眼鏡

@curisutofa

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『本日はどの眼鏡にしようかしら?』


高級住宅街にある御屋敷の女主人ミストレス様が、本日着用なされる眼鏡を選ばれながら、使用人ハオス・ディーナーとして働かせて頂いている私の方を向かれますと。


『本日は明るい色の髪飾ハール・シュムックりと耳飾オーアリングりを着けますから、眼鏡の色合いも合わせた方が良いと思うかしら?』


御高齢でした資本家ブルジョア様に後添のちぞいとして輿入れなされまして、御夫君に先立たれて莫大な遺産を相続なされた寡婦であらせられる女主人ミストレス様に対して。使用人ハオス・ディーナーとして働かせて頂いております私は、恭しく深々と御辞儀を行いまして。


『今の季節は春ですので、髪飾ハール・シュムックりと耳飾オーアリングり等の装飾品とは、明るい色合いで統一なされた方が宜しいかと思われます。女主人ミストレス様』


二十五歳の知的な眼鏡美人であらせられる女主人ミストレス様は、少しだけ年上である私による助言に対して、優雅エレガントな笑みを御浮かべになられまして。


『貴女の言う通りですわね。春の季節に合わせた明るい色合いで統一する事にしますわ♪』


裕福な女性の皆様方は、髪飾ハール・シュムックりや耳飾オーアリングり等の装飾品は、外出する度に組合せを変えるなどの工夫をされますが。女主人ミストレス様はそれに加えて、眼鏡も外出される度に季節の変化や他の装飾品との兼ね合いを考えて決められます。


『眼鏡も装飾品の一つだと考えれば、外出する際に選ぶのも楽しく感じますわね♪』


知的な眼鏡美人であらせられる女主人ミストレス様は、使用人ハオス・ディーナーとして働かせて頂いております私の内心を見通される、非常に御英明な貴婦人マダムでもあります。


『はい。女主人ミストレス様。外出時における装飾品の選択肢が、一つ増えたと考える事が出来ます』


髪飾ハール・シュムックりや耳飾オーアリングり等の装飾品には拘る裕福な女性の皆様方も、眼鏡は視力を矯正する為の医療器具だと考えていられる方々が多いようでして。女主人ミストレス様のように複数の高価で上品な眼鏡を取り揃えられて、外出される度に他の装飾品との兼ね合いを楽しまれる貴婦人マダムは数少ないように感じられます。


『着用する必要があるのなら、眼鏡も楽しんで着けるべきだと私は思いますわ♪』


年上の御夫君であらせられた資本家ブルジョア様が御逝去あそばれるまでは、年下の後添のちぞいとして耐えて来られた女主人ミストレス様が、心底より楽し気に仰られましたので。同性の女性である私は心から同意をしまして、再び恭しく深々と御辞儀を行いますと。


『はい。女主人ミストレス様。仰せの通りで御座います』

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