僕と彼女と琥珀色の眼鏡

あげあげぱん

第1話

 幼馴染の彼女は幼いころから眼鏡をかけていた。


 だからか、彼女の鼻には小さなくぼみができている。しっかりと彼女を観なければ気付かないくらいのものだったけど、僕はそのことをずっと昔から知っていた。


 思えば僕は、昔から彼女の顔をよく見ていた。彼女と会うたびに、彼女の顔をよく観察していた。


 僕と彼女が付き合いだしたのは、僕たちが中学生になってからのことだった。


 付き合うようになってから、以前より彼女のことをよく観るようになった。その頃から僕は絵の勉強を初めて、彼女はよくモデルになってくれた。彼女の顔をよく描いて、彼女の色々な眼鏡も描いた。


 彼女は色々な眼鏡を持っていた。ひょっとしたら、僕が使っていた絵具の種類よりも数が多かったかもしれない。


 色々な表情や、色々な眼鏡を描いた。それ以外の絵もたくさん描いたけれど、最もよく描いたのは眼鏡をかけた彼女の姿だった。


 今、僕は高校生で彼女との関係は続いている。そして今日、僕は彼女のために誕生日のプレゼントを選んでいる。


 彼女へのプレゼント……何が良いだろう。彼女はお菓子が好きだから、お菓子を選ぶのが良いのだろうか。絵をプレゼントしても置き場所に困るだろうか。僕は考えて、彼女が最も多く集めている物を渡すことにした。


 僕は彼女のために一つの眼鏡を用意した。僕は彼女を何度も描いていて、彼女の好みは分かっているつもりだ。ただ、これは失敗だった。僕が誕生日のプレゼントを渡そうと思った日、彼女は僕が用意していた物と全く同じ眼鏡を描けていた。


 琥珀色のスマートなフレーム。僕が彼女の顔に最も似合うと思っていた物を彼女はその顔に身に着けていた。


 彼女は僕が渡せずにいたプレゼントの存在に気付いた。僕が謝ると彼女は微笑み「それを君が選んだってことは、君が私の好みを分かってるってことよね」と楽しそうに言ってくれた。


 せっかく用意した眼鏡だったけど、彼女には渡せなかった。代わりに、彼女から頼まれて、僕はその眼鏡をかけるようになった。ペアルックというのは恥ずかしいけど、彼女がそれを望んでいるのなら、僕はそうする。


 ただ、眼鏡をかけるうえで、レンズは外した。僕はレンズを必要としていなかったから。


 二人で同じ眼鏡をかけるようになって僕の鼻にも眼鏡のあとが、小さなくぼみができる。そのくぼみは僕と彼女の共通点であり、友情の印のようなものに思えた。


 今日も僕は彼女をモデルに新たな画を描く。お揃いの眼鏡をかけた彼女を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕と彼女と琥珀色の眼鏡 あげあげぱん @ageage2023

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ