君の瞳に釘付けされたい

sayaka

(σ○-○)✧†

 いまどきめがねをかけている人は貴重で、最初は物珍しさから興味を持った。

 うすいガラスがふたつの瞳の前にそれぞれ一枚ずつあるなんて視界の邪魔にならないのだろうか。

 彼女の様子が気になってよくよく観察してみると、ガラスの奥にある瞳は薄茶色をしていてとても綺麗だった。光の加減でそういうふうに見えるのだろうか。じっと見つめていると、訝しげな顔をされる。

「何ですか」

「きれいな目だなあって」

 突然話しかけられたので思ったままを口にしてしまう。

「はあ、そうですか」

「ねえどうしてめがねかけてるの」

 昔はめがねをかけている人も大勢いたらしいが、わたしは教科書でしか見たことがない。

 なんとか技術が発達して、何とかかんとかで目の手術が容易になり、今ではほとんどの人が生まれながらにして目に矯正能力をかけていることになるそうだ。うろ覚えの知識を総動員してみる。

「これは祖母の形見なんです」

 彼女はそう言ってそっぽを向いてしまった。ふたつに結った髪がゆらりと揺れる。いきなりずけずけと質問したから怒っているのだろうか。

 わたしたちはたまたま席が隣同士のクラスメイトで、それまで会話らしい会話も交わしたことがない。

「ねっ」

 彼女の肩を掴んで強引にこちらを向かせると、明らかに迷惑そうな表情を浮かべていた。

 至近距離で見るとますます吸い込まれそう。

「ちょっと、あまり顔を近づけないでください」

「あごめん」

 パッと手を離すと、彼女は「まったくもう」と言いながらめがねのふちの辺りを手の甲で押さえている。

 その仕草があまりにも似合っていて魅力的だったので、もう一回とリクエストをするとすげなく却下された。

『しゅーん(´・ω・`)』

 ノートのすみっこに悲しみを表現してみる。

 それをそのまま見せると、彼女はなぜだか笑い出してしまった。

「ふふふふふふ」

「わっどうしたの」

「すみません。面白くてつい笑ってしまいました」

 そんな律儀に返さなくてもと考えながら、思いがけず笑顔が見られたのはなんだか妙にくすぐったい。うずうずしてきた。きっと彼女とは仲良くなれるだろう、そんな期待を込めて眼差しを送る。

「変な目で見ないでください」

『( ̄◇ ̄;)』

「ふっふふふふ」

『( ^ω^ )』

「…………もう、何なんですか」

 そう言い放つ彼女の表情がだいぶ和らいでいて、そのことがとても嬉しい。

 今日はいい日になりそう、そんな予感がしていた。




 <おわり>



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