古本屋
店主は閑古鳥の鳴く古本屋で煙草の煙を燻らせていた。
決して人の少ない街というわけではなく、すぐ近くには結婚式場や大きな商業施設もある街だった。逆に言えば、商業施設に新しく入った書店に客を取られ、そのせいでこの古本屋には閑古鳥が棲みついたとも言える。
片手間に読んでいる新聞には最近偽札を使った犯罪が急増しているだとか、人気者の芸能人が数多の女と不倫を繰り返していただとか、そんなようなことばかりが買いてあった。
吸い切った煙草を灰皿に押しつけ新しく煙草に火をつけようとした時、店の扉を開けるベルの音が鳴った。
店に入ってきた男は背が低く、ひと昔前に流行ったような飾り服を着込んでおり、入り口近くに積まれていた100円前後のコーナーの本を手に取るとすぐにレジへ歩みを進めてきた。
「この本、もらってもいいかな。」
「それなら150円だよ。」
「あいにく今銀行で金を下ろしてきたばかりでね、大きい額になってもいいかい。」
そういうと、背の低い男はピンとシワの伸びた1万円札を取り出した。
「まぁお釣りなら錆びるほど余ってるからね、別にいいよ。」
店主はピン札受け取ると鍵の壊れたレジを開き仕舞い込んだ。そうしてお釣りを渡すと男は、どうも、助かったよと一言残すとそのまま店を後にした。
風のような客が去ると店主はレジ近くの椅子に腰を下ろし再度煙草に火をつけようとする。
すると、また扉を開けるベルの音がなった。次に来たのはキチキチとした今どきのスーツに身を包んだ男だった。男はレジに一直線に歩を進めると店主に向かって声をかけた。
「なにか短編集のようなおすすめの本はないかな」
「それならこの本がおすすめだよ、あんたが気にいるかはわからないがね」
店主はそういい、レジ横に置いてあった『箱庭図書館』という本を差し出した。
「ありがとう、いくらかな」
「300円でいいよ」
「ちょうどあった気がするな」
そういいスーツの男は300円を手渡した。それから、ふと思い出したように言葉を続けた。
「あと、これから結婚式に出ないといけないんだけど、銀行で金を降ろしてもシワのついた札しか出なくてさ、1万円札を交換してもらえたりしないかな?」
「ああ、それならちょうどさっきピン札が入ったところだよ」
店主は先ほどレジに差し込んだ1万円札を取り出してスーツの男の1万円札と交換してやった。
「ありがとう、どうしようかと思っていたところだったんだ。」
「こちらこそ、本を買ってくれてありがとうね。最近は近所のデカい書店に客を取られて閑古鳥が鳴いていたんだ。まいどあり。」
そうして男は店を後にした。煙草を吸うことを2度も邪魔された男はようやく落ち着いたというようにズッシリと椅子に腰掛け煙草に火をつけた。
カランカラン。普段はそう何度も響かない音がまた耳につく。
今度は誰だ、そう思い入口に目をやると、これまたスーツを着た初老の男と若い男が入ってきた。が、どうやら先ほどの2人とは様子が違うようである。
「ここで『偽札』を使おうとした男は来なかったか?」
どうやら2人は刑事であるようだった。
〆(20分制限速筆)
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