【KAC20248 参加作品】めがねっ子の風見 日向子(カザミ ヒナコ)は、愉快な仲間とショッピングモールを楽しむ!

あら フォウ かもんべいべ

第1話 前がよく見えないけど、進め







  近眼で めがね を手放せない私、風見 日向子(カザミ ヒナコ)は、定期的な視力検査を欠かすことが出来ない。


 おばあちゃんに買ってもらった新しい めがね は、リムレスのおかげで視界の端に浮かぶ線が気にならず、ラウンドタイプのお洒落さんは私のお気に入り。


 小さな小さな背伸びをしたい近眼な私に、広い広い世界を教えてくれるだけでなく、ほんの少しだけ大人の女性として輝かせてくれる最高の相棒だ。


 とは言え、私と毎日のように付き合えば消耗をしてしまうのも仕方のないこと。


 もしかしたら、めがねではなく、思ったよりも私の視力が落ちていたのだろうか。


 ここ最近、めがね越しの視界が、ほんの少しぼやけているような気がするし、気になって仕方ない。


 小さな小さな、それでいて近眼な私にとっては、ちょっと洒落にならない。


 そんな訳で高校入学をきっかけに越境してきた私は、学校生活と一人暮らしにも慣れてきたことだし、そろそろお世話になるめがね屋さんを探そうと、週末を利用して街へ繰り出そうとした時だ。


『Trrrrrrr……Trrrrrrr……』


 ふいに携帯端末に着信があり、手にとってディスプレイに浮かんだ『カスガ』の名前。


 どこから嗅ぎ付けたのだろうか、タイミングとしては妙にピンポイント過ぎることが気になるものの、応答しないのも失礼なので、電話に出れば……。


『ようカザミ、暇か? 今からドライブに出かけるけど、お前も一緒するか? ああ、もちろん昼飯は好きなものを選ぶといいさ……「ナギ! モットハシニヨッタッテヤ!」……「ウィラ、マスタングノコウブザセキハサ、セメェンダカラガマンシロヨ」……ああ、お前がいてくれると助かるんだけど、どうだい?』


 予定変更、私の快適なボッチライフは今日もお預けらしく、ご飯に誘われたことを嬉しく思う一方で、その後ろから聞こえる賑やかそうな雰囲気に、ため息を一つ……よし、気持ちを切り替えていこうか。


 ありがたいことに車を回してくれるみたいだし、ご飯の決定権も私の気分の赴くままとなれば、最高の週末を過ごせるね。


 賑やかなお姉さんたちのガヤを背景に、カスガと通話を続けてお願い事を一つ、本来の目的である めがね 屋さんのはしごを快諾してくれるとなれば、最高にご機嫌って訳だ。


 電話を切ってから早速、近くの通りで迎えを待っていれば、あのなんとも言えないパワフルなエキゾースト音を奏でながら、段々と近付きつつある毎に音が大きくなっていく様子は、まるで暴力的なボレロのようだった。


 音のする方向へと視線を移せば、ボヤけるレンズ越しに映るパワフルなアメ車が、こちらへと一直線に向かって来る様子は、

さながら迫り来る怪物のようだ。


 私の目の前でハザードを焚きながら停まったフォード・マスタングのパワーウィンドウが開き、チャイニーズマフィアのようなカスガとご対面。


 今日もレイバンタイプのサングラスがよく似合うね?


 電話の様子と同様、後ろがとても賑やかそうだ。


「カザミ、助手席に乗りな。チャイルドシートがないから、不便をかけるぜ?」


「F**k you、カスが、ここは日本だから必要ねえだろ?」


「HAHAHA! 今日も相変わらずご機嫌だな! カザミ、イタリアンと中華、どっちの気分だ?」


「ヒナコちゃん、まいど! うち、今日ぐらいはあれや、ケツネやなくてもええで?」


「ウィラ、お前じゃないからな? ようヒナコ、今のは無視していいぞ」


「ナギ、うちちょっとボケただけやから」


「まあまあ、ウィラさん、気をつかってくれてありがとう。おかげでカザミもご機嫌だ。ウィラさん、素敵なあなたのリクエストはさ、また今度でいいかな?」


「ふっふっふっ、カスガくん、またお姉さんとデートに行こな」


「ウィラ、彼氏はどうした?」


「そんなん知らんわ!」


「「「HAHAHA!」」」


 本当、賑やかな一行というのか、わざわざボッチな私のお買い物に同行したがる物好きたちが、とにかく世話を焼きたくて仕方ないらしい。


 車を回してくれるだけでなく、狭い後部座席に詰めて私に助手席を譲ってくれた、191cmのナギさんと、175cmのウィラさんこと 志苗(シナエ)さんの二人は、窮屈な空間をシェアしながらもとても楽しそうなご様子だ。


 助手席に掛けてシートベルトを装着すれば、運転手のチャイニーズマフィアこと、カスガによる快適なドライブにて、目的地に向かってパワフルなマスタングのエキゾースト音を奏でながら前進!


 もっとも、エキゾースト音よりも志苗さんの方が……うん、とてもパワフルでご機嫌そうだ。


 志苗さんの奏でる心地よいハスキーボイスと、マスタングのエキゾースト音を聴きながら急速に通り過ぎていく景色を楽しめば、さながらタイムスリップでもしているかのように錯覚するのは、ほんの少しだけボヤけた めがね 越しだからなのかもしれないね。


 そうしてたどり着いた目的地のショッピングモールは、ちょっとだけ未来的な希望に満ち溢れているかのようで、ボヤボヤしている暇もなく、止まる様子のないワクワクの赴くがままに、前へと歩みだしたのだ───。








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