相棒

七野りく

相棒

 今思えば、物心ついた時から私の視界は曇っていた。

 世界とは『そも見え難きもの』であり、健康診断の視力検査で1.0を出した記憶は幼稚園時代ですらない。というか、0.5すらない。視力2.0の人類とか存在しているのだろうか? と今でも半信半疑である。

 さて、子供時代に視力が悪いと何が起こるか。

 思い出すのは、とにかく球技が不得手であったことだ。何せボールが霞んでいる。この時点で不利である。

 必然、ドッチボールは回避に特化したし、サッカーはDFばかりやっていた。当然、後から「躱してばかり」「妨害ばかりするな」と、ブツブツ文句を言われる。

 仕方ないじゃないか。こちとら視力が恐ろしく悪いのである。文句を言うお前の顔すら近づかないと認識難なのだ。あと、文句を言うなら勝ってから言え。

 鬼ごっこも苦労した。

 大らかな幼稚園だったので、そこそこ広い園全体を走り回っていたのだが、何せ遠目が効かない。そして、幼稚園児の年長ともなるとその元気は無限大である。

 必然、索敵能力に劣る我が身では不利となる。

 遂に捉えたぞ、と追いかけるも別人だった時のあの口惜しさと恥ずかしさたるや!

 いい加減どうにもならぬと自分で言いだしたのか。はたまた、両親も『そろそろ』と考えていたのか。

 私が『めがね』なる物体と遭遇したのは、小学校入学直前だったように思う。


 いや、あのですね……反則ですよ、ええ。


 目を細めなくとも人や犬猫の顔がはっきり分かる。

 遠くの看板がぼやけない。

 本も近づけなくても読める。

 これがどれ程、素晴らしいことかっ!

 小学校一年生にして私の世界は『それなりに見える』ものへと変化したのだ。

 革命であった。一大変化であった。

 以来、めがねは私の相棒である。漫画等で描かれる『めがねあるある』は一通り実体験している位に付き合いも長い。

 ……ただなぁ、視力2.0の世界を体験したくもあるんだよなぁ。

 そんなことを時折考えつつも、結局めがねは手放せないのだが。

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相棒 七野りく @yukinagi

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