めがーね?MEガーね?メがーNE?
蒼珠
めがーね?MEガーね?メがーNE?
「おやおや。君は一体、いつから、そんな誤解をしていたのかね?」
熱い紅茶を一口飲んだ後、呆れたようにそう言う彼に、わたしはムッとして反論する。
「眼鏡は無生物に決まってるじゃない」
「誰が決めた?」
「誰が決めたって……え?」
そんな問題?
「『めがねは顔の一部』だと言うだろう?めがねをかけるのは生き物、顔も生き物。だから、めがねも生き物。証明終わり」
「はぁっ?何言ってるの?ぶっ飛びすぎな三段論法過ぎでしょ。だったら、服もアクセサリーも生き物ってことになるじゃない」
「その通りだ。分かって来たじゃないか。
「嬉しくない!……って、何それ?何それ?生き物って……ええっ?」
混乱して来たわたしは、ようやく飲める熱さになった紅茶の入ったマグカップに口を付ける。
そもそも、「生き物」と「無生物」の定義が曖昧になって来た、気がする。
彼のかけている銀縁の眼鏡を見つめた。いかにも頭良さそうな見た目で、事実、かなり賢いのでよく似合っている。
彼を眼鏡のCMに使ったのなら売上が何十倍増になるんじゃないだろうか。『彼モデル・プレミアム銀縁眼鏡』とか出て来て、ファンたちがこぞって買うのだ。
もちろん、保存用、観賞用、彼とのお揃いを楽しむために「ちょっとかけてみちゃう用」と三つは必要だ。
まぁ、彼は絶対、嫌がるだろうから実現しないが。
「何かね?そう見つめられると照れるのだが?」
彼はまったく平然と「照れる」と言う。少し頬を赤くしてから言うのなら、説得力があるのに。
「少し息を止めない?」
生理的反応でも頬は赤くなるハズだ!
思い返せば、出会ってから割と長いのに、彼が頬を染める顔なんて見たことがない。かなり寒い日でもまったく赤くならないのだ。
「何の話だ。どんな流れでそうなった」
「眼鏡の話だっけ」
「めがねの話は終わったんじゃなかったのか?」
「何か発音が違う気がして来た……あれ?眼鏡でしょ?」
「めがねだ。…おや?確かに少し違う気がするな。めがーね?MEガーね?メがーNE?」
彼は言うたびに、手が指揮者のように動く。くいっくいっと。
「あははははっ!外国人みたいだよ~。オーバーアクションだし」
「やれやれ。君は簡単に笑うのだな。腹が立つ」
「何それ~理不尽~」
「大人になると余計なプライドが邪魔するのだ」
「何の話?十五歳って大人?高校生になった所だし、未成年じゃん」
「大学生の君の身長をとうに抜かしてるのだから、大人でよくないか」
「何なの、その基準。まぁ、大きくなったよねぇ、とは思うけど……え、何?どうしたの?」
いつの間にか隣に移動して来た彼が、するりとわたしの頬に手を当てる。冷たい大きな手。暖房がよく利いている部屋なので気持ちいい。
「めがねは生き物だろう?」
「何か話が飛んだ気がするけど…ううん、戻ったの?もう探偵ごっこはいいの?どこかの教授ごっこ?」
「ステキだと言っていたのは誰?」
「わたし、かなぁ?」
よく色々とハマるので定かではないものの。
ん?彼の耳の端が少し赤い。この近さだから気が付いた。
「あ、ちょっと恥ずかしくなった?」
「少しは黙れ」
触れるだけの口づけ。
緊張しているのはわたしも、なので、照れ隠しに口数が増えてしまう。年上の彼女としても、彼にどう甘えていいのか分からない。
なので、こういった別にどうでもいい会話でも、黙り込んでしまわない時間が心地よかったりする。
「めがねは本当に生き物だ。
「……はい?」
甘い言葉を囁け、とは言わないが、もうちょっと空気を読んだ発言をしてもらいたい。
つき合い始めたばかりなのだから。
それにしても、妖怪は生き物と言っていいの?
あれ?神様のくくり?
めがーね?MEガーね?メがーNE? 蒼珠 @goronyan55
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