壊れかけのラジオ
街の郊外にある森の、そのまた先の草原に横たわるひとつの影があった。色素の薄い黒髪は太陽の光を受け少し茶色く照り返すと、冷たい西風を受けふわりと揺らめいた。
少年は青い空を見上げながら父の倉庫から見つけてきたラジオの音に耳を傾けている。
その古ぼけた無線機器は時折高い機械音と砂嵐を奏でながら、なにかの暗号のようにただひたすらに無機質な声を上げていた。ツマミは3つ程付いているようだったが、音量が気持ち程度に調整できただけで、残りの2つは配線をいじってみても結局は大手に空振りに終わったのだった。
「それ、楽しいか?」
不意に投げかけられた問いの先に目を向けると、こちらもまた少年と同じ程の背丈の男の子がたっていた。
短髪の茶色い髪に吸い込まれるような瑠璃の色をした瞳を持った少年だった。彼は名をアルマと言い、物心がついた頃からの親友であった。
「毎日聞いてて飽きないのかよって」
少年が寝転んだままに彼の顔を眺めていると、隣に座り込みながら言葉を続けた。
「んー、まぁ、君の話よりは?」
意地の悪い顔をしながらそう返答すると、すかさずアルマはコノヤロウというように少年の腋に手を回した。
「ごめん、ごめんって!謝るからくすぐるのはよしておくれよっ!」
少年は笑いを堪えながら許しを求める。
「それに、少しずつ意味がわかってきたんだよ、こいつが何を言ってるのか」
アルマの手が止まったことを確認すると少年は身体を起こしながら誇らしげな顔をしてそういった。
そうして少年は聞き馴染みのない単位や言葉で気温や気圧、風向きについて発信されているという、この数日間聞き続けてわかったこと、気づいたことを丁寧にアルマに説明する。
「なるほどな。んで、つまりどういうことだ」
アルマは真面目な顔をして首をかしげる。むかしから難しい話は苦手な男だ。少年はひと息つくと、ゆっくりとその問いに答えた。
「つまるところ、今夜は雨が降るそうだ」
青く澄んでいたはず空には、うすく雲がかかり始めていた。
〆
動かずとも、迫り来る。 天井 香織 @anagram0131
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