戦利品
草森ゆき
ドロップアイテム
視力が0.1を切っているけど眼鏡を買うくらいなら見えずに車道に飛び出して轢かれるほうが絶対にいい。私は眼鏡をとにかく買わない。なのでよく誰かにぶつかるんだけども曲がり角などでぶつかった人と運命の出会いを果たして恋人ができたりする。恋人は眼鏡だった。視力が低くとも近付ければわかった。黒縁の眼鏡は恋人の顔によく似合っていたしでも眼鏡をかけているかいないかは性格になんの関係なかったみたいで恋人は物凄くキレやすかった。喧嘩を何回もした。恋人はアル中な量の酒も飲んだりしていて酔うと更にキレ出して手も出した。殴られて口の中を切ってしまって血の苦みとシンプルな痛みを感じた瞬間に私ももう我慢できなくて全然見えない視界の中で何かを掴んで恋人に向けて振り下ろした。ガシャーン! とすさまじい音がした。永久にぼやけている私の目ではろくに何もわからなかったが鼻は優秀で嗅ぎ取った。鉄の臭いと酒の臭い。おそらくビール。だから私が手に持っているのはビール瓶で恋人は血を流し倒れたのだ。私は見える距離まで近付いて顔を覗いた。鼻が触れ合った。白目を剥いて額から血を流す恋人の喉元に割れたビール瓶を突き立てとどめを刺してからあれっコイツの眼鏡はどこ? と辺りを手探りで探した。ちょっと時間がかかったから見つけた眼鏡は血溜まりの中に沈んでいて拾い上げた時には半乾きの血でべたべただった。私はそれをかけた。すべてが恐ろしくクリアに見えた。酒の缶や瓶だらけの汚い部屋。あちこちに置かれたゴミ袋。それらは恋人の血でめちゃくちゃで恋人は微動だにしなかった。背筋が震えた。感動だった。人ってこんなに汚く死ねるんだなと私は衝撃を受けてそれから決める。眼鏡は絶対に買わない。こうやって人からもらうことにしよう。そして今の今まで一度も眼鏡を買っていない。手持ちの眼鏡は六個に増えた。全部見え方が違うし歴代恋人の臭いがする。
あなたの眼鏡もぜひ欲しい。
戦利品 草森ゆき @kusakuitai
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