夏と自分の狭間にて
枠井空き地
夏待ち
細かく見れば何十色にもなるであろう様々な青が折り重なる空、その積層構造を貫くように鎮座する入道雲、そしてそれらの手前には自らの役目をまっとうし続ける鉄塔の群れが騒然と並んでいる。
鉄塔たちが遥か彼方へと繋げていく電線は、あの高速道路の土手より先にもこの世が存在する事を示し、まるで未知なるモノへと導く架け橋のようでもあった。
毎年必ずやってくるこの季節と情景とこの感情は変わることはない。変わることは無いが故に、変わっていく自分との差が目につく。
今年も背が伸び、目も悪くなり新しい眼鏡に変えざるを得なくされた。ひとたび眼鏡に変えたらもう外す、と言う選択肢はなくなる。メガネの必要のない自分というものは戻ってこない。一年待てば戻ってくる季節と情景とは違う。待っても戻ってこないのだ。
眼鏡をかけるだけの読書と、数センチ視野が高くなるだけの、ほんの少しだけの成長をして僅かな賢さを持った僕は、元に戻る事のないものを求めたくて、全く未知の外の世界を見てみたくて、彼らが繋ぐ電線の影を追って旅とも冒険ともつかない「無茶」をした。 共に赴く友人は自転車だけで、辿る筈の廃線は遊歩道になっていた。
そんな無茶をしても、新しいものがそこにある筈など無かった。あったのは僕の周りと地続きの世界でしか無かった。
しかしながら、ふと、気づく。”壁”の向こうの見知らぬ世界は自分の知るいつもの世界と完全に地続きであった。僕は自らの望む限りの場所まで自らの足で行くことができる。そんな当たり前のことになぜ今まで気づけなかったのだろうか。いや、「気付けなかった」ことに気付けるほどの賢さを得たのかもしれない。だとしたら、変わりゆく自分において微かに誇れるものだろう。
自分は変わる。変わっていく。でもその変化こそ何かを追い続けるからこその変化なのだ、自分が求めるから歩き続ける、自分が行きたいから行き続けるのだ。
今年も、忍び寄る夏の気配に僕は少しずつあの日の昂揚感が戻ってきていた。 今日も、僕は、夏を待っている。
夏と自分の狭間にて 枠井空き地 @wakdon
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