近視眼的、眼鏡話

星見守灯也

近視眼的、眼鏡話

私は強い近視である。

遺伝的なものなのでもうどうしようもない。




医者にはコンタクトレンズを勧められるも、

根っからの面倒臭がりやで衛生が担保できない。

その上、不器用で怖がりときた。

そういうわけで常にメガネである。

私にとってメガネとはファッションではない、医療矯正具だ。


なにしろ強い近視だ。

メガネレンズが分厚いのである。

メガネ屋で一番高くて薄いレンズを選んでもまだ厚いのだ。

オシャレで華奢なフレームなんて最初から選択肢にない。

重さでだんだん鼻メガネになるのもいつものことであった。




さて、私が目が悪いというと、

指を立てて見せ、「何本だー?」と遊ぶ輩がいる。

実はこれは見えている。

比較的近い場所のことであり、指がぼやけるだけで本数はわかる。


同じ距離なら文字でやって欲しいものである。

学校の視力検査では一番上の大きなランドルト環が見えず、

少しずつ近づいてってもまだ見えず、養護の先生のほうが諦めた。


とはいえ少し目を細めれば予測できないこともない。

少し見えれば、「この形は『れ』か『わ』だな」と想像できる。

見えないものを見ようとして、見えたことにする術を持っている。




こんな近視なもので、寝ている時とお風呂の時以外は常にメガネである。

外出してメガネを外す機会というのはあまりないが、たまにはそんな日もある。


美容院で「メガネ外してくださいねー」という言葉は恐怖だ。


まず出された雑誌が読めるはずがないのだが、それはいい。

この視界でシャンプー台まで行けというのか。

そして立ち塞がるシャンプー台前の小さな段差。

命の危機とバリアフリーの大切さを感じた。


そして、「カット確認してくださいね」も困る。

その前にメガネを返してください。

そう言って何度気まずくなったことか。

こっちはメガネないとマネキンと自分の顔の区別すらつかないんです。

最近は面倒臭くて「あ、これでいいです」って言ってるけど。




そして温泉。銭湯でもいいが、つまりお風呂である。


まず、服を脱ぐ。メガネを外す。ロッカーにしまう。

はい、カギがどこかわからない。

カギは最初から手につけておくとしよう。

しかしカギをかけるのは手探りだ。


タオルを持って浴室に行くのも一苦労。

どこが入り口か分からない。

だから最初に来た時にまず確認しておく。

でないと脱衣所の外の方に行きかねない。


浴室に入って、小さな段差がある。

これがすごく怖い。

どのくらいの段差なのかまったく見えない。

一旦しゃがんで手で確認して入る。


浴槽に入る。露天風呂にも入ろう。

周りの客は景色が綺麗だと言うが、緑しか見えない。

荒いモザイクがかかっているイメージだろうか。

うん、そうだね。綺麗な色だなあ……。


さて、一度上がって頭を洗おう。

シャンプーに凸凹が付いているのはとてもいいことだ。

しかし、一緒に来たはずの人がどこにもいない。

髪型も服装もないからさっぱり分からない。


こうして風呂から上がるが、今度は出口を見失う。

そして出入り口の段差に指をぶつけた。

ロッカーの番号が見えなくて目を近づけて探すのは不審者だ。


そういうわけで、お風呂に行く時は古くなったメガネを持っていく。

もうコーティングがハゲハゲになった度数の足りないメガネだ。

プールに行く機会があれば、たぶんプールにも持っていくだろう。




メガネをかけながらメガネを探すお笑いがあるが、私はまだやったことがない。

まず、メガネをかけた視力とかけていない視力が違いすぎる。

そして四六時中かけているため、朝と風呂に入った後以外で探すことがないからだ。


そういうわけで、メガネを発明した人ありがとう。普及させた人も。

メガネがなければ、私はこうして文字を書けていないのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

近視眼的、眼鏡話 星見守灯也 @hoshimi_motoya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説