ダンジョンで死にかけたら転移しました。〜異世界でもなんとか生きてます

クククランダ

第1話 終わりと始まり


俺は今、最悪に近い状況に立たされている。





「はぁ、はぁ、はぁ」



腹を抑えながら仄暗い洞窟の中を走り続ける。後ろを少しだけ覗く。目に映ったのは巨大な蛇たち。嫌な光景だ、死が迫ってくる感覚というのはこういうことを言うのだろう。



「くっそ、まじでしつけぇな!」



蛇は逃げる俺を決して諦めようとしない。おそらく俺が弱っているからだろう。そしておそらくこいつらは毒を持っている。腹を噛まれてから手が痺れ始めて、今は目も霞んできている。



「はぁ、はぁ、まじ…かよ」



しばらく逃げ続けていると行き止まりだった。俺は振り返る、するとそこには数えるのも馬鹿らしくなるほどの蛇の大群がいた。



「……あいつらは、逃げ切れたのか?」



俺は2人の人間を思い浮かべる。探索者となって知り合った男たち。今思えばあいつらとパーティを組んでから2年が経った。随分長いことあいつらと一緒にいたな。



「あいつらのことだ。多分生きてんだろ」



あいつらのことはよく知ってる。もう逃げ切れているはずだ。あとは俺がこいつらをぶっ殺して救助を待ってれば大勝利だ。



けど、今の俺の手持ちは拳銃が一丁、そして愛用の刀が一本、そして小型の武器が数本だけだ。加えて俺は毒を貰ってまともには動けない。果たして俺は生き残ることができるのだろうか。



「………いや、どうせやらなきゃ死ぬだけだ」



俺は武器を構える。どうせ何もしなければ死ぬだけなんだ。なら、最後まで悪あがきをしてやろうじゃないか。



「さぁ、かかってこいやぁ!!」



俺は自分を鼓舞する為に声を荒げる。化け蛇たちは一斉に俺に向かって来た。



俺は最初に向かってきた蛇の頭を拳銃で吹き飛ばす。次に迫って来た蛇の頭を刀で切り落とした。しかし銃弾には限りがあり、リロードの時間もある。なるべく拳銃は使いたくない。



「っ! くっそが!」



しかし俺の思惑とは裏腹に蛇たちの猛攻が激しく拳銃を使わざる負えない状況に追い込まれて使ってしまう。2発、3発、残弾が減っていく度に焦りが募っていく。



「まじで止まらねぇなッ!」



俺は1匹の蛇の脳天に刀を刺して開かないようにする。刀を一瞬手放して近くにいた蛇をマントにローブの中に隠していたナイフで滅多刺しにして再び刀を握る。



「……くっそ、こんなに殺してもまだいんのかよ」



もう力が入らなくてなってきているのに蛇はまだまだいる。嫌な汗が流れ落ちる。それは毒のせいか、それともこの状況のせいなのか分からない。



蛇たちは再び進行を開始する。俺はすぐに拳銃を構えようとするが手に力が入らなかった。



「ぐっ!」



喉元を狙ってきたのが分かったので咄嗟に拳銃を持っていた腕を出して噛みつかせる。俺は刀を持っている手で蛇の頭を切り落とす。



「やっ、べ……」



俺は毒を更に注入されたせいで意識がとんだ。地面の感覚が消え、視界が真っ暗になった。



「っ!?」


どれくらい意識を失ったのだろうか。俺は全身に圧迫感を感じて意識を取り戻した。しかし体を動かそうとしても動かない。体を見ると何かが巻かれている。俺はそこで理解した。1匹の巨大な蛇が俺の体を締め上げているのだ。



「あ、ガッ!?」



締め付けは強くなっていく一方。刀も拳銃も俺の手にない。おそらくさっき意識が飛んだ時に手放してしまったんだろう。



「ぎ、グッ……」



骨が軋んでいる。必死に体を動かしても蛇の力が強すぎて全く抜け出せそうにない。



死の予感が頭を廻る。



俺はこのまま何も死ぬのか? こんな所で、こんな化け蛇に殺されるのが俺の最期なのか? もう、俺の冒険はここで終わりなのか?



「いや、だ」



今、俺の中にあるのはここで死ぬかも知れないという恐怖。


そしてーー



反対に絶対に死にたくないという想いだ。



「やって、やるよ……」



俺は覚悟を決める。どうせもう少しで動けなくなるんだ。なら、最後の最後まで悪あがきをしてやる。








「…………」



俺は地面にうつ伏せで倒れている。辺りには頭が潰れた蛇、壁や天井にへばりついている蛇、胴体を引きちぎられた蛇がいた。ここら一帯の蛇は全て皆殺しにした。




「ざまぁ、みろ」



俺は死んだ蛇を見て口角をあげる。俺は勝った、生き残ったのは俺だ。そう思うと嬉しくてたまらない。



「っ! ゲホッ、ゲホッ!!」



咳をすると血が混じっていた。頭もボーッとする。もう体に毒が回ってきている証拠だ。



「死にたく、ねぇなぁ」



思わず涙が溢れてしまう。まだやりたいことがある。美味いものを食いたい。あいつらと馬鹿やって遊びたい。20歳になったら酒も飲んでみたかった。



中学を卒業してすぐに迷宮探索者になったから高校には行ってない。身寄りもなかったからすぐに金を稼ぐ必要があった。高校に行けなかったのは残念だがそれでも良い仲間に会えたからトントンだ。



ここ、ダンジョンではたくさんの人が死ぬ。もはやニュースにもならない。俺の死は誰にも知られることはないのか。そんなマイナスの思考へと変わっていく。



そんな時、通信機がなった。通信機から男の声が聞こえる。2人組だ。



『おい! 大丈夫か!? 今、他の探索者と合流して助けに向かってる! 頑張れ! 気合いでも根性でも良いから生き延びてくれ!!」



『ごめん、ごめんな!! 俺を庇わなかったら、お前は、お前はこんな目に遭わなくて済んだのに……』



「総司、優弥……」



優弥は泣きそうな声で自分を責めるように呟く。当然、俺は責める気持ちなんてない。



「そんなこと気にすんな。俺だってお前らに何度も命を救われてんだ」



『康太。で、でもよ……』



「それ以上ぐちぐち言うなら後で殴るぞ」



『……分かった。速攻で助けに行くからそれまで頑張れよ!』



「当たり前だろ。俺がこんな所で死ぬかよ」



『ああ!! そうだな!! お前はいつーー』



優弥が何か言いかけたところで通信が切れた。この階層に新たに怪物が生まれた証拠だ。状況は最悪になった、なったがーー



「なんだろうなぁ」




あいつらと話したことでマイナスの思考は吹き飛んだ。絶望はしていない。むしろ少しだけハイになっている気がする。俺は這いずって進んで落とした武器を拾う。



「そうだ、俺はこんなところで死なねぇ。俺は、まだ冒険をするんだ……」



絶対に死なない。たとえ毒に侵されようとも、状況がどんなに悪くなっても絶対に生き延びてやる。



「っ……ゲホッ!」



また吐血した。喉が焼けるように痛い。うまく呼吸が出来ない。それでも俺は這いずって進む。少しでもあいつらとの距離を縮める為に。



「……ぜっ……い……いき……」



凄まじい眠気に襲われる。どんなに頑張って目を開けようとしても開かない。俺は武器を握ったまま意識が飛んだ。




康太の死体を喰らうために再び化け蛇たちが寄ってくる。








『魂の輪廻を開始します』



 どこか無機質な声が意識を失った康太の頭に響く。蛇たちは動かない。まるで時が止まったかのように微動だにしない。



『……………エラー。原因を解析、もう一度魂の輪廻を開始します』




『……………エラー。原因、特定不可。異物、別の世界へ転生させます』




アナウンスは淡々と告げる。どこかただ事ではない雰囲気がその場にあった。だがその様子を知るものは誰も存在しない。




『転生不可。この者は転生させることはできません』



アナウンスはしばらく黙り続ける。今までにないケースだったのだろう。コンピューターが最適な答えを出す為に時間が必要なようにこのアナウンスも時間が必要なように見える。



『転移可。直ちに転移を開始させます』



康太のいる場所が光り出す。すると康太の肉体は光り出して傷がどんどん塞がって行く。



『転移を開始。肉体、記憶、所持品に異常なし』



康太の下に魔法陣が展開される。円形の星型が康太の下でクルクルと回っている。



蛇が再び動き出す。魔法陣などお構いなしに、しかしその全てが魔法陣に触れた瞬間に燃え尽きて死んだ。



『転移を開始。行き先はドレーラ帝国です』



魔法陣はより一層強く光る。円形の星型はより速く回る。しかしそこである不具合が起きた。



魔法陣の一部にひびが入る。時間が経つにつれてそのひびは外から内へゆっくり広がっていく。




ひびが康太の体に触れる瞬間、康太は消えた。魔法陣はなんとか発動した。しかし誰がどう見ても何らかの支障があることは明白だった。



なぜ、それほどまでのイレギュラーが起きるのか。この魔法陣に不備があったのか、それとも康太自身に問題があったのか、又はその両方だったのか。




康太を転移させた魔法陣は役目を果たしてゆっくりと消えた。その場に残ったのは蛇の大群が魔法陣があった場所を囲んでいる光景だけだった。





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