メガネ男子愛護団体活動レポート

うめもも さくら

第1話 メガネ男子愛護団体がここに誕生


珠希たまきちゃん!これは由々しき事態である!」


 放課後、部室に入ってくるやいなや、珠希の友人である夏美なつみは深刻な表情でそう訴えた。


「夏美……また何、突拍子もないこと言ってるの?由々しき事態って、何?」


 夏美が突然、何かを思い立ち、突拍子もないことを言うのはいつものことだ。

 それを知っている珠希は、眉をひそめて、かけた眼鏡の位置を直しながら、ため息まじりに問いかける。

 夏美はずんずんと、珠希の前にやって来て、珠希の机に手を置いて、俯く。

 そして、ゆっくりと顔を上げて、珠希の目をじっとみつめてから、珠希の問いに答えた。


「最近、メガネ男子が少なすぎない?」

「は?」

「メガネ男子だよ!眼鏡をかけてる男子!漫画やゲームのキャラには個性として、必ず一人はいるメガネ男子!」

「それが?」

「少なすぎるんだよ!うちの学校は制服は自由、校則もゆるゆるで、どんな格好してても基本怒られないのにさぁ!自分のクラスを見てごらんよ!みぃんな、コンタクト!メガネ男子は、今や絶滅の危機に瀕していると言っても過言じゃない!」


 夏美の熱弁に対して、珠希は冷静に言う。


「うぅん……たしかに今は少ないかもねぇ……最近のコンタクトレンズって質が良くなってるから、一日中つけてても違和感ないし、コンタクトの方が何をするにしても眼鏡より動きやすいし……」


 珠希は普段は眼鏡をかけているが、運動したり、遠出したりする時は眼鏡を持参した上でコンタクトをする。

 だからこそ、コンタクトレンズの使い心地が良いのは大変ありがたいことなのである。

 珠希の冷静な言葉に、夏美は反論する。


「実用性はわかってる!でも眼鏡って選ばれし人しか、つけるのを認められてないのにもったいなくない!?現に、あたしは選ばれていない人間だし!」

「まぁ、夏美は視力良すぎて、マサイ族並みの目をしてるからねぇ」


 マサイ族とはとても目の良い民族の方々。視力が良いのは普段から遠くを見て生活しているからだそうで、視力が8.0とか10.0などすごいらしい。

 不満げな表情の夏美をなだめながら、珠希が言う。


「……でも、今はオシャレメガネっていう伊達メガネも流行ってるじゃない?」

「そんな養殖メガネ男子はイヤだ!」

「わがままだなぁ……」


 夏美の意思は固く、珠希の説得はむなしくも徒労に終わる。


「とにかく!メガネ男子の素質も、実際に眼鏡は持ってるのにつけないで、一般人と同じ見た目を求めるなんてもったいないと思わない!?」

「たしかに、もったいない……かなぁ?」


 夏美は焦れたように珠希に同意を求め、珠希が完全に同意はしていないが、渋々納得したところで夏美は満面の笑みを浮かべた。

 そして、マサイ族並みの視力を持つ目をキラキラさせながら、宣言をした。


「部員である珠希ちゃんも同意をしてくれたということで、これよりこの部活はメガネ男子愛護団体として活動致します!」

「…………っえぇぇぇぇぇえっ!?」


 こうして、夏美の独断と偏見によって、メガネ男子愛護団体が誕生したのであった。




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