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家に帰ってから、眼鏡を見せると家族みんなに笑われた。「あんたは眼鏡似合わないよ」ってお母さんが言った。店員さん、似合うって言ってくれたのにな。けど、せっかく買ったんだし、夢が叶う眼鏡って言ってたもん。私は翌日の土曜日、さっそく眼鏡をして家を出た。
家族の一員であるパグ犬、マルコのお散歩だ。部活動も引退して、休みの日は勉強三昧。そんな私の息抜きが、マルコの散歩だったのだ。
眼鏡って不思議だ。かけてみると、視界が狭くなるけれど、度の入っていないただのレンズだというのに、そこにあるだけで、外の世界と私の中の世界の間に壁ができたみたいな気がして、心が落ち着いた。
夢を叶えてくれる眼鏡。幸せなものを見せてくれる眼鏡。本当かな?
マルコと一緒に歩いて行くと、昨日の眼鏡屋さんの前に来た。この眼鏡返せるのかな? やっぱり私には眼鏡は向いてないのかも。そんなふうに考えていると、眼鏡屋さんから一人の男の子が出てきた。
私たちは視線を交わしてから、互いに変な声をあげていた。だって。その子。ハルだったのだ。ハルはベッコウ色の細長い眼鏡をかけている。
「あ、あんた。眼鏡!?」
「そっちこそ。眼鏡」
ハルの顔をマジマジと見ると、なんだか笑ってしまった。ハルも同じ。なんだか可笑しい。見慣れないからなのかな。ハルは眼鏡をかけてもハルだった。
「どうしたの? 目悪くなった?」
「そっちこそ」
私は……。黙っていると、ハルは耳まで真っ赤にして言った。
「おれ。お前が。め、眼鏡好きだって言ったからさ。試しにって入ってみたら、これ。願いが叶う眼鏡だっていうから。か、買ってみたんだよ」
「あ、私も同じ。これ、夢色眼鏡だって」
ハルは「そうかよ」と呟くと、私を見下ろした。
「お、お前の眼鏡。可愛い」
「あっそ。眼鏡がね」
「ち、ちげーよ。眼鏡かけてるのも可愛いけど。かけてない方が可愛い」
失礼なやつ! どうせ眼鏡が似合わないですよ! って……え! え? それって、なんか地味に褒めてるってこと?
ハルを見返すと、奴はやっぱり顔を赤くしたまま私を見下ろしていた。まさか。ねえ、ハル。あんた。
「私のために眼鏡?」
「そ、そーだよ! でも似合わなかった。くそ。お前に笑われた。あの店員、テキトーなこと言いやがって。返してくる!」
私の心の中が、あっという間に夢色になる。この眼鏡をかけていたら、私が見たかったものが見えたということ。私は眼鏡を外す。ハルも外した。ああ、いつもの二人じゃん。眼鏡もいいけれど、やっぱり私たちはこれじゃなくちゃ。
「似合ってたよ。ただ見慣れないだけ。けどやっぱり、見慣れたこっちの方が好き」
私の手とハルの手がふとした拍子に触れあった。すると、ハルのその大きな手が私の手を握った。
「付き合ってください」
ハルは低い声でそう言った。でも。ハルは眼鏡女子が好きなんじゃ。
「別に。女子に話することねーし。眼鏡かけてきた奴なら話しやすいだけ。本当はお前と話したいけど、ネタねーし」
気を引きたかっただけってこと?
私は「あはは」と笑った。
「そういうお前こそ。クールイケメンが好きって」
「それ? 別に。私の好みはハルだし。あんた、眼鏡の子にばっか声かけるから、し返しただけじゃん」
「おま、お前って本当、性格悪いよな」
「ならやめる?」
「やめない」
私たちの繋いだ手から伸びるリードの先にいるマルコは暇そうにそこに立っていた。ふとお店のウインドウを見ると、昨日の店員さんがニコッと笑みを返してくれた。
この眼鏡は夢色眼鏡。かけた人のお願い事を叶えてくれる。本当、それな!
−了−
【KAC20248】夢色眼鏡 雪うさこ @yuki_usako
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