俗物
小狸
短編
「そろそろ最終回って感じで盛り上がって来たよね! 来月の新刊楽しみ」
「そうね」
「あれ? 意外と冷静」
「まあ、冷静にもなるよ。だって、物語が終わるってことだもの」
「?? それの何が冷静になる要素あるの? 終わっちゃうんだよ」
「そうね。だからこそ、なんていうのかな、終わりへの熱っていうか、期待を抑えてるところはある」
「熱くなるんじゃなくって、抑えてるの、なんで?」
「物語の終わり、よ。それだけでその物語全体の評価が決定すると言っても過言ではないわ。作家先生も、それだけ尽力して、続けてきた物を終わらせる――並大抵の覚悟ではないでしょうね」
「まあ、そりゃそうだね」
「それに、ただ終わらせれば良い、って訳じゃない。最近はさ、ネットが発達してきて、何ていうのかな。
「あー、何となくそれは私も分かるかも。当日だけトレンド入りするけれど、考察とかはされないみたいな――エナジードリンクみたいな物語が増えたよね」
「
「げきぶつてき」
「平仮名で言わないで、子どもっぽいわ」
「私達子どもじゃん」
「子どもね、でも、子どもも騙せない物語って言うのが、最近跋扈しているように思うのよ。その劇物的終幕によって、何となくわーって内輪で盛り上がって、良く分からずに終わる、みたいなのよ。燈子も漫然と読んでるわけじゃなさそうだから、そういう終わりに心当たりがあるんじゃない?」
「まあ、そうねー。辻褄合わなかったり、伏線適当に回収されたら、読者としても何だかなって思っちゃう。連載打ち切り間近とかなら仕方ないと思うけど、それまでの積み重ねを台無しにするような――そんな終わりが流行ってるのは、ちょっと否めないかな」
「そう。もはや
「でも、それって楽しいの?」
「…………」
「確かに
「…………」
「いや、多分、礼美の方が、賢い読み方なんだと思うよ。でも、だったら私は、作品にとって、俗物で良い。通俗で、どこにでもあって、その辺の人達と一緒でいい。一生懸命、一緒に作品を楽しみたい、最後まで、楽しみきりたい」
「……それが、意図しない、つまらない終わりだったとしても?」
「うん。その時はその時。つまんなかったなー、って思って終わる。別にそう思ったら死ぬわけじゃないし、何より作品を楽しんでいたその時間は、なかったことにはならないから」
「……あなたと話すと、色々と勉強になるわ。その視点は私にはなかったし、私だけじゃ導けなかった。私も、なってみようかしら。どこにでもいるような、俗物に」
「ぜひぜひ!」
そんな風にして、二人の女子高校生の会話は、幕を閉じた。
それから一か月後。
賛否両論を呼ぶ結末に、ネットや巷間では憶測に憶測を、考察に考察を呼ぶことになる、その中には否定的なコメントも散見され、一部では作品を途中で投げた、とも言われるほどであった。
でも。
それでも。
誰が何と言おうとも。
読み終えた物語から、栞を取り出しながら。
あの時、真剣に物語と向き合って良かったと。
(了)
俗物 小狸 @segen_gen
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