第11話 ルカと話したこと
RPG要素が増えすぎてきたので、日常に戻ることにして、薬草摘みに来た。
「またここ?」
ルカが文句を言う。それもまあいい。
黙って薬草を摘む。
日常とは何か。
常日頃、行っていることではないか。漢字をひっくり返しただけ?
体を動かすと、ついでに頭も動く気がする。惰性だとダメか?
見慣れた薬草を集める。
黙々、黙々と……
「冒険、行きたい?」
ルカが聞いてきた。
「ルカが行こうって言ってなかったか?」
摘みながら答える。確かそうだったはず。
「ボクは、どっちでもいいよ」
なんで? と思ったけど言えなかった。ルカと二人きりになれる場所を探しているとかは、冒険の目的としてダメな気がするし。
「闇魔法の師匠を探す旅とかは?」
そういうのがRPGの基本だったはず。そういうつもりはなかったけれど、異世界転生してしまったからには、そういう楽しみ方も悪くないのでは。20年間ふつうに生きて来たけれど、記憶が戻ってきたのだから、それなりの異世界生活を楽しむというのもアリだ。
「だからボクは魔法必要ないから」
ルカなら最強戦士とかになれるかも。ふつうに考えて。
「ボクは最強双剣士を目指す」
子供がはしゃいでいるようにしか見えない。ルカも同い年のはずだったけれど、でもそれだと38歳でないと計算が合わない。高校卒業式前に死んでたはず。
進学する大学も決まっていたのに。
ルカと一緒に暮らすことになっていた。
恋人同士ではなくて、ルームメイトとしてだけど。それでも講義を受けながら輝く日々が約束されているはずだった。
「それはやめろ。双剣は向いてないって言われたばかりだろ」
「向いてませんって言われたからそれに従うっていうのもヤダ。無理だと言われたらそれはそれで燃える。ボクは最高に強い双剣士になる」
アニメみたいなことを……
「じゃあ、双剣士の師匠を探す旅って言うのは?」
「旅の目的って必要?」
「一応、親にどうして行くの? と聞かれた時にあった方がいい……」
ルームメイトの時もそうだった。少し遠い大学に一緒に行くから、ルームシェアして安く済ませたいとかそれっぽい理由を付けてた。
「エッチするための場所を探しに行きますだと心配されるよね」
恥ずかしげもない。
「もう少しぼかして言え……」
改めて言われるとすごく嫌だ。
「したいのにそれを素直に表現しないハルト、かわいい」
言っていることはヤバいけど、その表情が天使で惚れた。言っていることは欲にまみれているのに、表情は無垢な天使。
最高だ。
俺のルカは可愛い。とにかくとっても素晴らしくカワイイ。
という気持ちを押し殺す。
「宿とかに泊ってするのは?」
ありえない案を出してきた……
「この村の宿をラブホと同じに考えるな。その機能はここにはない。あそこに泊るのは冒険初心者。まだそれほど信頼関係も築けていないパーティ初心者にも個室が与えられる宿。カプセルホテル程度だけど、ゆえに隣の部屋の音はダダ洩れだ」
「詳しいね。使ったことあるの?」
ルカの目が座っている。
浮気を疑う目だ。
「ない。噂に聞くだけ」
早口に言う。するとルカが疑いの目をさらに向けて来た。
本当にないのに。俺はルカ一筋なのに。でもそれを言うとますます信用されない気がして言わなかった。
「それに、この村は小さい」
「うん」
「小さくて、生まれた時からここに住んでいる俺は、この村の人間なら誰にでも知られている。当たり前のように、リーフとマリーの息子のハリーと知られているし、俺も村人のことならわかる。知らない隣人なんてありえないのがこの村だ」
「へー」
「その俺が、あの居酒屋兼宿屋に泊まろうものなら、村中の人間に噂され心配される」
あのリーフとマリーの息子が家出して宿屋に泊っていると……
「恥ずかしいことこの上ない」
想像もしたくない。ありえないくらいありえない。
「それに俺が家出していたとしても、宿屋に泊っていることは瞬く間に父さんたちに伝わり家出にならない」
ただ単に宿代が出て行くだけに終わる。
「そうなると、冒険に行くしか安心してエッチができる場所がないってことか」
「オブラートに包め」
「はーい」
クスクス笑いながら返事をするルカは天使。
マジで笑顔が天使だ。
「ルカは、ずっとこの世界に居られるのか?」
ずっと心配していた。怖くて聞けなかった。
「ボク?」
「うん」
ずっと気になっていたこと。
もしも無理だと言われたら、そうならないようにしなければ。もしもダメだったとしても、早めに聞いておけばその対処法を考え出すことができる。
突発的なことが弱いのは自覚している。前世で死んだのも突発的だったから。でも前もって準備できるのなら、それを考えるのは得意だ。
ぐうの音が出ない程完璧な策を練って見せる。
「そのつもりで来たよ」
「その……、ルカの親御さんは?」
それもずっと気になっていた。
ルカの家はルカをねこっ可愛がりしている。ルカがいつまでもおこちゃまめいているのも、ご両親、果ては親戚一同にまで愛されまくっているからだ。
「親御さんって、いつの時代だよ」
「茶化すな。真面目に聞いているんだ」
「まあ、前の世界で今まで通りに暮らしていると思うよ」
笑みを浮かべ、大したことではないという表情をしていた。
そういう表情はしていたけれど……
「ごめん……」
ルカをそっと抱きしめる。
「嬉しいけど、どうして?」
「ルカにとって、家族は大切だろう?」
「ハルトがいなくなるよりも、ずっといいから……」
遠くを見つめるようにルカが言う。
「ハルトがこうしてひと気がないところで抱きしめてくれる。……夢みたいだ」
「ごめん」
「ホントだよ。もう、嫌だよ。あんなの……」
「ごめん……、なんでもする」
「ボクを幸せにして」
「うん。愛してるよ、ルカ」
「へへっ」
恋人が嬉しそうに笑うから、ルカではなくて俺が幸せになった。
イケメンめがねの異世界転生記 玄栖佳純 @casumi_cross
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