エピローグ 主人公の名前は――

「――ということがあったの。これが聖剣ガラティーンの真実よ」

「…………」


 鬱蒼とした森を抜けた開けた空間。そこにある切株に腰掛けながら狐の獣人である女性が昔話を少年へと聞かせていた。

 狐の獣人女性は九つに分かれた尻尾をたなびかせながら不満そうに少年の顔を眺めた。

 妖艶な雰囲気を醸し出す女性はゾディアス帝国の生き字引と言われるほどに長寿な存在だ。

 帝国の長い歴史の中、図らずも異形の力を手に入れることとなった彼女は聖剣の守り手として勇者を導き続けてきた。


「無口な人ね。相槌くらい打ったらどうなの」

「はい」

「雑ぅ……」


 狐の獣人女性は呆れたように溜息をつく。

 どうにもこの少年は無口が過ぎる。

 彼の中に勇者としての輝きを見出したからこそ、この地へと導いた。

 けれど、感情というものがまるで見えてこない。

 それでも、彼女は信じることにしたのだ。

 ルミナを救いたいという、確かに感じるその意志を。


「とにかく、そこの台座に収まる聖剣ガラティーンはかつて、初代ルミナ様の御付きの騎士だった男の末路よ。あなたが勇者だというのならば引き抜いてみなさい」

「…………」

「えっ、勇者とか、そういうのはどうでもいいですって?」


 目の前にいる少年は、かつて魔王を倒した伝説の聖剣を引き抜くことのできる唯一の存在だと聞かされてやってきたのだが、実際はどこかボーッとした様子の少年。覇気などはあまり感じることはできない。

 本当にこの少年があの何度も復活を遂げて怨念の塊となった魔王を撃ち滅ぼすことができるのか。そんな風に思わずにはいられなかった。


「はぁ、まあいいけど。今代のルミナ様を助けたいならそれを抜くしかないわよ。準備は良いかしら」

「はい」


 短く答えると、少年は台座に刺さった聖剣に手をかける。

 そして、聖剣の抵抗があったため引き抜くのに体力を消耗したが、なんとか輝きを放つ聖剣ガラティーンを抜くことができたのだ。


「すごい……本当に抜いちゃうなんて」


 狐の獣人女性の感嘆の声を聞きながらも、少年は無言のまま。

 そして、剣を鞘に納めると足早にその場を立ち去ろうとする。


「そういえば名前を聞いてなかったね。あんたの名前は?」


 ハッと思い出したように、狐の獣人女性はその背中に向かって問いかける。すると、少年は僅かに振り返って答えた。


「ガウェイン」


 少年の名はガウェイン。ルミナの聖剣シリーズ通してヒロインルミナのために奔走する主人公である。


 ※ルミナの聖剣 時のグリモア――エリーン森林奥地、聖剣ガラティーンの台座でのイベントシーン〝聖剣の案内人、九尾のマリン〟より抜粋

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ルミナの聖剣~タイトル的にこいつが主人公だな!~ サニキ リオ @saniki_rio

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