赤、緑、青を全部重ねると透明、白になります」

「これで、あなたに合った人を見つけて、アタックしてみてはどうですか」

 確かに便利かもしれないと僕は思っていた。

 この歳になると、誰もが見た目の良い自分を造っていて、本当の性格を隠している。

 本当の性格がわかれば、僕に合ったひとがわかれば、どんなにいいだろう。


 僕は、空色を選んだ。

 お互いに飾らずに自然体でいたいから。

 ずーっと一緒に居られると重たから。

 青と緑のレンズを重ねて、同級生たちを見た。

「あっ」一人の彼女がはっきり見えた。

 僕が、ずーと狙っていた彼女だった。

「おめがねにかなう人は居ましたか」

 僕は、強く頷いた。

 検眼士は、僕から検眼枠を取り上げると、赤青緑の三枚をセットし、僕を見た。

「白はね、純粋な気持ちとか、決心を象徴するんだ。君がはっきり見えるよ」

 検眼士は、僕に手を差し伸べた。

 僕はその手を握る。

「それでは、お幸せに」検眼士は優しく微笑んだ。

 僕は、急いで一階に下りていき、無理やり彼女の横に座った。

「僕は、君のことを知りたいんだ」

 僕は、彼女を真っ直ぐ見つめて言った。

 一瞬、間が空いた。

「そうなの……私もあなたを知りたいわ」と笑顔を返してくれた。

 僕は自分の鼓動を強く感じていた。

 僕は、彼女から目を放さないで、話を聞いていた。

 これからも、ずーっと彼女を知りたいと決めた。

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特級検眼士 リュウ @ryu_labo

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