眼鏡にまつわるえとせとら
此木晶(しょう)
それは伊達メガネから
side:黒崎棺
「お前、視力が良いってのが自慢だったよな?」
打ち合わせの最中、フッと疑問が浮かび後輩に問い掛けてみた。
たしかコイツ高校の時2.0より視力が下がったことがないって散々マウントを取ってきていた覚えがあるんだが。
「伊達ッスよ、伊達。結構眼鏡かけてると受けの良い先生たちが多いンでかけてるんです」
ほら、と外してこちらに渡してきた眼鏡を覗くと、確かに素通しのガラスらしく歪みもしてない後輩の顔が見えた。
「でも、今更言います? ボクここ何年もずっと眼鏡でしたよ」
「いや、いつの間にか眼鏡になってんなとは思ったんだが」
すまん、後輩。そのじとーっとした半眼はやめてくれ。物凄く居心地が悪い。あとその自分だけで納得したみたいに頷くのもやめろ?
「はぁー……。先輩ですもンねぇ」
「どーいう意味だ、それは」
「自分の胸に手を当ててればいいンです!」
ますます意味が分からんわ!
再びジト目で睨まれる。なんなんだ? 一体。
「で、受けがいいってのはなんだ?」
打ち合わせも進まないので話題をそらす。あからさまに過ぎるとは思うが、たぶん後輩の方も話が進まないのは困るのだろう、素直に乗ってきてくれた。
「知らないっスか? 作家先生って結構眼鏡好きが多いンですよ」
知らん、と言うか。
「初耳なんだか?」
「めが姉ぇとか知りません?」
「なんだ、そのトンチキは……」
眼鏡をかけたお姉さんの略称なンですよと、教えられた考案者の名前は、よく知った俺なんざ比べ物にならん位のベテラン作家の名前だった。
「先輩も褒められてたっスよ。ボストンメガネがあそこまで似合う小説家は中々いないって」
「それは喜ぶべきなのかね、俺としては嘆きたい気分なんだが?」
大体、その似合っていると言われた眼鏡にしたところで、これなら目つきが悪いのも多少はましになるからと渡されたものを使い続けているだけなので、いまいちピンと来ない。
「名前を覚えられるのは良いことですって。どれだけ頑張っても覚えてもらえない人だっているンスよ」
そりゃあ確かにそうだが、どうせなら作品で覚えてもらいたいのが本音なんだが?
と愚痴ると。
「贅沢な話ッスねぇ。ボクがどれだけ苦労したと思ってるンですか!!」
「苦労しただけで、仲良くなってるんだからお前はすごいよ。ご教授願いたいもんだね」
「すごいですか!」
にへらと笑う後輩。
「どうしましょうねー。それはもう苦労したッスからねぇ。教えてもいいンですけど……、どーしよっかなぁー。そーですねー、先輩がなんでも言うこと聞いてくれるなら教えて差し上げるのもやぶさかではないんですけどねー」
チラリチラリと窺うようにこちらを見る後輩の姿に、なんかイラッときたので、軽く小突いて、この話題を終わらせた。
side:草千里一里
黒崎から聞いたのであるが、それは伊達眼鏡なのかね?
最近新しく担当になった
なぜ分かるか?
簡単である。
以前かけて見せたら大変好評だった。
であるので、伊達眼鏡をかけ続ける理由は他にあると見るべきなのである。
「はい。伊達ですよ。色々な先生方に評判が良いのでって、先輩から聞いてるンですよね? じゃあ知ってるじゃないですか」
確かにそうではあるのだがね、気になることがあるだよ。
「それなら先輩、眼鏡をかけている女の人を目で追う癖があるンです。眼鏡好きってのとはちょっと違うのですけど、先生? 草千里
ちょっとこう色々と想像の世界へと旅立っていたらしく、気がつくと女史の姿はなかったのであった。抜け目ない事に打ち合わせのメモには次の日程とその時までに考えておいて下さいと次回作用のジャンルやテーマ候補が添えてある。そして、『先輩のかけてる眼鏡のメーカーです』の文字がが殊更目立つように デコってあった。
黒崎は女史の事を随分と可愛がっているようだか、私には分かるのである。
彼女はかなり腹黒い。
………
……
…
「どうした、珍しいもんかけて」
イ、イメチェンである!!
眼鏡にまつわるえとせとら 此木晶(しょう) @syou2022
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