第2話 飲み会
会議の後、しょげこんでいる私と
「2人とも、いつまでもそんな顔してないで、飲みいこっ?」
喜ぶ私と対照的に、青田さんは今にも泣き出しそうだ。
仕事の後、私達は同じビルの9階にある居酒屋に入った。
うちのビルは、やたらと飲食店が入っているので、ランチといい飲み会といい、全てがビル内で完結する。
「みんな、今日は会議お疲れぃ〜!!乾杯!!」
4人でグラスを合わせる。
みんなのお母さんポジション、のんちゃんがビールを一気飲みして先陣を切った。
「いやぁ、それにしても、わざわざ全社に公表しなくたってねぇ。日和なんて、まだ数ヶ月なのに。可哀想だよ。」
「う…うん。」
ちらっと青田さんの方を見ると、どんよりしたオーラが渦巻いている。
「元々、営業とか向いてないし、私…」
青田さんのボブヘアーがどんどん沈んでいく。
とかくこの業界は目立ったもん勝ちである。紙面もwebも、担当までも。
青田さんや私のようなシンプルな人間には不利な戦場だ。
「あ、青田さんっ!イケイケだけが正義なわけじゃないからっ!!ほらっ、トップの
「他のメンバーには開拓できない、落ち着いたミセスのお店とか、青田さんいっぱい持ってるでしょ。」
のんちゃんもすかさずフォローをいれる。
青田さんは若干顔を上げるとビールを手元へ引き寄せ、一気にごくごくと喉へ流し込んだ。
社歴で言うと、青田さんはメンバーの中でも長いほうだ。
だが、人見知りの性格ゆえ、その営業成績は長く細くである。
一方の
茜音の増えすぎた顧客の一部を引き継いだ私は、眩しすぎるイケイケ美容師達とのやりとりに日々悪戦苦闘していた。
「やっぱり、いくらお客さんといえども、相性ってもんがあるよねぇ。」
ミーコが言う。
ミーコはバランスタイプだ。イケイケとも仲良くでき、地味系とも仲良くできる。
私は普段、1人経営のこじんまりとしたサロンで、必要最低限しか喋りかけてこない静かな美容師さんに髪を切ってもらっている。
アロマの香り漂う、素朴な木の雰囲気のそのサロン【Amour】《アムール》は、営業エリア内にあり、青田さんの担当サロンだ。
「私、青田さんのAmourでいつも切ってもらってるんですけど、あそこ、本当にゆったりして癒されるんです。」
「ですよね!!!」
青田さんが顔を上げて目を輝かせた。
オープン数年目のAmourを最初に開拓したのは青田さんらしい。
「あそこのオーナーさん、物静かだけど優しくて、本当にいい人なんですよ。」
青田さんは新卒でウチに入社した。中途採用の私より先輩だが、歳は若い。
「おっ、青田ちゃん、元気になったね!よかった。」
のんちゃんはそう言って二杯目のビールに手をつけた。
「はぁ。明日からまた来月に向けてアポ取らないとだぁ。あ〜あ、だる〜っ!!!」
私は腕を伸ばして壁にもたれかかった。
「橘さん、来月の成績、私と勝負しません?最下位になったほうが飲み代払いましょう?どうですか?」
「おっ?青田さん、いいですね!やりますかぁ?」
私もニヤリと応戦する。
いつもクールな青田さんが、少しだけ心を開いてくれた気がして、私はなんだか嬉しくなった。
リモートワーク タカナシ トーヤ @takanashi108
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。リモートワークの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます