カード

ゴローさん

カード

 都内某所。

 ラブホテル内。

 ――パンパンパン

「アッ アッ アッ アッ」

「いいよ!いいよ!」


 その中の一室で、若い男女が、ベッドの上で絡み合っている。


 そして行為は盛り上がり、終りへと向かう。

「ハァッ、ハアッ、もういい?」

「んッ//」

「じゃあイクよっ!」


 そしてボルテージが最高潮になった瞬間。


「ピピピピピ」


 後ろから甲高い警告音のようなものがなった。

「えっ!」

 男は驚きながらも音が聞こえた方を半身で振り返った。


 するとそこには


 旗を目線の高さに掲げながらこちらを見ている男が立っていた。

 見たところ初老くらいだろうか。

「………」

「………」


 お互いにしばらく無言のまま見つめ合う。


 先に無言を破ったのは若い男だった。

「誰じゃお前ぇぇぇぇぇ」


 若い男は激昂していた。

 行為中でフィニッシュ直前に止められたのだ。

 初対面での物事の言い方ではないと咎めたいところだが、この男の機嫌が最悪なのも同情の余地はあるだろう。


 ――無論、この状況で異質なのは若い男ではなく、行為中のラブホテルの一室に入り込み、旗を掲げている初老の男の方なのだろうが。


 激昂する男を前にして初老の男は落ち着き払った声で言った。

「オフサイドです」

「……」

「……」

「…はい?」

「オフサイドです。」

 理解に時間を要したのか、時間をおいて、しかし結局理解できなかったのか怪訝そうな顔で、こう聞き返した男にもう一度明瞭な声で聞き返した。


「え、いや、ちょ、は、えぇ。どういうことですか、オフサイドです、って」

「はい。我々はオフサイドディレイを取っていたのですが、ただいま、オフサイドで間違えないと判断したので、プレーを中断させました。」

「いやいやちょっと待てよ!オフサイドってサッカーの話じゃないのかよ!」

「そのオフサイドと似たようなものでございます。」

「意味わかんねぇよ!」


 やはりイライラして言う様子の男は、声を大きくして反論するも、初老の男は自分の言うことが絶対であるような自信に満ちた声で言った。


「あなた、夜の繁華街で店から出てくる女性に声をかけまくっていましたよね。」

「だからなんだって言うんだよ⁉」

「女性が出てくる前に店の外で女性を待ち構えていた、間違えなくオフサイドですね。」

「だから意味わかんねぇだろうがよ!」


 しびれを切らした男は、女に挿入していたイチモツを抜き、旗――オフサイドフラッグを掲げ続けている男に向き直った。

「ここはサッカーのスタジアムじゃなくて、ラブホテルなんだよ!意味がわかんねえ事言ってんじゃねぇよ!」


「ピピピピピ」


 またもや部屋に警告音がなった。


 それと同時にその審判風の男はポケットに手を突っ込んだ。


 そして黄色いカードを持って男に掲げた。

「審判への抗議は警告の対象です。イエローカードです。」

「うるせーよ!だからここは」

「これ以上抗議するなら、もう一度イエローカード出しますけど。」

「それでも良いってんだよ……」


 別にレッドカードを出されたからと言って怖くはないのだが、何が起こるかわからない以上なんとなく気が引けて抗議の声に勢いがなくなる。


 が


 ――やりたいやりたいやりたいやりたい


 突然、若い男は下半身に溜まった白濁液を出したいという衝動に襲われた。


 若い男は老人に背を向け、女の穴に入れ直した。

「いくっ」


「ピピピピピ」


「私のホイッスルの前に試合を再開させるのは、遅延行為とサッカーではみなされます。イエローカードもう一枚追加でレッドカードです。」


 その言葉を機に男の意識はブラックアウトし始める。

 男は自分がこれからどうなるのか不安で、だけど悔しかったのか捨て台詞として叫んだ。

「遅延行為したのお前だろうがよっ!」

 そして男は果てた。

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カード ゴローさん @unberagorou

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