アイドルV戦国時代

どこかのサトウ

アイドルV戦国時代の到来

 VR眼鏡が満を辞して発売された。今までのヘッドマウント型ではなく、もっと気軽にバーチャルな世界が楽しめるようになった。

 小型化の成功は省エネに繋がり、スマートフォンとケーブルを繋ぐだけで動作する。無線式のイヤホンを耳に挿し、バーチャルアプリを起動すればそこは一瞬で別世界となる。


 世間に普及が進むとアイドルV戦国時代は熾烈を極めた。

 力のある大手はコンテンツを充実させ、個人ではできないことを次々と企画して影響力を強めていった。

 会場に推しがいるという親近感、何より特別感を醸し出した。

 ゲーム実況やアニメ同時視聴などもVR空間で盛り上がりを見せ、複数のVが集まって話す座談会では、視聴者である自分の席が用意されているという徹底ぶりである。

 同時に個人配信では、ファンの心を強く掴むことが意識された。

 推しが隣で座って囁いてくれる、ASMRデート配信は凄まじい人気を誇った。

 夕方の河川敷、遊園地のベンチ、車デートなど様々なシチュエーションでファンを魅了した。

 壁ドン配信も非常に人気である。俺の物になれと推しに口説かれ、迫られ、耳元で囁かれる。メンバー限定配信では、何分耐えられるかと言う耐久バトルもアーカイブとして残っている。例え相手に声が届かなくともYESと口にした者は多い。

 壁際に立っては悶えているところを動画で撮られる。そんな被害者が数知れず、各々の黒歴史として深く心に刻まれるのであった。


 ゲーム界隈も盛り上がりを見せた。シミュレーションゲームは凄まじい勢いで新作が発表された。

 レーシングスポーツ、バスや電車、フライトシミュレータなどの乗り物系は不動の人気を誇った。街を作るゲームなどのクラフト系も根強い人気を誇る。個人がアップロードしている動画などでは、高層階の一室で発展していく下界を見下ろしワインを飲んでいるところから、突如自分の部屋に切り替わる動画が流行っていたりする。

 そんなゲーム業界だが、アイドルVが参戦することが決まったことで、一強へと躍り出ることになったゲームタイトルがある。『銀河英雄合戦』である。


『眼鏡を装着すればそこは宇宙。今日から貴方はこの宇宙船のパイロットです。さぁ新たな宇宙の一頁を刻みましょう』


 大手のアイドルVが参戦を表明したことでファンが殺到。そこに国が出来た。先見の明がある者は次々と参戦していった。

 大先輩によるカリスマと圧力によって戦力の吸収合併が進み、一人残った抵抗勢力を片付ければ、天下統一まで秒読みというある意味平和で退屈な状況は、とあるアイドルVグループによる下克上によって終止符が打たれた。

 しかしその天下は長くは続かなかった。多くの視聴者から報復を受けたからだ。

 だが大先輩の圧力という秩序からの解放は、アイドルVたちに取っては好都合でしかなかった。視聴者を楽しませるという一点の理由により、同期との同盟や暗躍、裏切り、先輩への宣戦布告が無礼講とされた。だが頂点に立つ資格を失うデスペナルティまではしなかった。同じ事務所の仲間であるという暗黙のルールがそこに存在したからだ。だがゲーム運営はそこに一石を投じてしまった。

『運営はこのたび、頂上へと上り詰めたアイドルVに対し、記念ライブを贈呈することに決めました。プレイヤーの皆さん、頑張ってください!』

 長年築き上げてきた視聴者たちとの本当の絆が今試される——

 手に汗握るアイドルV戦国時代の幕が上った。


 * * *


 ご愛読ありがとうございました。どこかのサトウの次回作にご期待ください。

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