魔女の会

俺は今泊里と横並びになりながら歩いていた。どうやら俺をどこかに連れていく気らしい。


泊里の格好は既に魔女のような格好ではなく元着ていた学校の制服になっていた。それに怪我も数日前に負った傷がカサブタになったような状態になっていた。魔女も回復力すごいのか…


「あ、家の人とか大丈夫?心配してない?」


泊里が思い出したようにそう言ってくる。だが問題ない。俺には両親が居ない。


「あぁ、大丈夫だ」


だがわざわざそんなことを言わなくてもいいだろう。そう思い簡単な返事だけした。


「今はどこに向かってるんだ?」


「『魔女の会』」


俺がそう聞くと泊里はそう答えた。


「『魔女の会』?なんだそれ」


そう聞くと泊里は説明してくれた。


「『魔女の会』はね、私みたいな魔法が使える魔女を集めた魔人に対抗するための組織なの」


てことは魔人はさっきのやつだけじゃないってことか。それと魔女も泊里だけじゃないのか。


「魔女って何人いるんだ?」


「私合わせて今のとこ五人だね」


五人か…それだけいれば魔人を袋叩きに出来るんじゃないか?


「それに魔人にも危険度って言うものがあるの。S、A、B、C、Dの五段階に分けられてるの」


そんなにあるのか…さっきの魔人はかなり手強かったよな…危険度Aくらいあったんじゃないか?


「さ、ついたよ。その他もろもろは中で教えて貰えると思うよ」


そうして俺たちが今立っているのは廃ビルの前だった。え?ここなのか?


そんな疑問を抱いていたが泊里が入っていこうとしているため間違いではないのだろう。


廃ビルに入り数階階段を登る。そして四階についた時、泊里にここだと言われる。そこは廃ビルの中とは思えないほど綺麗で机や椅子、それに観葉植物なんかも思いてあるオシャレ空間になっていた。机の並びは一番奥に一人用の机、その前に一つ大きな長方形の机が置いてある。そしてその両サイドに二つずつ椅子が置いてある。


そんな一番奥の椅子と四席あるうちの二席には誰かが座っているようだった。


「美海、そこにいる彼が君の言っていたイレギュラーかい?」


一番奥に座っていた少女が泊里に対してそう言った。


「はい、会長。彼は男であるにもかかわらず魔法が使えました。杖を持っても全く平気そうでした。さらに詠唱することなく私以上の威力で魔法を発動していました」


会長と呼ばれた少女は艶のある綺麗な白髪で端正な顔立ち、目尻が上がった猫目で鋭い目付きをしていた。


「美海、そんなわけないでしょ?男が魔法を使えるわけないわ。しかもそんなパッとしなさそうな奴に限って魔法なんて使えないでしょ」


おいおい、随分な挨拶だな。いきなりそんなことを言ってきたのは綺麗な黄色をした髪をツインテールにしてクリっとした大きな目をした少し身長の低い少女だった。


「ま、まぁまぁ…美海ちゃんはちゃんとその目で見たんだよね?なら本当なんじゃないかな」


控えめにそう言ったのはピンク色のボブカットが印象的な優しそうな雰囲気を纏っている少女だった。


「落ち着きたまえ香澄かすみ。騒がしくてすまないね。私は魔女の会会長の静川しずかわ 遥妃はるひだ。よろしく」


会長は微笑をうかべながらそう言ってきた。


「し、嶋原 叶希です」


「ところでいきなりで悪いんだか君が魔法を使ったと言うのは本当かい?」


そう言った会長は先程とは違い真剣な顔でそう言った。


「は、はい」


確かに俺は魔法を使った。


「ふむ…男なのに魔法を使えるのか…」


さっきから男なのにってどういう意味だ?


「すみません、男だったら本来魔法は使えないんですか?」


そう言うと会長はハッとした顔をした。


「すまない。説明がまだだったね。本来、魔法というものは魔女しか使えないものなんだ。それと魔女という言葉からわかる通り魔女になれるのは女しかいないんだ」


なるほど…


「だから魔法を使える君をイレギュラーと呼んだのさ」


確かに俺はイレギュラーな存在だ。


魔女…何故かこのワードを聞くと懐かしい気持ちになる。何故だろう。


「それで美海、彼はどんな魔法を使ったんだい?」


「はい。私と同じ火魔法を。しかも火魔法の奥義でもある『神の炎カグツチ』を詠唱なしで発動しました」


「それも杖を顕現させずにか…ますますイレギュラーだな…」


やっぱり杖を持つだけじゃ普通は魔法を発動させることが出来ないのか?


「杖を持てば魔法を発動できるわけじゃないんですか?」


「あぁ、その説明もしておこう。美海が持っていた杖、あれは美海専用の杖なんだ」


「泊里専用の杖?」


「そうだ。魔女はそれぞれ自分専用の杖を顕現させることができる。それは他人が使うことは出来ないし持つことも出来ない。杖は言わば自分の半身だ。もし仮に他人が持つことは出来ても魔法を発動することは絶対にない」


「そうなんですか…」


じゃあ俺はなんで泊里の杖で魔法が発動できたんだ?そんなことを考えても魔法の知識なんてない俺には全く分からなかった。


「やっぱりそいつ嘘ついてるんじゃないの?」


香澄と呼ばれた少女が俺を睨みながらそう言ってくる。


「ふむ…確かにこの目で見てみるまでは私も信じられないな…だがもう一度美海の杖を触らせる訳にはいかない。冗談ではなく本当に危険だからな。普通なら魔女じゃない人が杖を触ると魔力を杖に吸い尽くされて死んでしまう。どうしたものか…」


泊里がそんなこと言ってたな。何ともなかったけど。


「あ、あの…それなら傷を負ってもらうのはどうでしょう…魔力を持っている人は傷の治りが極端に早いので…もし治らなくても私の魔法で治せますし…」


この優しそうな人…見かけによらずすごいこと言うな…


「…千花ちかの言う通りだな。嶋原君には悪いがそれが一番分かりやすいか。少し痛いが我慢してくれ」


そう言いながら会長が近づいてきた。その手にはどこから取り出したのか分からないハサミが握られていた。


「え?ちょ、待っ…」


制止する間もなく会長が俺の右手を握る。そして人差し指にハサミを押し当て薄く切った。


「いっ…」


鋭い痛みと共に少量の血が流れ出す。こんなの直ぐに治るはずないだろ。今まで生きてきて傷の治りが異常に速かったら普通気づくだろ。


「さぁ、これで十分ほど待ってもらう。魔力を持っているならこの程度の傷は完治するはず…は?」


え?なんだ?会長の表情が驚愕に染まる。


「会長?どうかしましたか?」


泊里がそう尋ねる。


「あ、ありえない…切ったばっかりでこんなことが…」


一体どうしたと言うんだ。俺は先程切られた自分の指を見てみる。するとそこには既に傷は無くなっていた。


「治ってる…」


「え?」


「は?」


泊里と香澄がそんな声を上げた。どういうことだ?自分でも理解できない。だが何度確認しても傷はなかった。


「ちょ、ちょっと確認させなさいよ」


「私も…」


そう言って泊里と香澄が俺の指を確認する。その後遠慮がちに千花が確認した。


「ほ、ほんとに無くなってる…」


「そんなことがあるの…?」


「魔女の回復力は異常ですが…これは流石におかしいです…」


「き、君は一体…いや、余計な詮索はしないでおこう」


正直その方が助かる。俺だって何が何だか分かってないからな。


「ま、まぁこれで君に魔力があることが分かった。そこで君には選択をしてもらうことになる。我々『魔女の会』に参加する。もしくはここで危険因子として処分されるか、だ」


会長が冷たい眼差しで俺を見る。


つまり『魔女と会』に入らなければ殺されるということか。多分『俺』というイレギュラーを監視するのが目的なんだろう。魔法を使えるかもしれない人物を野放しにするのは危険だという判断か。


「…脅迫ですか?」


「とんでもない。私はただ君に選択を提示しているだけだ」


よく言うよ。最初から『魔女の会』に入らなければ殺す予定だったくせに。


「…分かりました。『魔女の会』に入ります」


「賢い選択だ。歓迎しよう嶋原 叶希君。今日から君も『魔女の会』の一員だ」


会長はニヤリと笑いながらそう言った。



あとがき


面白い、もっと読みたいと感じた人は評価お願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

救世の魔男 Haru @Haruto0809

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ