後編
翌日。
ノゾムは遠方に来ていた。
ここまでは大人の探索者達と車で来ていて、今は別行動。
「さてと、今日も誰か見つかるかな……って?」
メガネ越しに見える先には、何か黒く揺らめくものが見えていた。
「なんだろあれ? とにかく行ってみよ」
その場所に近づくと、そこにあったのは洋服箪笥くらいの大きさの赤黒い箱だった。
「えっと、これも誰かが変えられたものなのかな?」
そう思って呪文を唱えようとした時だった。
ぐらっと箱が揺れたかと思うと、ノゾム目掛けて倒れてきた。
「え、ってうわああっ!」
ノゾムは咄嗟に後ろに下がったので無事だった。
「ふう、危機一髪だったよ。って開いてる?」
箱の蓋が取れていたので中を覗くとそこにあった、いやいたのは……。
白いシャツに赤いスカートという服装で、歳は七、八歳くらいかという少女だった。
寝息を立てているので、生きてはいるようだ。
「ん、あれ? ……ってなんで箱に? ってねえ、起きてよ」
ノゾムは何か思った後、少女の肩をゆすった。
すると、
「う、ん? ふあああ、よく寝た~」
少女が起き上がり、大きく伸びをした。
「よく寝てたね。って君、なんでこの箱で寝てたの?」
ノゾムが少女に尋ねると、
「なんでって、眠いなあと思ってたらちょうどいいのがあったからだよ」
少女がなんでもないかのように答えた。
「そうなんだ……ってお父さんやお母さんは?」
「最初からいないよ。あたしは一人だけ」
そう言って頭を振る少女。
「そっか。じゃあ僕が住んでる町に来る?」
「ヤダ。あたし人が多いとこ行きたくない。一人がいいの」
少女がまた頭を振った。
「いや一人じゃ危ないよ。ねえ、一緒に来てよ」
「うーん。じゃあ今から逃げるから、三分以内にあたしを捕まえたら言うとおりにするよ」
「は? まあ、それでいいなら」
ノゾムは苦笑いして頷いた。
「うん。じゃあ行くよ~」
少女がそう言って走り出したが、
「はい、捕まえた」
ノゾムはあっさりと追いつき、少女を抱きしめた。
「え、嘘……?」
少女は今起こったことが信じられないとばかりに固まっていた。
「これでいいんだよね? さ、行こ」
「う、うん。あの、逃げないから下ろして」
気を取り直した少女が言うが、
「ダメ。だって君、あんなとこで寝てたから体冷たくなってるよ。だから皆と会うまでこうして温めるよ」
ノゾムは心底心配そうに言った。
「いいから下ろして。その、胸に手が当たってるから」
少女が顔を真っ赤にして言うと、
「それがどうしたの?」
ノゾムは訳がわからんとばかりに首を傾げる。
「……下ろせって言ってるだろがああ!」
「うわっ!?」
少女が思いっきり声を上げたので、ノゾムは思わず手を放してしまった。
そして、
「死にさらせこのチカン野郎ー!」
ゴッ!
「グアッ!?」
少女の正拳突きが大きな音を立て、ノゾムの股間に入った。
紳士の皆様、この地獄わかるでしょ?
「あ、が……」
ノゾムはまだ蹲っていた。
「ふん。けど約束は約束だから、町へ行くよ」
少女がどこからか出したハンカチで手を拭きながら言う。
「あ、うん……あの、よくわからないけど、ごめんなさい」
ノゾムはどうやらその手の事は疎いようだった。
「あたしは言いにくいから、後で誰かに教わってね」
「うん。ふう、やっと治まった。あ、皆も来たし行こう」
ノゾムが立ち上がってズレた眼鏡を戻しながら言う。
「うん。あ、あたしはアヤ。お兄さんは?」
「ノゾムだよ。できればお兄さんじゃなくて、名前で呼んで」
「うん。じゃあノゾム、行こっか」
アヤは手を差し出し、握手を求めた。
「うん。よろしくね」
二人はその後、探索者の一人が運転する車で町へ向かった。
その車中で、
(……最初アヤちゃんを見た時、大人の女の人とダブって見えた……それとその女の人、なぜか知ってるような気がしたんだよなあ?)
ノゾムはメガネを拭きながらそんな事を思っていた。
そして、アヤも流れゆく景色を見ながら物思いに耽っていた。
(せっかく七つの不幸で光を消したのに、新たな光があそこに集まってる……けどそれもここで終わらせてやる、ぬふふふ……)
ここからどうなるか、それはまたいずれ。
メガネ少年と出会った少女 仁志隆生 @ryuseienbu
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