リモートワーク
タカナシ トーヤ
第1話 全体会議
「はじめるぞー」
フロアの奥から
私たちはぞろぞろと会議室Aに入った。
席にはすでに"のんちゃん"が配り終えた資料がおいてある。
佐田さんがプロジェクターに画面を映すと、本社の資料が画面共有された。
—令和6年度 営業企画部第2回全体会議—
のんちゃんが会議室の電気を消した。
今日はうちの会社「ライフカンパニー」の月1の定例会議だ。
美容室担当の【ヘア】、サロン担当の【ケア】、食べ物担当の【フード】、それぞれの部門で地域の店を開拓し、フリーペーパーの発行とネット掲載を行っている。
今日は各部門ごとに会議室3つにわかれて、今月の売り上げなどを全支店で報告しあう日だ。
お互いの意識を高め合おうという趣旨のこの会議では、個々人のノルマ達成率も必然的にさらされることとなり、営業の得意ではない私には単なる恥晒しの場所でしかなく、この上なく憂鬱な時間だった。
「ではみなさん、お揃いのようですので会議をはじめさせて頂きます。わたくし、本社営業企画部の
テキパキと早口で喋る百合原さんはいつみてもバリキャリでカッコ良い。
こんな風に働けたらいいのにと思いつつ、ドジっ子の自分には夢のまた夢だと軽く悲しくなる。
「ではまず、名古屋支店からお願いします。」
「はい、名古屋支店の佐田です。今月の売り上げですが、目標〇〇に対し、実績が〇〇となっており、先月に引き続き、右肩上がりとなっております。」
パワーポイントのスライドを横目に淡々と喋る佐田さんを私はほげーっと眺める。顔も背も小さく、イケメンで、私よりも2歳年下の佐田さんは、名古屋支店ヘア部門のリーダーだ。真ん中分けで、伸ばしたいのか切りたいのかよくわからない長さの黒い髪、ユニクロっぽい黒のジャケットに黒のジーンズ。インナーは白いシャツが佐田さんのお決まりスタイルだ。やる気と野心に満ち溢れたその目は、黒く大きく輝いている。20代半ばだというのに、なんたる熱意だろう。
数字の苦手な私には、佐田さんの報告の内容はなんのことやらさっぱりわからなかったが、ただただ自信満々に発表を続ける佐田さんがいつもにも増してキラキラとカッコよく見えた。
自分みたいになんの目標もなくのんべんだらりと生きていても、いつかは百合原さんや佐田さんのようにバリバリと輝ける日がくるのだろうか。
長い会議中、日和は何度も頭が下に垂れそうになり、咳払いで誤魔化した。
「続いて、名古屋支店の営業成績ですが…」
きた!!!地獄の時間。
一気に目が覚めた。
メンバー12名のノルマ達成率がグラフで表示された。
1位はもちろんイケイケ女子、
2位は元ヤンダンディー、
3位はクールビューティ、
そしてビリから2番目が、私、橘日和。
ふと横を見ると、私と同じようにおとなしい
ビリケツ仲間だ。
社歴も席も離れているので普段さほど会話することもないが、今日ばかりは青田さんと2人で飲みにいきたいなどと思ってしまう日和だった。
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