世界の終わりと眼鏡の記憶
月代零
そして、新たな世界が始まる
一つの世界が終わり、一つの眼鏡が残された。
眼鏡は、世界のこれまでを記憶していた。
主と共に生き、共に見てきた世界の様々な景色、生き物の営みを。
春の温かさ、夏の日差し、秋の恵みに冬の厳しさ。明け方の白んでいく空、昼間のどこまでも広がるような青、漆黒の夜空に瞬く星。季節ごとに咲く色とりどりの花、野を駆ける動物たち、それから人の営み。晴れた日も雨の日も雪の日も、眼鏡はそれらを見守っていた。
もちろん、楽しいことばかりではなかった。笑ったのと同じくらい、泣いたり怒ったりしたし、悲しいことも嫌なこともたくさんあったけれど、美しいものや新しい技術を生み出し、歴史を切り開いていく人の営みを、眼鏡は愛していた。
眼鏡はその全てを見守り、記憶していた。最後の人がいなくなったあと、あの世界はもう存在しないのだと、無機物にはないはずの心で悲しみ、その日々をそっと偲んだ。
やがて静寂の中を、生まれたばかりの幼い神が通りかかり、その眼鏡を拾い上げた。風もないような静かな闇の中で、それはきらきらと光を放っているように、神には見えた。
神はそれぞれ、自分の世界を創るために、生まれた世界を離れ、見分を広げながら旅に出る。その幼き神も、どのような世界を創るべきか学びながら、ちょうどいい場所を探して旅をしている途中だった。
眼鏡を拾った幼い神は、これは何だろうと、目の前に掲げる。すると、二つの透明のレンズ越しに、眼鏡が記憶していた、在りし日のとある世界の記憶が映し出された。
幼き神は、まだどのような世界を創ればいいのか学んでいる最中だったが、その風景に胸が締め付けられるような思いがした。知らない景色のはずなのに、ひどく懐かしいく温かい、そんな気持ちが。
この気持ちは何だ。どうしてこんな気持ちになるのだろう。幼き神は、それが知りたくて、それを自分が作る世界に再現しようと、心に決めたのだった。
そうして、やがて新たな
世界の終わりと眼鏡の記憶 月代零 @ReiTsukishiro
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