【KAC20248】突然執事がやってきた! と思ったら、どうして暗殺者に狙われなくちゃならないの!?

無月兄

第1話

「おはようございます、楓お嬢様。本日よりあなたの執事となる、リオ=ウォーカーと申します」


 朝の支度をすませ、いつも通り中学校に行こうと家を出たら、家の前にいた執事にこんなことを言われた。


 執事だ。

 本人もそう言ってるし、格好もいかにも執事ですって感じの燕尾服。

 念の為メガネを外してレンズを拭いてから掛け直してみたけど、やっぱり執事だ。


 年は若い。というか、幼い? 多分、私と同じくらいだ。あと、イケメン。


 それともうひとつ。彼の言っていた楓というのは、私の名前。


 以上。状況確認終わり。


「よし、見なかったことにしよう」


 目の前の執事を華麗にスルーし、学校に向かう。

 と思ったけど、そうはさせてくれなかった。


「お待ちください楓お嬢様。執事として主の意見は最大限尊重したいのですが、さすがに初めまして挨拶をなかったことにされるのは辛いです」


 サッと私の前に回り込み、行く手を塞ぐ。

 ちっ。このままスルーできたら楽だったのに。


「誰だか知りませんが、人違いです」

「そんなことはありません。私の主は、間違いなく楓お嬢様です」

「私は楓ですがお嬢様ではありません」

「執事の主はお嬢様と決まっているのです」

「そんなルール知りません。そもそも現代日本に執事は生息してません。仮に生息しているとしても、金持ちの豪邸だけです。私とは正反対です」


 何しろ私は豪邸どころか、数年前にお母さんが亡くなって以来、おばさんの家に住まわせてもらっている。

 おばさんは良くしてくれるけど、決してお嬢様なんて呼ばれる身じゃない。


「戸惑うのも無理はありません。しかしこれには、深〜い事情があるのです」

「マリアナ海溝より深い事情があっても、これを説明できるような事情なんてないと思いますけど?」

「とりあえず、話だけでも聞いてください。どうか、この通りです!」

「おぉっ、イケメン執事が道端で土下座し始めた!」


 こんなことしたら、周りから変な目で見られない

 幸い、辺りを見回しても私たち以外誰もいないけど、このままだと面倒そう。


「仕方ない。で、どれだけ深い事情があるっていうの?」

「はい。その前にまずは質問なのですが、楓お嬢様は、ノテジクロ王国という国をご存知でしょうか?」

「ああ。そこの王様が来日したって、さっきテレビでやってたね」


 近年急速に発展した、世界屈指の技術大国。世間ではあまり有名な国じゃないけど、私は昔お母さんに連れられて、旅行に行ったことがある。


「その、ノテジクロ王国の現国王様が、楓お嬢様のお父上なのです」


 ホワイ?


 あっけにとられる私をよそに、彼はなおも続ける。


「国王様がまだ王子であった頃、日本にいらした際に、ふとしたことから楓お嬢様のお母上の運命的な出会いを果たしたのです。身分が違ったので二人は結ばれることはありませんでしたが、その愛は本物で、その結果、楓お嬢様がお生まれになったのです。そして時は流れて今。国王様は今回の来日をきっかけに、お母様の行方を調査。その結果娘であるあなたの居場所をつきとめ、苦労をかけてしまったせめてもの罪滅ぼしにと、腕利きの敏腕執事をつけることにしたのです。それが僕、リオになります」


 そこまで言ったところで、リオは言葉を切る。

 どうやら以上が、彼の言う深〜い事情のようだ。


「ははーん、わかったわ。あなた、新手の詐欺ね。そうやって、後で高額の給料をせがむつもりでしょう。その手には乗らないんだから。さようなら!」

「ああっ、お待ちくださいお嬢様! お供いたします!」

「ついてくんな! つくならもっとマシな嘘をつきなさい!」


 たしかにお母さんは、色々浮世離れした人だった。

 お父さんはいないし、どんな人って聞いたら、とっても素敵な王子様って言ってた。

 けど、いくらなんでもそんな話信じられるか!

 深い事情ってこれ? マリアナ海溝どころか、マントルを突き抜けて地球がパッカーンするよ!


「仮に百歩譲って、いや一億光年くらい譲ってその話が本当だったとしても、執事なんていりません! 一人でご飯作れるし、掃除だってできます!」

「執事は家政婦ではありません。もちろん命令とあらばそれらもやりますが、もっと他にやることだってあります。ボディーガードだってしますから!」

「なら、あなたという不審者をなんとかして! あなたさえいなくなれば、いたって平和です」

「それがそうでもないのです。このままだと、楓お嬢様は殺されてしまうのです!」

「はっ?」


 いきなり出てきた物騒な言葉に、足を止める。


「殺されるって、なんで?」

「簡単に言うと、王位継承権争いです。国王様には楓お嬢様以外にお子はいないので、始末すれば得するものが出てくるのです。これまでは誰も楓お嬢様の存在を知らなかったのですが、国王様が調査した際、色々と外部に漏れたそうです。今この時も、何人もの暗殺者があなたの命を狙っています」

「何やってるの国王! あんたのせいで娘が死にそうなんだけど!」


 いや、冷静になれ、私。ここで取り乱したら負けだ。

 どうせ、全部嘘なんだから。


「ふふん。そんなこと言っても騙されないわよ。暗殺者なんてどこにいるのよ」


 辺りには、相変わらず私たち以外誰もいない。

 今も狙ってるって言っても、誰が信じるもんか。


「いますよ。すぐ近くに。ただ、ノテジクロ王国最新鋭のステルス機能で姿が見えなくなっているだけです」

「また性懲りも無くそんな嘘を……」


 世界屈指の技術大国ノテジクロ王国には、まるで未来の道具のような凄い発明品がたくさんあるってのは知ってる。

 けどいくらなんでも、今すぐ近くに暗殺者なんているわけないでしょ。


 するとリオ。急に私のメガネを外して、代わりに持っていた別のメガネをつけた。


「ちょっと、何?」

「これも、ノテジクロ王国製の特性メガネです。あとは説明するより見た方が早いです」

「何言って……って、なんじゃこりゃぁっ!」


 いくら特性でも、メガネはメガネ。よく見える以外に特別変わったことなんてない。

 と思ったけど、違った。


 メガネのレンズに何だかレーダーみたいなのが映し出されて、近くにあるありとあらゆるもののデータを表示する。

 現在の温度、街路樹の種類、私の心拍数、などなど……


 そして何の変哲もない景色の中に、赤い危険マークっぽいものが点滅している箇所があった。


「そこか!」


 点滅していたところに向かって、リオが何が投げる。

 あれは、クナイ? 忍者とかが使ってるやつだ。


「ぐあっ!」


 何も無かった空間から悲鳴が聞こえたかと思うと、突然パッと人間が現れた。

 手には、銃を持っている。


「まさか、あれが暗殺者?」

「その通り。ステルスは、衝撃を与えるととけるのです。まだ他にもいるようですね」


 リオの言う通り、メガネには他にも危険マークの表示がある。

 リオはその全てにクナイを投げ、次々と暗殺者たちの姿を暴いていく。


 そして全員が姿を表したところで、一気に飛びかかっていった。







「さて、制圧完了」


 何人もいた暗殺者たちは、あっという間に倒された。

 みんな大人で私たちよりずっと体格がよかったのに、リオってめちゃめちゃ強い。


 しかも、暗殺者たちが持ってた武器は、銃だけじゃなかった。


「ナイフ、スタンガン、ヌンチャク、トンファー、三節棍、バズーカ、毒ガス発生装置。よくもまあこれだけ揃えたものです」


 多すぎでしょ! どんな状況を想定して用意してたの!?


「これでも、まだ僕の話が嘘だと思いますか?」

「うーん、微妙」


 ヤバいやつがたくさんいたのは確かだけど、私のお父さんが国王なんて、まだ信じられない。


「急にこんなこと言われても、混乱するのも無理はありませんね。ゆっくりといいので受け入れてください。その間、身の回りのサポートと、引き続き現れるであろう暗殺者の対処は、僕がやりますから」

「サラッと私のそばにいつく気満々なのね」


 なんだかとんでもないことになったけど、殺されるのは嫌だし、受け入れるしかないのかも。


 こうして、私の平和な生活は一変し、暗殺者に狙われる日々(執事付き)が始まるのだった。

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