made in ...
八咫空 朱穏
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「すみません、この建物にはどうやって行けばいいですか?」
どこか見覚えのあるバスから降りてきた青年が僕に訪ねる。
「あー、ここね。行くのは初めて?」
「はい、初めてです」
「あんまり遠くないし、連れていくよ」
「え、でも……」
「初見の人はたどり着けない人もいるからさ、気にしないで?」
「えぇ!? もしかして、凄く凄いところだったりしますか?」
「冗談だよ。でも、初見でそこ行くのは難しいんだ。だから教えるよりも案内したほうが早いってね」
「なるほど……。では、お言葉に甘えさせてもらいます」
俺がよく行っているその場所は立地こそ大通りに面してはいるものの、通りに面している出入口がない。そのせいでかなりの大回りを要求されることになって、結果迷ってたどり着けない人が多いらしい。俺は道を尋ねてきた青年を連れていつもの場所に行く。ちょっと不親切かもしれないが、割と目印も多いからすぐに道は覚える事だろう。
「ほら、着いたぜ」
「おぉ! ありがとうございます! なんとお礼したらいいか……」
「礼は言葉だけで十分さ」
「いやでも……あ、そうだ! お礼にこれを受け取ってください」
青年がリュックから包みを取り出して差し出す。
「ん? なんだこれ」
「昔からある身につけるものですよ。あなたも身に着けているでしょう?」
「えぇ!? ってことは結構高いんじゃないか?」
「いえいえ、これくらいのものはお土産程度なものですから。それではさようなら。でも――」
半ば強引に包みを握らされて、青年は店の中に消えていく。最後の部分は、扉から漏れた爆音にかき消されてしまった。追いかけようかと思ったけど、青年の言葉的に追いかけないほうが良さそうだったからやめておく。礼儀正しかったけど変な奴だったなと思いながら、握らされた包みを開けると、入っていたのは眼鏡だった。
観察してみるも特に変わったところもなかったから、自分のを外してかけてみた。
その途端、世界の景色が変わった。建物が縦に伸びたり、流線型を多用するようになったり、電飾の面積が拡大していたりする世界はこことあんまり変わらない。だけど、しばらく世界を見ていると明らかに違うことに気付く。自動車が宙を走り、空中にホログラムディスプレイを出現させて操作する通行人がさも当たり前のように街を歩いている。
眼鏡をはずして、自分のをかけ直すと世界は元に戻った。
この眼鏡は何なのだろう? もう一度まじまじと観察すると、あることに気付いた。そして、さっきのちょっとおかしな青年の正体も。
あいつは未来から来た人間だ。何故なら、眼鏡に刻印されている国が過去現在、地図のどこにも載っていない名前だから。
made in ... 八咫空 朱穏 @Sunon_Yatazora
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