めがねふきはおわらない
那由羅
めがねもちあるある
私には三分以内にやらなければならないことがあった。
それは眼鏡を拭く事だ。
「眼鏡、汚れてるねえ」
出勤前の超絶忙しい中、暇そうな家族にプークスクスと笑われ、私は取る物もとりあえず眼鏡拭きを手に取った。
眼鏡拭きは、シート状の箱ものをよく買っている。
泡スプレーも試してみたが、拭き方が悪いのかどうしても拭いた跡が残ってしまうのだ。手軽さもあって、これがマストアイテムとなっていた。
「埃か? 花粉か? ホンット良くつくなぁ………あ、くそ、錆出てら」
鼻パッドのねじに緑色の錆を見つけ、私はつい舌打ちをしてしまう。こそぎ落としたいが、時間がない今は我慢するしかなさそうだ。
何はともあれ、レンズは汚れがすっかり落ち、ついでにフレームも軽く拭いた。これでしばらくは汚れる事はないだろう。
───さて。乾燥肌な私は、眼鏡を念入りに拭いているとどうしても手が荒れてしまう。
放置しておくとささくれが出来てしまうから、眼鏡拭き後のハンドケアは大切だ。
眼鏡をテーブルへ置き、ウェットティッシュで手をさっと拭いてからハンドクリームを手に取る。
完璧主義な私はここでも妥協出来ない。住宅の内見のように念入りに、ハンドクリームをすり込んでいく。
だが。
「あっ」
腕に何かが当たったと気付いて目をくれると、眼鏡がテーブルの端から落ちそうになっていた。
眼鏡が『はなさないで』と語り掛けてきた訳でもない。落ちても壊れる心配はない。そう思っていても、手が勝手に伸びてしまった。
───結果だけ言えば、眼鏡は落ちなかった。
しっかり、力強く受け止めたのだ───ハンドクリームがべったりついた手で。
もはや言うまでもないだろう。
ティッシュなどでは到底落とせそうもない親指の跡が、くっきりとレンズについてしまったのだ。
「くおおぉぉあぁぁあぁぁあっ!?」
誰の所為にも出来ない嘆きが、咆哮に変わる。
指紋との戦いのゴングが鳴った瞬間だった。
~めがねふきはおわらない~ おわり
めがねふきはおわらない 那由羅 @nayura-ruri
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