KAC20248 彼女の勘違いと、どっせーい。

久遠 れんり

勘違いは突然に。

 私はモテない。

 背が低く、少しがっしり系。

 痩せることさえ出来れば、周りにいる男子からの視線を、きっと独り占めできるのに……

 そんな妄想をしつつ、度がずれたついでに、フレームを変えた。


 多分今回のテストのとき、勉強しすぎたようだ。

 五教科で、三点も合計点が上がっていたから。



 ふと立ち寄った眼鏡屋さん。そこで私は運命とも言える出会いを経験する。そう。そのフレームには一目惚れ。


 眼鏡屋さんに並べられていた、売るほどある大量のフレーム。まあ眼鏡屋さんだから当たり前だが。


 だけど、その中に埋もれていた、そのフレームは、一瞬で私の心を掴む。

 そうマグロの下に、大量に練り込まれていたわさびのように、私に存在感を示した。

 それからは、どうあがなっても逃げられない。

 ただ涙を流し、むせるだけ。


 少し入ったピンクが、紅ショウガのようにアクセントになった樹脂フレーム。

 あまり華美なものは叱られるけれど、きっとこのくらいは許されるはず。


 レンズを入れて受け取ったとき、嬉しくて、思わずロマンティックを踊ってしまった。



 だけど、確かにかわいいはずだが、予想に反し注目は浴びなかった。


 ふと考える。私の、美意識が世間と違う?

 まさかそんな…… 私のレゾンデートル存在理由崩壊の危機。


 いや、まあ今更だけどね。

 元々注目されていないんだから、もんだい、ないさぁー。


「さて、諸君。そんな私だが…… 気が付いてしまった」

「なによあんた。いきなり実況しないでよ。ビックリするじゃ無い」

 前の席に座る、名も無き女の子に叱られてしまった。

 あんたなんか、『生徒その一。メス』でいいわよ。


 意外と長いわね。何か考えよう。


 それはさておき、クラスにいる。可憐な彼。

 少し中性的な、受けが似合いそうな彼。

 松田君。今日は彼と変に視線が交差し、絡みつく。


 一瞬の交錯だけど、私の視線は、その一瞬で…… あなたの視線に絡みつくのよ。


 まあ良いけれど。


 それから数日。やっぱり感じる。これはきっと、私の美しさに今頃気が付いたのね。

 うーん。ゆるす。

 だから、告白カモーン。

 

 あれ、だけど、彼女がいたはず。


 ああ。なっとく。だから告ってこられないのね。

 いいわ。待つわ。いつまでも待つわ。

 あまり待たせると、戸の後ろから、顔の半分だけ出して見つめるかもしれないけれど許してね。

 私は、恥ずかしがりなの。


 顔を少し出すと、なぜか体が大量にはみ出るの。なぜなのか。世の物理法則がおかしいのよね。


 そんなこんなで、数日後。ついに彼は気持ちを決めたみたい。

 やって来る。ゆっくりと、何かを確かめるようにゆるりゆるりと。


「少し、時間良いかな」

「何かしら?」

 三オクターブほど、高目の声で答える。


「君の、事がその…… 気になっていて、答えてくれるだけでいいから」

 彼の顔は、めずらしいことに、赤くでは無く。青くなっている。

 きっと、緊張しているのね。

「うーん。いいわよぉ」


「その、吉田さんの、気に入って、好きになってしまった」

 きたあー。


「その、めがねフレーム。何処で取り扱っているんだ。見てから気になったので、色々な所を見に行ったけれど、見つからなくて。それで…… 仕方なく君に聞くしかない…… かと」


 その時、教室の温度がいきなり、三千度は上昇したと『生徒その二。メス』さんが答えていた。


 その後、どこからとも無く聞こえた『どっせーい』という声と共に、松田君の姿を見なくなった。


「ああ、アンニュイ。誰かいい人が、いないかしら」

 

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KAC20248 彼女の勘違いと、どっせーい。 久遠 れんり @recmiya

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