めがね属性は正義です

伊崎夢玖

第1話

「うわ…最悪…。もう、めがねヤダ!」


そう言って、幼馴染はめがねを外した。

めがねの何が嫌なのか?

正直、めがね好き――もとい、めがね属性を持った女の子が好きな俺には理解できなかった。


めがね――それは、素敵アイテム。

めがねをかけるだけで、『めがね属性』が付与される。

その属性は、ある一定数の人間を魅了する効果があり、効果の継続時間はめがねをかけている状態であれば無限。

特定条件下の人間にとっては最強の属性と言っても過言ではない。

それを、俺の目の前にいる幼馴染は、めがねを拒否し、外した。

これは全世界のめがね属性好きに対する宣戦布告として受け取り、全面戦争を起こすきっかけには十分だった。

だが、ここで俺が感情的になってしまっては話が進まなくなる可能性がある。

「冷静に、冷静に…」と自分に言い聞かせ、幼馴染に話しかける。


「めがねの何が嫌なんだよ」

「だって、全然かわいくないじゃん」

「かわいくなくないじゃん。自分で気に入って買ったんだろ?」

「そうだけど、違うの!」

「何が?」

「…メイクが崩れる…」

「……はぁ!?」


まさかの答えに、素っ頓狂な声が出てしまった。

しかし、幼馴染は本気だったらしく、俺の素っ頓狂な声に全身で不快感を表した。


「ゲームとかで戦う時に鎧とか武器とか装備するでしょ?」

「……まぁ…」

「それと同じ」

「……??」

「女の子にとって、メイクは武装なの。鎧とか武器とかと同じなの。それが崩れるっていうことは、どこかしら装備してない状態で戦いに行くのと同じなの。それがどういうことか分かるでしょ?」


なるほど、そういうことか…、と納得した。

が、それとこれとは話は別だ。

なんとしてでも、めがねを装備してもらいたい俺は反論に出た。


「お前が『めがね欲しい』って言うから、せっかくの休みを潰してまで付き合ったってのに…」

「そ、それは…」

「しかも、お前が一番かわいく見えるめがね選んでやったのになぁ…」


そう。

幼馴染が買っためがねは幼馴染自身が選んだものではない。

俺が幼馴染に似合うと思って選んだ数あるめがねの中から気に入った一本なのである。


「ほんとに、かわいく見える…?」


押しに弱い幼馴染。

本当にチョロい。

ここまでくれば、あとひと押しである。


「当たり前だろ。俺を何だと思ってんだよ。誰よりもお前のこと知ってる俺が言うんだから、間違いない」

「メイクが崩れても…?」

「崩れないメイクすればいいんじゃね?」

「そうだけど…」

「『だけど』……何?」

「今月使いすぎて新しいコスメ買えない」

「だったら、俺が…」

「ほんとに!?」

「あ、あぁ…」

「やったー!ありがと!やっぱ、持つべきものは幼馴染だよねぇ」


さっきまでのイライラはどこへやら。

外しためがねを装着し、ルンルンご機嫌モードになりやがった。

俺としてはめがねをかけてくれたので満足しているだが、なんだか釈然としないのは、幼馴染の手のひらの上で転がされた気がするから。

とはいえ、やはりめがねはいい。

かけただけなのに、かわいさとセクシーさを兼ね備えさせる。


(さすが、めがね…。めがね、万歳…!)


このアイテムのために、俺はムッツリな変態を貫くと改めて誓ったのだった。

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めがね属性は正義です 伊崎夢玖 @mkmk_69

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