第3話 目覚め


なんだか体がふわふわする。俺は一体どうしちまったんだ? もしかして死んだのか? 



そんなことを思っていると目の前に見たことのある景色が映し出される。



『なぁ、知ってるか? このダンジョンは別の世界と繋がってるらしいぜ』



『別の世界か、それは確かに浪漫があるな』



ダンジョンに入る前に3人で話していた記憶。確かあのダンジョンはこの世界ではなく別の世界の人間が作ったとか総司が言ってたな。



また映像が切り替わる。あいつらとパーティを組んで半年くらいの頃、1階層でゴブリンと戦ってた時の記憶だ。



『悪い! そっちに2匹行った!!』



『ちょっおまっ! この、馬鹿康太ぁ!!』



『くそ、しゃあねぇな、やってやるよ!!』



あの時は連携も何もなくてとりあえずがむしゃらに戦ってたな。その度に何かあって、誰かが怒られて、その後に笑ってまたダンジョンに挑んで。



ダンジョンから帰った後の飯はめっちゃ美味かった。なんつーか、生きてるって感じがした。



休日は悔いが残らないようにやりたいことはやるようにしてた。見たい映画を見て、中学の友達とか、総司と優弥とゲームとかしたりした。



けど



「………それも、もう終わりなのか?」




そう思うとどうしようもない喪失感に襲われる。辺りを見る、懐かしい記憶、色々な記憶がモニターのように映し出されている。




「………………いやだ」



死にたくない。諦められない。俺が歩き出すと記憶の映像は全て消えていて辺りは暗闇と化していた。俺は暗闇の中をひたすら歩き続ける。



「ここで終わりなんてごめんだ。俺にはやりたいことがまだまだあるんだ」




出口を見つける為にひたすら歩く。すると奥の方がうっすらと光るものがあるのが見えた。光はどんどん強くなっていく。俺はあまりの眩しさに目を閉じた。



俺は光に呑み込まれた。






「………ここはどこだ?」



目を覚ますと天井が見えた。俺は状況を確認する為に辺りを見渡す。そこであることに気づいた。



「痛くない? 傷もないし、毒も抜けてる……」



服をめくる。蛇の噛み跡もない、骨折も治ってる。あんな状況からでも助かるなんて我ながら運が良い。多分俺が気を失った後にすぐに救助が来てくれて治してくれたのだろう。



服が変わっているのは治療に邪魔だったからだな。それなら説明がつく。後で治療してくれた人にはお礼を言わないといけないな。



「えーと、俺の服はどこだ?」



辺りを探したがどこにも俺の服はなかった。もしかして洗濯でもしてくれたのだろうか。そこまでしてくれたのならば言葉だけでなく何かお金とかを渡した方が良いだろうか?



俺は助けてくれた人間にお礼を言うためにベッドから下りてドアへ向かう。するとーー



「やぁ、起きたんだね」



「っ!!」




俺はすぐにその場から離脱した。声をかけられるまで全く気配がしなかった。



「ふふ、良い反応だね」



声の主はクスクスと笑って窓の縁に座っていた。凄まじい程の美人だ。ブロンド色の髪の毛、全てを引きずり込んだしまいそうな瞳はとても幻想的だ。



だからこそ怖い、恐ろしい。実力の底が測れない。こんな人間は”ランカー”の中にはいなかった。しかし、こいつからはランカーと同じ気配がする。人間という枠組みを完全に外れてしまっている者たちと同じ気配だ。



俺は動揺を押さえ込み、平静を装って話しかける。



「あんたが、俺を助けてくれたのか?」



「うん、そうだよ。私はイリス。君が倒れてたから運んだのさ」



「……そうか、ありがとう」



「ふふふ、どういたしまして」



「あと、俺の服ってどこにあるんだ?」



洗濯中とかじゃなければ服は返してほしい。今の格好はズボンと服が一体になっているやつだ、これじゃ外に出られない。



「ああ、君の装備は今カルラが調べているからちょっと待ってね」



「は? なんで調べてるんだよ」



言っちゃ悪いが俺の装備はそんなに高くはない。愛用の刀が少しだけ高いだけ、他の装備はそこら辺でも買い揃えることができるレベルだ。



「うん、なんでも君の装備は。………いや、直接説明してもらう方が早いか。ちょうど来たみたいだしね」



「なんだ? この気配……」



まだ遠いはずなのにはっきりと感じる。それはどんどん近づいて来る。そしてドアが音を立てて開く。女性が入ってきた。



「もう起きてたのね。ちょうど良かった、これについて説明がほしかったのよ」



「まじ、かよ」



目眩がしてしまう。化け物が2人に増えた。本当に今日はなんなんだ? 厄日なのか? やっべー、俺お祓いとか行ってないな。



俺は現実逃避に入る。そうしなければやってられない。



「聞いてるの? これの説明をしなさい」



俺が現実逃避をしていると紫色の髪の美人、確かカルラって名前の人間が俺のスマホを持って説明しろとせがんでくる。けれど説明しろと言われても無理だ。俺にそんな知識はない。



「それは店で買ったやつだから詳しくは知らない。専門の人に聞いてくれ」



「なら、その店まで案内しなさい」



「いや、スマホなら普通に店か、探索協会が提携してる店ならどこにでも売ってるだろ」



「探索協会? 何を言ってるの?」



「は? あんたこそ何言ってんだ?」



なんで2人とも首を傾げてるんだ? 意味が分からない。まるで探索協会を知らないような反応だ。

俺が考えていると目の前の女は一歩前に出て高圧的に話しかけてくる。



「ならその探索協会はどこにあるの?」



「どこって、本部なら東京、支部なら各地の県に3つずつあったはずだろ」



「とうきょう? あなた、本当に何言ってるの?」



「いやいや、あんたこそ何言ってんだよ。なんで分からないんだ?」



なんだ? 何かがおかしい。なんでこんなに話が噛み合わない? 奇妙な感覚が体を通過する。



俺は改めて2人を観察する。染めているようには見えない髪の毛。服装も日本とは明らかに違う。なのに日本語はとても流暢。



俺はなぜか優弥の言葉を思い出した。



『なぁ、知ってるか? このダンジョンは別の世界と繋がってるらしいぜ』



その瞬間、背中に変な汗が流れ出た。もし、優弥が言ってたことが本当ならその可能性は充分にある。


俺は呼吸を整えて2人を見る。



「なぁ、あんたら。日本とか地球、探索協会って言葉に聞き覚えはあるか?」



「いや、聞いたことないね」



「私も一緒よ。それは一体なんなのかしら」



「…………そうか」



こいつらの回答を聞いてその可能性が出てきた。それは別の世界の可能性。だってそれなら俺の服とかに興味を持つのも説明がつくしな。



「それで? 結局これはどういう原理で動いているの? こんな物は初めて見たわ。それに東京ってなに? 日本って? 聞きたいことが更に増えたわ」



「一気に聞いてくるなよ。あと東京とかは、多分、言っても無駄だ」



俺の態度が気に食わなかったのか。目の前の女の圧が膨れ上がる。全身の毛穴が広がるような感覚だ。



「あなた、私のことを馬鹿にしてるのかしら?」



「ふふふ、カルラは頭が良いから、たぶん理解出来ると思うよ。言うだけ言ってみたら?」



「……東京とかって言うのは俺が住んでた場所の名前だ。日本って言うのは国の名前。あとその板はスマホって言われてる一種の連絡手段だ」



カルラは俺の目をじっと見る。



「………ふーん。なるほどね。嘘は言ってないわね」



「もう良いか? 助けてくれたことは礼を言う、ありがとう。でも俺の装備は返してくれ、大切な物なんだ」



そう、今となってはこの装備は大切だ。もしここが本当に別の世界ならあれは俺の元の世界の繋がりになる。手がかりは残しておくべきだ。



「あなたが持っていた武器は返す。けれどこの服とすまほ?はもう少し待ってもらうわ」



「……どれくらいだ?」



「そうね、数時間くらいで返すわ」



「………分かった。ただしボロボロにはしないでくれ」



俺は助けられた身、これくらいならまだ許容範囲だ。



「えぇ、調べ終わったらしっかり返すわ」



カルラはそのままドアを出た。俺はベッドに座って考える。ここが別世界と仮定して俺はどうやって生きるべきなのか。生活はどうするか、果たしてまともな職はあるのだろうか。



そんなことを考えていると




「君は本当に面白いね。服装とかもそうだけど私たちの知らないことをたくさん知っているような気がするよ」



「そうだな、多分あんたらが知らないようなことを俺はたくさん知ってると思うぞ」



「へえ、例えばどんなこと?」



何故かずっとジト目の女は興味津々と言った様子だ。するとまた新しい気配がする。入ってきたのは長い耳を持つ赤髪の女の子だ。手には俺の剣を持っている。



「目が覚めたんですね」



「………本当にどうなってんだよ」



2人に比べて身長が小さく弱そうな印象であるが、それでも放っているプレッシャーは2人となんら遜色ない。同種、2人と同じ怪物、ここが別世界ならこれがこの世界の標準なのか? ハードモードすぎるだろ。




そしてあんな長い耳の人間は俺の世界には存在しない。別世界にいることはもはや確定しているようなものだ。



「……大丈夫ですか?」



「ああ、うん。気にしないでくれ。ちょっと色々あって混乱してるだけだから」



「そうですか」



長耳の少女は淡々としている。表情筋は出会った瞬間から全く変わっていない。長耳の少女は無表情のままで俺の武器を近くの机においた。



「あ、ありがとう」



「……それでお二人はなにを?」



「ああ、それはね、彼が私たちの知らないようなことを話してくれるんだって。ミナも一緒に聞いたらどう? 面白いと思うよ」



「……分かりました」




俺は話すなんて一言も言ってないのに、なんだか話す雰囲気になっている。イリスに逃げ道を塞がれてしまった。



「……分かった。そうだな、俺の国について少し話そうか」



「確か、にほんだったよね? どんな国か興味あるなぁ」



「そんな国聞いたことないですね。どんな国なんですか?」



「俺が育った国はここより遥かに遠くてな………」



俺は自分の重要な情報はあまり話さずにこの世界の情報を手に入れる為に気をつけながら2人と会話をした。

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ダンジョンで死にかけたら転移しました。〜異世界でもなんとか生きてます クククランダ @kukukuranda

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