第4話 シュレイノリアとジューネスティーン


 ジューネスティーンは、シュレイノリアの様子から、実験も行っていない魔法紋の影響によって視力を失う可能性が有る事も考慮していた。

 信号の加減によっては神経に多大な影響を与えるかもしれない事も考えなくはなかった。

 その対処方法も考えてはいたが、直したとしても回復させるまでは見えてない。

 完全に治ると言っても、見えない間の恐怖体験は残る事から、次の魔法に影響を及ぼすかもしれない。

 ホバーボードの開発の際に、レィオーンパードがひっくり返って傷を負うと直ぐに手当てをするが、それでも実験中に受けたケガの恐怖体験は残り実験から逃げ出す事になった。

 痛みもだが、突然見えなくなった事の恐怖が何らかのトラウマになる可能性を考えると、シュレイノリアでも気が引けていた。

 その様子をジューネスティーンは見逃さなかった。

「やっぱり、考えていたんじゃないか」

 ヤレヤレといった様子で答えたジューネスティーンにシュレイノリアは焦った表情をした。

「だ、大丈夫だ。私の治癒魔法は完璧だ! 腕だって足だって治せただろう。その後だって、違和感も無いって言ってた。だから、目も大丈夫だ!」

 シュレイノリアは、自身のアイデアを実験をせずに終わらせる事を嫌ったようだ。

 ジューネスティーンは、仕方なさそうな表情をして、シュレイノリアから視線を外して考えるような表情をした。

(そうだったな。セルレインさん達と狩りに出た時に魔物の不意打ちで大変な目にあった時も、シュレが治してくれて何事もなく終わったけど、魔法紋の実験中に視力が無くなってしまったらと思うと、少しの時間でもちょっと心配なんだけど。……。でも、失明したとしても遠視魔法を応用したら視力が無くても見れるかもしれないのか。……、ん? ああ、シュレも同じ事を考えているのか。魔法紋に刻んで信号として送るなら大きな問題にはならない、かな。でも、その実験台は俺だよなぁ)

 シュレイノリアは、まだ、動揺していると、ジューネスティーンはため息を吐いた。

「分かったよ。その実験、付き合うよ」

 その言葉を聞くとシュレイノリアは喜んだ様子でジューネスティーンを見た。

「そうか、やっぱり、ジュネスだ。危険になるような事はしない。万一の時はちゃんと、治癒魔法で治療する」

 今までとは打って変わった表情を見せるシュレイノリアにジューネスティーンは、困ったような表情をした。

(何だか、尻尾を振る犬みたいだ。ヨダレを流しそうだよ)

 ジューネスティーンはシュレイノリアの外部の視界を直接視界に描かせる話に付き合う事にした。


 シュレイノリアの魔法紋を描く方法は、その魔法紋に行わせる内容をイメージして魔法紋に描かせる。

 通常の魔法紋は、剣に描いたり、スクロールに描いたりする際、職人が一つ一つ刻んだり、筆で描いたりして作られるが、シュレイノリアは魔法紋を描くのではなく、発動させたい魔法をイメージして結果として魔法紋になるようにしている。

 魔法紋が思ように発動しないのは、描く時に間違えてしまう事によるが、魔法紋を描こうと考えるのではなく、発動された時の魔法をイメージして、その魔法を魔法紋の中に閉じ込めるようにイメージする事で魔法紋の不具合も解消している。

 完全に同じ物を写す事を手掛けている魔法紋の職人達とは大きく違う部分である。


 ジューネスティーンの了解を得たシュレイノリアは、魔法紋の開発に取り掛かった。

 考える内容は、パワードスーツによって飛躍的に防御力を上げているが、視界を求めるためには外を見る為に窓を開ける必要がある。

 フルメタルアーマーの兜にはスリッドの入ったバイザーを下げて戦闘し、戦闘を行わない時は、そのバイザーを上に上げて視界を確保している。

 しかし、バイザーにスリッドを入れた場合であっても、その部分は視界を確保できているが、隙間が出来てしまいスリッドより細い物なら中に入る。

 そして、スリッドは視界が狭い事と、スリッドを入れる事により防御力が落ちる。

 その為に内部に居ても視界を確保できるようにと考えた視野拡張めがねだったが、様々な問題を抱えていた事から、シュレイノリアは、直接視界を確保する為の方法を考えた。

 人は脳からの信号によって体を動かしているので、その信号を検知してパワードスーツを動かすのであれば、その逆もできるのではないかというものだった。


 そんなシュレイノリアのアイデアだが、その実験台となるのはジューネスティーンとなるので、何かを気にするような表情をした。

「なあ、シュレ。直接、外の視界を写すのはいいけど、実際にはどんなふうに行うんだ? 網膜に直接写すのか、でも、パワードスーツの逆となったら、網膜から脳への神経に信号を送るって事なのか?」

 その質問にシュレイノリアは固まった。

(あ、これ、アイデアだけは出来たけど、具体的な事は考えてないパターンだ)

 ジューネスティーンは、残念そうな表情をしたが、直ぐに仕方ないと思ったようだ。

「でも、アイデアとしては良いかもしれないな。密閉された空間でも、その方向に顔や目を向けたら目に見える映像が映っているならありがたいな。映像として網膜に投影するにしても、網膜に映った映像信号を送るにしても、具体的な方法は良く検討して方向性と安全性を予測し実験してみてからだね」

 その言葉に、シュレイノリアは引き攣った笑いを浮かべた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

視野拡張めがね  パワードスーツ ガイファント序章 逢明日いずな @meet_tomorrow

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ