KAC20248 ある日、拾っためがね

久遠 れんり

見え方が変わった日

 僕は日々の暮らしの中で、色々な不満を持っていた。

 

 テストの点が悪い。運動が出来ない。

 友達がいない。

 むろん女の子にもてない。


 そんな感じで、中学時代を過ごし、いやだったが、学校の先生と両親に説得されて高校へは進学した。

 だけど、状況は変わらず、友人無い。彼女も無い、勉強できない、つまらなぁーい。

 思わずラップしながら踊っちゃうぜ。


 だけどその日、メガネを拾った。

 黒縁のダサい奴。


 職員室へ届ける前に、トイレへ行き、入念に洗った後に鏡の前でかけてみる。


「思ったほど、似合わないし、かっこよくも無いな」

 昔から目が良くて、メガネをかけたことが無かった。

 メガネをかけると顔が変わると聞くが、思ったより変わらない。


 モテそうな感じも無いな。

 そう一人でぶつぶつ言っていると、鏡に映る僕の背後を何かが走った。


「へっ。なに? 今の」

 ヒト型の小学生のような奴。緑色で、ほぼ壁にもたれている後ろ側を抜けていった。

「信じられない」


 周りを確認すると、トイレの個室。

 一番奥に半分顔が出ている。

「うげ、なんだあれ」

 なんだろう。つい手が動き、来るなとでも言う感じで掌を、そいつに向けた。


 音は、何も無かった。

 だけど、確かに手から何かが出て、トイレの壁ごとそいつを破壊した。


 飛び散った体液と、壁の破片。


「やべ」

 思わず逃げる。


 だがいつも見ていた、風景に違和感がある。


 空には見たことがない島が浮き、校舎の壁には妙な揺らぎがある。

「なんだこれ」

 さっきまで普通だと思っていたクラスの奴らに、牙が生えていたりしっぽが生えている。

 まさか、気になっているかわいい子を見ると、ケモ耳が生えしっぽがぶんぶん振られている。

 仕草とか、猫っぽいと思ったら、猫系獣人が姿を変えていたのか?


 ドンドン明らかになっていく世界の嘘。


 虚無だった心に、謎のわくわく感が湧いてくる。


 それからも、色々と見て回る。


 そして気が付いてしまった。

 昼なのに、その空に浮かぶかすんだ光。


 それは、すごいスピードで近付いてくるようで、大きくなっていく。

 もう有明の月よりも大きい。


 ぶつかる。そう思って、しゃがみ込む。


 だが何も起きず、そっと目を開く。


 メガネから外れたところは何も変わっていない。


 だけど、メガネを通してみる世界は、地獄となっていた。


 空は赤く、浮かんでいた島も木々が燃えている。


 グランドの方も、謎の黒い煙が立ちのぼっている。

 皆が知らないだけで、実は世界が終わった?

 そうして呆然としていると、クラスで見かける奴が声をかけてくる。

 見たことはある程度の奴だが、なれなれしい。


「おう。松下。それVRか? 完全にメガネ型って新型だな」

「はっ? VRってなに?」

「バーチャル・リアリティ。仮想空間。CGとかで仮想的な空間をそのメガネで見せて、現実みたいに見える奴。最近は技術が進んだから、全く違和感が無いよな。疑似体験だけど、本当かと思っちまう」

 聞いてがっくりとは来たが、安心もした。


「いやこれ、水生生物研究池の所で拾ったんだ」

「拾った? きちんと届けろよ。それ十万超えるから落とした奴涙目だぞ」

「げっ、そんなにするのか」

 あわてて、職員室へ向かう。


「そしたら、お願いします」

 そう言って出てきたのは、さっきの猫耳。水原さん。

 俺が入れ替わりに、職員室のドアを開けようとしたらメガネに気が付いたようだ。


「あっやっぱり」

 少し怒ってらっしゃる。


 職員室へ入り、適当な先生を捕まえる。

「これ、水生生物研究池の所で拾いました」

「あっ、あそこかぁ。でもその後、かけて遊んだよね」

 じわっと後ろを向く。


 すごく近くで、いらっしゃる。

「楽しかった?」

「えっ」

「さっき、私が創った世界を見たでしょう?」

「創ったんだあれ」


「良い雰囲気の所ごめん。水原さん確認して」

 先生が割り込んできた。

「はい」

 そう言って、スマホに表示される番号を確認している。


「合ってます。念のため先生も確認をお願いします」

 英数混ぜた四十桁くらいの文字列。

 シリアルの確認らしいが、大変だ。


「はい。じゃあ水原さん。もう落とさないようにね」

「はーい。届けてくれてありがとう。松下君」


 出ていこうとする彼女。

 すれ違いざま、そっと、彼女に聞いてみる。

「猫耳」

 いきなり固まる。

「なっ、何のことかな?」

 しらばっくれたい様だが、逃がさない。


「ああいうの、好きなんだ?」

「そうだ、御礼にジュースくらいおごるよ」

 彼女はギクシャクと歩き始める。


 こうして、彼女とは仲良くなった。多分。

 今度は、バーチャルでは無く、リアルコスを見せて貰うことになっている。

 お眼鏡にかなったのかは不明だが、初友人であることには間違いない。

 まだ訴えられていないし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

KAC20248 ある日、拾っためがね 久遠 れんり @recmiya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ