中編

 その後、社長達は出迎えてくれた住民達と互いの事を語り合った。

 近隣からだけでなく遠方から来た者もいる。

 自力で辿り着いたか、探しに出向いた住民と会って連れてきてもらった者。

 社長達のように何かになっていて、それをノゾムが戻した後でという者もいた。

 

「私なんかぬいぐるみになってまして、家で動けずにいました。そんなある日、ノゾム君が私を見つけて戻してくれたんですよ」

 そう語ったのは社長と同年代だろう眼鏡をかけた男性。

 半年程前にここに来たそうだ。


「そうでしたか。私達は動き回れたので、ある意味マシだったかもです」

「私もある意味マシですよ。もし外でだったら見つかる前に雨風に曝されてぐちゃぐちゃになってたかもです」

「あ……私達、運がよかったのかもですね」

「ええ。さ、今日のところはこの辺にして、あちらで食事でも」

「ありがとうございます。では」

 社長達は男性に案内され、炊き出しをしている場所へ向かった。




 一方、ノゾムは一人で神社の境内を散歩していた。

 空は境内以外は深夜のように暗いが、まだ昼過ぎである。

 だが彼にとってはこれが普通の色だった。

 

――――――


 僕はおじいちゃんに拾われてこの町に来た。


 おじいちゃんは元々この町生まれ育ったそうで、この神社で働いていたらしい。

 けど十六年前のあの日、自分以外の人が突然消えた。

 独り者で家族はいなかったが友達は結構いたらしい。

 だけどいくら探しても誰も見つけられなかった。

 もう諦めて……なんて思った事もあったって。


 けど思いなおして探して回り、何日かしてとある住宅の前を通った時だった。

 家から泣き声が聞こえた気がしたのでその家のドアを開けると、玄関先におくるみに包まれた僕がいたそうだ。

 おじいちゃんは僕を抱き上げ、家の中を見て回ったが他には誰もいなかった。

 おそらく皆消えて僕だけが残ったのだろうなと。


 おじいちゃんが言うには僕を見つけた後にあの白い雲が現れ、それで残ってた人達が集まってきたり、見つかったりしだしたって。

 だから僕を「のぞむ」と名付けたんだって。

 希望を、新たなスタートをくれたからって。



 おじいちゃんは僕を一生懸命育ててくれた。

 優しくもあり、厳しくもあり、温かかった。


 僕はおじいちゃんが大好きだった……けど、去年病気で亡くなった。

 町の代表もしていたから無理が祟ったのかも。

 皆がそう言って泣いていた。

 僕もだけど……いつまでも泣いていていいわけないと思い、次の日から普通にしていた。

 けど時々はこうして一人になって……。



「おじいちゃん。最後に『もう一度青い空が見たかった』って言ってたね。うん、もしその時が来たら一緒に見ようね」

 僕は手にしているメガネを見ながら言った。


 これにはおじいちゃんの形見のメガネ。

 メガネって目が悪い人がかけるものだそうだけど、おじいちゃんは伊達メガネと言ってオシャレでかけてたらしく、目は悪くなかった。

 よく分かんないけど、大事にしてたな。


 そしておじいちゃんが亡くなった後、なんとなくこのメガネをかけたら……なぜか頭の中にいろんな事が浮かび上がってきた。

 消えたはずの人達が、何かに変えられてあちこちにいるのが見えた。


 え? なにこれと思っていたら、

” すまない。このくらいしかできず……この世界を頼む ”

 と聞こえた。


 誰だったかわからないけど、男性の声だった。

 そしてなんとなくだけど、懐かしい感じだった。

 

 あと『はなさないでくれ』とも聞こえた。

 うん、このメガネのおかげだってのだけは秘密にしておくね。

 それでいいでしょ?


 返事は聞こえないが、いいと答えてくれた気がした。

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