めがね、出てこない。
ナナシマイ
「オレたちマブダチ」グループチャット
「めがね、出てこないんだけど」
「あ、わかるー」
「俺も」
「え、ふたりも?」
「最近寒いからねー、暖かくなるまで待つしかないよね」
「そんなに待てないよ」
「だいじょぶだいじょぶ、もうすぐだって!」
「いやむしろそんなすぐ出てくるもんなん?」
「やっぱり陽に当たらないと駄目だって聞くよー」
「なるほどな。まぁたしかに部屋にこもりっきりだったし、鬱々としてた気が」
「視野を広げてみよう的な?」
「おおっ、良いこと言うじゃーん。ちょっと高いところで様子みよっかなー」
「それでも出てこなかったら?」
「やっぱ山だろ」
「それは高すぎー!」
「うん、高すぎる。てか花粉がたいへんで困ってるのに絶対無理」
「えっ花粉って関係あるの?」
「あるだろ。痒すぎるし。鼻水やばいし」
「あーそっか、たしかに垂れたりしたら汚いかも」
「ひどい」
「ひどい」
「ごめんて!」
「つーかまず声が出ねえ」
「たしかに、歌とか大事だよね!」
「そういう意味だとにんにくが効くらしいよ」
「聞いたことある気がするな」
「わたし初耳ー」
「まあじゃあとりあえず試してみて、出てきたら結界報告ね」
「おっけー!」
「りょ」
◇
眼鏡をどこかへやってしまった男の家。
「にんにくにんにくにんにくにんにくにんにく――……あ、あった」
さっそくグループチャットに『出てきたよ』とメッセージを送る。
『いやいや早すぎっ!?』
『それ最初から出てただろ』
男は眼鏡を見つけた場所――寝床にしているロフトの惨状を思う。布団の中であれこれできるように、色んなものが散らばっているのだ。
『まあ、そうと言えばそうかも』
◇
まいた種の発芽を待ち望む女の家。
「ふーん、コンパニオンプランツって言うんだ……いやでも、これって芽が出たあとの話な気がする」
◇
山。
「やっほー! うおお、気持ちいー。やっぱ声出すと違えな」
にんにくで風邪予防もバッチリ、ついでににんにくの歌とか作れば売れるんじゃないか。
男の、歌手への道のりはまだ長い。
めがね、出てこない。 ナナシマイ @nanashimai
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