あなたの色に(2)

「すう・・・すう・・・」

目が覚めれば、すぐ傍に温かい感触。いつものことではあるけれど、ミナモちゃんが私に抱き付きながら眠っている。


「ん・・・・・・おはようございます、サクラさん。」

先日の一件以来、こんな風に目を覚ます時にも、影響し合うようになってしまったけれど。


「おはよう、ミナモちゃん。また起こしちゃったかな?」

「私は大丈夫ですよ、サクラさん。」

ぱちりと目を開けながら、ミナモちゃんが笑顔で答えてくれた。



「サクラさんの隣にいると、体も心も、すごく温かくなるんです。」

私の胸にぎゅっと顔を埋めてから、ちょっと視線を上げてミナモちゃんが口にする。もしかしたら、家族の夢でも見ていたのかもしれないけれど、不安そうな気配は感じないから、詳しく聞かなくても良いだろう。

・・・助けられているのは、むしろ私のほうだと言えるのだから。


「ありがとう。でもそれって、ミナモちゃんのおかげでもあるんだよ。」

だから、私達二人しか起きていないこの時に、こんな話をするのもたまには良いだろう。


「何度か話したことはあると思うけど、私は母さんに生きるための知識を色々と・・・厳しめに教えられたから、こんな風に誰かとくっついて眠るなんて、とても考えられなくてね。」

「そう、だったんですか・・・」

ミナモちゃんが少し表情を引き締めながら、私の顔をじっと見つめている。


「それに、初めて会った時には盗賊に狙われてたの、ミナモちゃんも覚えてるでしょ。

 あんなことをされるくらい、ああいうのを捕まえたり、剣で斬り倒したりしてきたってことでもあるんだよね。もちろん、危ない動物の討伐もたくさんしてきたし。」

「サクラさん・・・・・・」


「だから、私がこんな風に穏やかな気持ちで朝を・・・今はまだ少し早いけれど、迎えられるのはミナモちゃんのおかげでもあるんだよ。」

「・・・・・・私が初めて会った時から、サクラさんは優しかったですよ。」

「え・・・?」


「きっと、サクラさんが大変な思いをしてきたのは確かだと思います。でも、恐い人達や動物以外には、ずっと優しかったんじゃないかなって思うんです。

 マリーさんやリリーさん、他の依頼所の職員さんだって、サクラさんを怖がる様子なんて全然無かったですし。」

「あはは・・・ありがとう、ミナモちゃん。うん、そうだったら良いかもなあ。」

・・・こんな感情が生まれてくるのは、ミナモちゃんに出会ってからということは、確かなんだけどね。


「えっと、でも私がサクラさんの助けになれるのは嬉しいですから・・・もっとこうしても良いですか?」

もう私にぴたりとくっついている身体が、ぎゅっと押し付けられて、柔らかな頬や髪が、肌に触れるのを感じる。


「私も家からほとんど出ることがなかった日々でしたから、魔法の勉強以外のこと、サクラさんに本当にたくさん、たくさん教わったんですよ?」

そうして、そのまま耳元近くでささやくように・・・元々、同じ部屋で寝ている皆を起こさないよう、気を遣っているのもあるけれど、優しい声が響いてくる。


「そっか。私はミナモちゃんに、ミナモちゃんも私に、影響されてるってことで良いのかな。それは嬉しい気持ちだよ。」

「はい・・・! サクラさんの色になら、もっともっと染まりたいって思います。」

私を求めるように、ミナモちゃんが顔を上げて、触れ合うほどの距離で口にする。少しだけ頬を赤くしながら。


「あはは、それは嬉しいな。これからもよろしくね、ミナモちゃん。」

「はい・・・! よろしくお願いします、サクラさん。」

そうして言葉を交わし合い、いつものようにミナモちゃんの頭を優しく撫でれば、幸せそうな笑みが浮かび、また私にぎゅっと全身を押し付けてくる。


これからも、こんな優しい朝をずっと迎えられるように、そしてミナモちゃんも、幸せな気持ちでいられるように。

互いに色を重ね合いながら、旅路を歩いてゆこうと心に誓った。

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【KAC20247】彼女達が映す色 孤兎葉野 あや @mizumori_aya

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