第2話 出会い

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冒険者ギルド。それは護衛、討伐、採取、各地に存在する迷宮の踏破、様々なことを仕事にする世界で1番自由な職業。当然、世界的にもその人気は絶大であり、あらゆる国が冒険者活動をできるようにギルドを設立している。




その中でも世界有数の大国であるドレーラ帝国。その中心部である帝都では冒険者のレベルも当然高く、皆が並ではないことが雰囲気で分かる。そんな強者たちが揃っている冒険者たちが今、静まり返っている。



異様な光景、その冒険者たちの視線は常に同じところを向いている。冒険者全員が今入ってきた3人組に注目して静かになったのだ。



「ふふふ、ここはいつ来ても静かだね」



ブロンド色の髪を持ち、腰に剣を携えているイリスはどこか人をからかうように周りを見渡してクスクスと笑う。



「それは私たちが来たからよ。みんなが私たちに注目してるの」



黒のロングコートを着た整った顔立ちの美人、カルラは周りに興味がない、とでも言うように一切周りに目を向けずに歩いて行く。



「…………」



2人より頭1つ身長が低いエルフはただ無言で2人についていく。その表情は無だった。一体何を考えているのか少しも読み取れない、分からない。



3人が進む度に進行方向にいた人は道を空ける。紫色の髪のなびかせながらそのまま掲示板に貼られた紙を見てため息をつく。



「あんまり面白そうな依頼はないわ。今日は近くの迷宮で良い?」



「うん、それなら仕方ないね。良いよ」



「私も大丈夫です」



3人はギルドを出る。しばらくするとギルドは再び活気あふれる場所へと姿を戻す。そんな騒がしいギルドの大半の話題は出て行った3人組だった。



若い男、最近冒険者になったばかりの人間がテーブルに座っていた男に話しかける。



「なぁ、俺初めて見たんだけどあいつらがそうなのか?」



「そうだ、あいつらがこの帝国のトップ。全員が”超級冒険者”だ」



「はえー。俺、超級冒険者なんか初めて見たわ。しかも全員超美人だったな」



「一応言っとくけど声をかけようなんて思わない方が良いぞ。程度に差はあるがあいつらも超級冒険者、あの『天騎士』と同格に分類される化け物さ」



髭を蓄えたベテランの冒険者は1人の男を思い浮かべる。それはこの帝国最強の騎士、たった1人で一国の軍事力を凌駕する力を持つ怪物。



男は少しチャラい男を一瞬強く見る。



「あいつらは『天騎士』ほどではないが俺たちから見たら充分化け物だ。下手に触れて怒らせたら死ぬぞ」



「そ、そんなになのか?」



男は水を飲む。それはこのギルドの暗黙の了解、決して怒らせないように、不快にさせないように関わらないこと。




一度だけそのルールを理解できなかった馬鹿なパーティ、上級冒険者のパーティは彼女らの機嫌を損ねて数分と待たずに壊滅、その後に天騎士がその場を収めたことで街は壊滅せずに済んだ。




その現場を見ていた男はその光景を思い出して身震いする。あれはまさに人を踏み越えた存在だ。戦えば間違いなく殺されると身をもって理解したのだ。




「良いか? 帝国の冒険者としてやっていきたいならあいつらには関わるな。それが俺から出来るアドバイスだ」



「あんた、顔色が……」



男の顔色は青ざめていた。男も上級冒険者だ、だから同じ上級冒険者であるパーティが為す術もなく、ただ蹂躙された光景が目に焼きついてしまってトラウマのようになっている。




それを見た若い男は息を飲んだ。先ほどまでは話しかけてみようと思っていたが、今はそんな気すら起きない。自分より遥かに強いこの男がここまで怯えているからだ。



「あ、アドバイスありがとな。今日は迷宮に行こうかと思っていたけど今回はやめておくことにするぜ」



「あぁ、それが良い」



若い男は急ぎ足で掲示板に向かって、護衛任務の張り紙持ってギルドを出た。



ベテランの男は一度大きく深呼吸をして立ち上がる。



「さて、俺も何か依頼を受けるか」





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Aランク迷宮 大剛石の広場ロウルストーン



この付近で最も難易度が高い迷宮に3人は突入している。



「それにしても、ギルドの人たちは誰も私たちに話しかけないね。ちょっと寂しいなぁ」



イリスはニヤニヤとしながら言う。明らかにそんなことは思っていなかった。



「有象無象のことなんてどうでも良いわ。私たちに話しかける度胸すらない奴らなんかと話すことなんてないでしょう?」



「………私はどちらでも……」




3人は呑気な会話をしながら進む。彼女たちの後方にはバラバラになった魔物が転がっている。イリスは後ろを振り返って魔物だった残骸を見る。



「うーん、やっぱりAランクと言ってもこの程度か。つまらないなぁ」



そう呟きながら襲いかかってくる魔物を目にも止まらぬ速さで斬り刻む。ゴーレム、ガーゴイルなど、硬い物質で出来た魔物たちが一瞬でバラバラになる。



イリスが前で全ての魔物をバラバラにして2人はただ後をついていくだけだった。カルラは歩きながら顎に手を当てる。



「そうね、ここも面白くなくなってきたから。次は少し遠出してSランク迷宮に行きましょうか」



「良いね。私は硬い敵が多く出る所が良いかな」



「私は、できれば綺麗な景色がある迷宮に行きたいです」




「そうね、後で2人の意見が合いそうな迷宮をギルドで見ようかしら」



3人は緊張感のカケラもない会話をする。上級冒険者がパーティを組んで挑むAランク迷宮、それでも苦戦は必須の迷宮をたった1人で攻略する光景は異様だった。





3人は奥に進むと円形の広場に出た。そこには剣を持った巨大なゴーレムが2体いた。3人が広場に入ると扉が締まり、ゴーレムの目に光が宿って動き出す。



イリスは動き出すゴーレムたちを見て剣をゆっくりと抜く。


「今日は何分で倒せるかな? 2人はどう思う?」



「私は4分だと思うわ。ミナは?」



「私は3分だと思います」



カルラとミナの予想を聞いたイリスは笑う。



「3分か。うん、それくらいなら全然行けるね」



イリスは剣を無造作に垂らしながら腕を振り上げているゴーレムを見て笑う。そのままイリスの頭蓋に腕は振り下ろされる。



凄まじい衝撃波と音が広場に響く。カルラはその光景を見てため息をつく。



「はぁ、石の破片がこちらに飛んできたのだけれど? まったく、お気に入りの服なのに……」



「あはは、ごめんね?」



イリスの声がどこからか聞こえた。それと同時にゴーレムの腕がバラバラになった。イリスはゴーレムの頭上に立っていた。



「さて、あと2分ちょっとかな?」



イリスは言葉が終わると同時にジャンプして上は飛んだ。天井に張り付いたと思えばすぐに天井を蹴って加速し、ゴーレムの足元に移動した。



「さて、あと一体だね」



イリスはもう一体のゴーレムに目を向ける。腕を失ったゴーレムは動かない。イリスはゴーレムの足を剣で小さく叩く。するとゴーレムは真っ二つになった。



「じゃあさくっと終わらせようか」



イリスはゴーレムを高速で斬り刻む。腕も足も一瞬でバラバラになり残るは胴体だけになった。



「今どれくらいの時間たった?」



「そうね、2分と少しじゃないかしら」



「じゃあ3分は経ってないんだ」



イリスはゴーレムの胴体の上に立つ。そして剣を突き立て、瞬く間に上下に切り裂いた。ゴーレムの光が失うと同時に閉まっていた扉が開く。



イリスはゴーレムから下りて剣を納刀する。


「はい、おしまい。攻略するのに3時間、けどそのほとんどがお散歩のようなもの。つまらないなぁ」



「確かにそれはそうね。やっぱりSランク以上じゃないと面白くないわ」



「だよね。はぁ、何か面白いことでも起きないかなぁ」



3人は広場を出ようとする。しかし不意にミナが足を止めた。



「ミナ? どうしたの?」



「分かりません。けど凄まじい魔力があそこに集まっています」



ミナが指を指したのは広場の真ん中だった。2人も少し遅れて感じた。だんだんと魔力が強くなっていくことに。



何回も入っている迷宮だがこんなことは今までなかった。イリスは剣を引き抜いて笑う。



「なんだか面白そうだ。一体何がくるのかな?」


「イリス、あまり近づいてはだめよ」


「分かってるよ。まずは様子見でしょ?」



3人は動かずに観察する。しばらくすると突然広場の真ん中に光の柱が出現した。



「「「っ!?」」」



3人は驚きを隠せなかった。現れたのは魔物ではない。人だ。珍しい黒髪の男、手には剣が握られている。




そして1番カルラの興味を引いたのは彼が身に纏っている物だ。見たことない履き物、気になって服を少しだけ触って見る。なんの素材で出来ているのか分からない珍しい物だ。



「ええと、どうする?」



いつものらりくらりとしているイリスも流石に動揺している、がそれも無理もない。強力な魔物でも来るのかと思っていたら現れたのは眠っている男性だったのだ。



カルラはしばらく考える。そして答えを出す。



「……そうね、面白そうだから連れて帰りましょうか」



「……うん、確かに面白そうだ。持って帰ろう」



「危険じゃないですか? 今すぐに殺した方が良いと思いますけど」



ミナの心配をよそにイリスは男をおんぶする。もう持って帰ることは決定事項らしい。



「大丈夫よ。仮にもし危険があるならすぐに殺すわ」



それは絶対的な自信だ。カルラは自身の力が最強だと信じている。故に害のある存在ならばすぐに殺せば良いと考えていた。



「そうだよ、それにこんな面白そうな物を放っておくなんて勿体無いし」



「……まぁ、お二人がそう言うなら、けど本当に危ないと判断したらすぐに殺しますからね」



「決まりね」




こうして3人は康太を持ち帰った。

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