すきにして2

団周五郎

第1話

すきにして2


  一

阿部課長からの逃避行メッセージを読み終えた山中雅はハタと考える。

これからどうしようかと考える。

課長がいなくなった理由を栗田部長にしなければならない。

あんたの部下がゲイで、マゾでおまけに部下の社員に自分が女装するのを手伝わせたのだ

女装になってみて目覚めた課長は、会社をほっぽりなげて行方をくらました。

どう考えても罪は重い。

間違いなく激怒するだろう。

多様性が認められるようになってきたご時世ではあるものの、それは自分たちにかかわりのないところだけでのこと。

自分の身の回りで起こることについては、まだまだ保守的で男は男らしく女はしとやかにというのが常だ。

まして、相手は昭和生まれの栗田部長だ。

ことをそのまま雅が明らかにすれば、どんな騒動が待ち受けているのか……。

考えただけでも背筋がぞくっとして震えがくる。

厄介なことは避けて通り過ごしたい。

穏便に過ごす方法はないものかと雅は悩む。

課長が勝手に消えたのだ。自分は何も悪くない。

知らぬ存ぜずで通すせばいいじゃないか。

無関係でいることにしよう。

飛んでくる火の粉は避けようと決めた。

課長の家から会社に戻ると、

「係長、部長が呼んでましたよ」

と根本純に告げられ、雅はドキッとする。

きっと課長のことを聞かれるはずだ。

部長室に入るや否や、部長が、

「阿部課長はどうしたんだ」

と叫んだ。今にも怒りが爆発しそうだ。

部長の勢いに雅は耐え切れなかった。

知りません! と、どうしても言えなかったのだ。

「なにか、新しい企画を思いついたようで、至急調査に出ると言って出かけました……」

とっさに出た嘘だった。

「ほぉ、そうか、新企画なぁ…… 部長会議での発表を考えてかぁ…… 早く言ってくれりゃいいのに…… アベッチも水臭いなぁ……」

さっきまでの険しい顔が緩む。

「えっ、アベッチ……?」

雅は耳を疑った。部長が課長をアベッチと呼んだからだ。

雅のけげんな様子に部長が気づいた。

「いやいや、アベッチじゃないわ。阿部課長だ。まぁ、そういう事ならしかたがない。今日の部長会議は延期するしかないなぁ…… 課長のことはわかった。自席に戻ってくれ」

とりあえず栗田部長の爆発は抑えることができた。

しかし雅は釈然としない。

課長のやらかした騒動に自分が巻き込まれてゆく気がするからだ。

とっさに言った嘘に心から悔やむ雅であった。

その日の夜である。

雅の携帯が鳴った。

相手は課長からだ。

「もしもし、山中係長どすか?」

「はい、そうですけど…… じゃないですよ。課長、まったくぅー 消えてしまうし…… 手紙読みましたよ。自分探しの旅に出るとか書いてありましたけど……」

「そやねん、自由になりとうて自分探しの旅に出かけたんどすけど…… すぐに自分を見失ってしもうてなぁ」

「見失った……?」

「そやねん。誰に何も言われずどこに行ってもいいとなったら、なにもでけへん自分に気がついたんどす。ワテは会社にいてやることがあって、忙しゅう動き回ってなんぼの人間だす。何もやることがなくなったら、いきなり自分はなにものやねん! ということになって自分が分からんようになったんどす。自由気ままに生きているより束縛されていきてる方がいいんだす。純さんに縛られたときのことを思い出したら、なんかゾクゾクしてきますねん」

「もう! 会社に戻ってくる気はあるんですか?」

「うん、会社に出たいんやけど、栗田部長…… 怒ってはりますやろなぁ」

「部長には至急の調査に出たと言っておきましたよ。そしたら部長、喜んでアベッチとか言ってましたけど」

「えっ、部長がアベッチって…… ほんまに言うたんどすか?」

「そう言ってましたよ」

「言うてもうたんかいな……」

「なんかあったんですか?」

「実はなぁ、係長やから言うんやけど、昔、栗田部長とはクリッチ、アベッチって言うてなぁ。一緒に暮らしてたんや」

「げえぇ! ほんとですか?」

「ほんまやねん。けどな、クリッチ…… いや栗田部長が先に部長に昇進してから、仲が悪うなって別れたんどすがな」

「ってことは、以前は恋人同士だったって……?」

「そやねん。クリッチ、ちょっと腋臭でな。臭かったんやけど優しかったんやでぇ」

課長が電話口で懐かしそうに言うのを聞いて、雅は

「いやいやいや、もうわかりました。その話はもういいです。いずれにしても明日はしっかり出てきてくださいよ」

どうでもよくなって電話を切ったのだった。

部長と課長が付き合っていたのかぁ。衝撃の事実を聞いて、いったいこの会社はどうなっているのか、働く意欲をなくす雅である。

 二

翌日会社に出ると阿部課長がすました顔で背広姿で自席に座っていた。

根本純も中川ネネも何もなかったように仕事をしている。

まじか! こいつらは! まともな精神じゃない。雅はそう思うのである。

「山中係長、ちょっと」

課長が隣の会議室へ雅を呼んだ。

嫌な予感がする。しぶしぶ席を立つ雅。

「なんか用ですか?」

「いや、例の新企画の話なんやけど」

「それは、この前お話ししたじゃないですか!」

「女性ホルモンの話ですやろ」

「そのために中川さんを呼んで女装を手伝ってもらったでしょ!」

「そうだす。あの恩は一生忘れまへん。あれからワテは家の中ではずっと女装だす」

「ほぉ、そうですか? それで、効果の方は?」

「それがこのとおりだす。ぜんぜんあきまへん」

課長はつるつるの頭を雅に近づける。

「いやぁ、近づかなくていいです。まだダメ見たいですね」

雅は近寄ってくる課長の肩を両手で抑え距離をとった。

「四六時中女装をしてないと効果がないんじゃないですか? 課長! この際、職場にも女装で来るしかないですよ」

「そこやねん。それも考えたんやけど、クリッチが……」

「クリッチ……? 栗田部長がどうかしたんですか?」

「この前部長室で二人っきりになったとき、クリッチに抱きしめられたんどす」

「えっ、部長に!」

「そうだす。いきなり抱きしめられて、昔みたいに一緒に暮らさんかって言われて……」

「それで?」

「慌てて部長室から逃げてきたんどすがな。そやから女装なんかして職場に来たらいつ部長に襲われるかわからへんし……」

「うーん」

部長と課長が恋人同士で付き合っていて、仲違いが生じて別れ、職場に出てくれば部長に抱きしめられ、よりを戻そうと迫られる。

これは、恋人の別れ話なのか、パワハラなのかセクハラなのか、雅には理解できない事象であった。

「係長、部長をなんとかしてぇな……」

課長は雅に救いを求め、手を握ろうとした。

「うわっ!」

思わず声を上げ、雅は会議室を飛び出たのであった。

どうなっているんだこの会社は……

頭と心が芯から疲れる。雅は午後から休むことにした。

「僕は午後休むから、課長がなにか言ってきたらにらみつけて追い払ってくれ」

雅は純に後のことを任せた。

先日のSM事件以来、課長は、純に対して何も言えなくなっていたからだ。

純がハイヒールのかかとで床をコツコツと打ち付けるだけで、課長は体を硬直させる。

犬のように口を開け、下をペロリと出すのであった。

午後から休暇をとった雅は、仕事で知り合った鍼灸師の梅村安治のマッサージを受けようと治療院に出向く。

「久しぶりですねぇ。ちょっと待ってください。今、治療中の患者が終わったらすぐに案内しますから……」

梅村は久しぶりに会う雅を自分の控室に案内した。

昔は五分刈りの頭にシミのついたよれよれの白衣で治療にあたっていた梅村だったが、今ではつやつやした栗色の髪に清潔な水色の治療着で治療にあたっている。

随分と変わったものだと雅は思う。

梅村と雅は、この治療院ができてからの付き合いだ。

鍼灸の腕は抜群に良い梅村だが性格がいたって真面目。

おまけにビジネスには全く無頓着。

利益だとか経営計画などなんの考えもなく始めたものだから、開業しても客足は伸びず倒産寸前になっていた。

そんな時、雅と出会ったのだ。

雅は梅村の腕と真面目な性格に惹かれ店の改革に乗り出した。

治療院の名称、開業時間、施術のメニュー、単価の設定、ネットでの宣伝方法あらゆる工夫を凝らした。

梅村治療院は鍼灸「梅安」に名前を変えさせた。

そして、有閑マダムをターゲットにすることにした。

単価の設定を少し高くし時間を長めにした。

しっかり疲れをとることに重点を置いたのである。

施術メニューは「スタンダード梅安」から始まり、「ラグジュアリ梅安」、「スーペリア梅安」まで用意した。

施術に違いはない。

ただ時間が伸びてゆくだけだが、高級感のある名付けをすることで魅惑的な効果を狙ったのだ。

さらに性感に重点を置いた鍼灸も用意した。

マダム達が甘美なひとときを過ごせるよう「梅安スペシャル」というメニューをつくり、夫との間に起こるストレスを解放させた。

容姿のことなど気にしない梅村だったが、素地はイケメンだ。

美容室とエステに通うよう指導し、イケメンに磨きをかけさせた。

本人は気づかないが来た客は梅村の容姿に目を見張るようになりだした。

さわやかイケメンの鍼灸師が体の隅から隅まで治療してくれるのだ。

有閑マダム達の間ではちょっとした噂になる。

腕はいい。時間も長い。「梅安スペシャル」は潤いを与えてくれる。

これらのサービスがマダム達の好奇心をくすぐったのである。

雅の狙いは見事に的中した。時代も女風の風が吹き始めていた。

今では注目の鍼灸師として名前が上がるほどになっていた。

梅村が案内してくれた控室は治療室のすぐ裏にある。

雅は、中にある椅子に腰を掛け一休みした。会社のことが頭の中を駆け巡る。

疲れたなぁと思う。

頭の中を空っぽにしようとして目をつぶったら、すぐ目の前の治療室から声が聞こえてきた。

いかにも有閑マダムの声だ。少し低めのボイスで梅安に話かけていた。

雅はマダムと梅安のやり取りに耳を傾けた。

「梅安先生、このところねぇ、私のエストロゲンちょっとさみしいのよ。前は何もしなくても潤っていたのに…… 」

マダムが治療服に着替えをしているようだ。衣擦れの音が聞こえる。

「では今日は女性ホルモンの出が良くなる施術をしてみましょう」

梅安の真面目な受け応えに梅安らしいなと思いながら雅は治療の様子を聞いていた。

「治療を始めますよ。まずは全身の経絡治療から始めていきます」

マダムの要望を聞き取って梅安は施術の方針を決めた。

マダムの両手、両足に手際よく鍼を刺してゆく。

「ふぅー、先生…… 気持ちいいわぁ」

「血液の流れが活発になり始めています」

マダムの挑発らしき鼻声のささやきに対して、真面目に返答する梅安だ。

十分間ほど鍼を置いたままにする。置鍼である。

置鍼の間、梅安はマダムの足の人差し指の付け根あたりにある湧泉(ゆうせん)というツボを押し始めた。

梅安のツボ押しが始まるとマダムは無口になった。

チラリチラリと梅安の顔を見る。体つきを見る。股間を見る。指先を見たりして、不気味な笑みを浮かべたりしているのだった。

「体が温まってきましたね。少し失礼します」

梅安は鍼を抜き、治療着の胸から腹にかけてのボタンをはずす。そして肌を露出させた。

へその真ん中から指四本分上にある中脘(ちゅうかん)を刺激する。

中指の腹をツボにあて、指をまっすぐにしたまま十秒ほど優しく押す。

「ウッ…… フッ……」

マダムの口から甘いため息が漏れる。

さらに指を押し続ける。

少し場所を変えてまた十秒ほど押す。

そして緩める。

これを三分ほど続けるとマダムに変化が現れてきた。

「センセイ…… ナンカ…… 梅安…… センセイ」

マダムの甘いため息がだんだんあえぎ声に変わってきた。

両足の親指が反り返っている。

マダムの変化には目もくれず真面目に梅安はツボを押す。

マダムの腰がくねくねと動き出しても腹筋がひくひくと痙攣しても態度は変わらない。

マダムは口に手を当て声を抑えようと必死だ。

しかし、ついに声が出てしまった。

「ウッ、イ…… イキ…… 梅……安…… ウメ~」

俺のことをウメと呼んでいるのかぁ…… 

これには思わず吹き出しそうになった梅安だったがこらえた。

梅安の一連の施術でマダムのエストロゲンは激増し治療は終わった。

しかし、マダムは治療台から降りようとしない。

「梅安先生、ごめんなさい。私、つい……」

「いや、いいんですよ。女性ホルモンの出を活発化するには、子宮を刺激することになりますから、どうしても興奮は避けられないのですよ」

梅安の説明を聞いても、火照ったマダムの体は収まらない。

「あのう~ 梅安スペシャルって…… 知り合いから聞いたんだけど……」

恥ずかしそうにマダムが聞いた。

「ああ、梅スぺね。あれは別料金になりますけど」

「私に、どうかしら?」

「陰部神経を刺激するので、ちょっと刺激は強いですよ」

いたって真面目に応答する梅安だ。

「陰部……?」

陰部と聞いて、マダムの太ももがキュッと閉まる。

言葉だけで陰部神経が感じ出していた。

「どうします?」 

「うーん、やりまー……」

「わかりました。やりませんね」

「まーす」

「やるんかい!」

「はい、お願い…… う~ん、思いっきりお願い」

マダムが吹っ切れたようだ。

「梅スぺは、おしりの肉を突き抜けた下にある神経を刺激するので長い鍼を使います。

ずぶずぶって刺さっていく感覚がありますが……」

「ええっ!」

マダムが驚いて、梅安を見つめる。

「じゃ、やめときますか?」

「いや、やります」

「やっぱりやるんんかい」

「リラックスしていればいいんですね」

「そうです。それじゃ、うつぶせになって寝て下さい」

マダムは体を回転させ、治療台の上でうつぶせになる。

梅安は、マダムの治療着をまくり尻の割れ目を露出させる。

マダムの尻に力が入った。

「力を抜いてください」

マダムの尻を手のひらでゆっくりともみほぐす梅安だ。

しばらく続けると筋肉が緩み、体の力が抜けていった。

マダムの口から、

「うふ~ん」と軽いあえぎ声が漏れた。

尻の割れ目を親指と人差し指で開き肛門をむき出しにする。

「はぁ~」

息だけの声にならないあえぎが半開きの口から漏れた。

そんな声は完全に無視し、梅安は肛門括約筋の閉まり具合を確認する。

中指で肛門の周りを触診した。

「あ~」

頭頂部から声が出る。

それにも動じることなく、梅安は手袋をはめワセリンを塗り中指を肛門の中に少し埋め込んだのだ。

「うっ!」

声がいきなり低音になる。

低音の色声から高音のため息まで、さすが熟女だと感心する梅安である。

「少し、肛門を閉めてみてください」

指を入れた状態のままで梅安がマダムに話しかける。

マダムは両手を握り締め、思いっきり肛門に力を入れた。

「う~ん、これくらい閉まれば、陰部神経を刺激してもお漏らしをすることはなさそうです。やりましょう」

「ハァ、フフ~ン オネガヒシマス……」

肛門に指差し込まれた指が抜けるとマダムから力が抜け、恥ずかしさも飛んでいた。

梅安は十センチほどの長い鍼を持つと肉の厚い臀部に差し込でゆく。

左手の人差し指と親指で鍼を支え、押し手の右手でトントントンと鍼を打ち込んでゆく。鍼はずぶずぶと尻の奥に刺さり込む。

陰部神経を目掛けて刺さってゆくのだ。

マダムの全神経は尻に集中していた。

鍼が臀筋の奥までくると肛門括約筋がひくひくと痙攣した。

無意識のうち、魚が口を閉じたり開いたりするように肛門が同じ動きを繰り返し始める。

神経に鍼が到達する頃、腰は治療台から浮いて「の」の字を書くように回りだした。

「あっ、あっ、はっ、う~ん」

マダムは声を抑えるのに必死だ。

梅安スペシャルもいよいよ最終段階を迎えた。

差し込んだ鍼に電気コードのクリップを取り付ける。

梅安が低周波の電気を送り込む準備を始めた。

陰部神経を電気でバイブさせるのだ。

準備が整うと

「よろしいですか」

と声をかけ、周波数発生器のスイッチをオンにした。

差し込まれた鍼が尻の上で振動を開始した。

陰部神経への刺激が始まったのだ。

「ハヒー、フェー、ウ、ウ、ウメセンセ、ウメェ」

マダムは首を左右に激しく振りだした。

握りこぶしを作っていた両手が天空をつかむようにさ迷い始める。

両足は開き、腰が持ち上がり、リオのカーニバルのように激しく動き出す。

その様子を冷めた目で見ながら、梅安は更に周波数を上げる。

「イ、イ、アヒャヒャ……」

マダムの両手両足がピンと伸びた。

「キピィーッ」

異様な叫び声をあげマダムは昇天したのであった。

放心状態になって半開きの口から舌が少し出ている。

梅安はマダムの体に優しくバスタオルをかぶせた。

「今回の治療は、ここまでです。私は控室の方に行きますので、着替えが終わりましたら受付の方に行ってください。本日はありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」

梅安は部屋を出て雅の待つ控室に向かった。

「いや~、遅くなってすいません」

時間のかかったことに詫びを入れる梅安に、隣の部屋で声を聴いていた雅は

「腕をかなり上げてきたなぁ」

と声を潜めて梅安をほめた。

隣の部屋ではまだマダムがいるからだ。

「いや~、そうでもないですよ」

「俺の方は肩だけ揉んでくれりゃいいから」

「わかりました」

そう言うと梅安は雅の背後に回り肩にツボ押しを始める。

「かなり凝ってますね」

「そうなんだよ、いろんなことがあってねぇ」

雅は課長との一件を思いだし、ため息をつく。

その時だった。ひらめいたのだ。

「そういえば、さっき治療してた人だけど、あの治療で本当に女性ホルモンが回復するのか?」

雅の疑問に、

「う~ん、医学的にはよくわからないですが、あの治療でかなりの女性が女っぽく変身することはまちがいないですね」

と梅安が答えた。

「それは男性についてもそうかなぁ」

「男らしくなるってことですか?」

「いや、男性を女っぽくさせるために、男に対しても女性ホルモンを出せるかってことさ」

「男性に?女性ホルモンを?」

「そうなのさ、男性に女性ホルモンをだ」

「それは、試してみないとわからないですねぇ」

「実は、うちに髪の毛の薄い上司がいてね」

「ほう」

「髪の毛を生やすビジネスを考えたんだけど……」

「毛生え薬を開発しようってことですか?」

「いや、毛生薬のような薬物を使わずにふやせないかってことを考えてね」

「そんなことができるんですか?」

「調べてみると髪の毛は女性ホルモンが影響するということが分かってきたんだよ。女性にはげている人が少ないのはその証拠さ」

「なるほど」

「そこで、女性ホルモンをなんとか増やして髪の毛を増やそうという作戦さ」

「おお、さすが山中さんらしい発想ですね。面白い」

「でぇ、そもそもオネエっぽかった上司に女装をさせたんだけれど、これが全然効果がなかったんだよ」

「残念」

「さっきの患者さんの話を聞いてたら、女性ホルモンを鍼で増やせる方法があるみたいじゃないか」

「まぁ、たしかに」

「そこでだ。今の方法を男性に応用して、女性ホルモンが少しでも出るようだったら髪の毛が生えてくるんじゃないかなと気づいたんだよ」

「おもしろいですねぇ」

「お前もそう思うか」

「やってみる価値はあると思いますよ」

「腕のあるお前が言うんだ。やってみてくれるか。この次その上司を連れてくるから、ちょっと施術してやってくれ」

「ああ、いいですよ。新しいメニューができるかもしれません。是非お手伝いさせてください」

雅の説明でかなり乗り気になった梅安であった。

肩のもみほぐしが終わると雅はすっきりとして帰宅した。

翌日、雅が会社に出ると、

「課長、例の件で、いいアイデアがあるんですが」

と課長に話す。

「例の件って、新企画の件だすか?」

「そうです」

「ど、どないなことですやろ?」

課長は雅の真剣な様子に、思わず隣の会議室で打ち合わせをすることにした。

「実はですね。私の友人に梅安っていう鍼灸師がおりまして、鍼で女性ホルモンの出を良くさせる技を持っているんですよ」

「えっ、女性ホルモンを鍼で?」

「そう、泉に水が湧き出るようにホルモンが出るらしいのですよ」

「ええ! なんやそれ、ほんまなん……? せやけど、女性ホルモンって女にしか出せへんでぇ」

「実は、男性でも少しは女性ホルモンが出るのです。テストストロンという男性ホルモンが一部女性ホルモンに変化するのですよ」

「ほ、ほんまなん?」

「人によって違いがあるでしょうが、出るのです。課長の場合、そもそも大量に女性ホルモンが出るんじゃないでしょうか」

「うれしい! ワテもなんか出るような気がしてましたんや。なんかこの辺がムズムズしてますねん……」

課長は、膝を閉じ、へその下を両手で押すのだった。

「でしょう。これは一回やってみる価値がありますよ。女性ホルモンが出るんだったら、髪の毛に変化が現れるかもしれませんよ」

「そやね。きっとそうやで!」

課長は身を乗り出した。

「サラサラの髪の毛がボウボウに生えてきますよー」

「いや、うれしい! ここにフサフサの毛が…… うれぴー マンモスうれぴー、万歳、ボウボウ万歳!」

嬉しさのあまり課長は雅に抱きつこうとした。

「いやいや、僕じゃないでしょ、やるのだったら、栗田部長と抱き合ってくださいよ」

慌てて会議室を飛び出た雅である。

乗り気の課長は、すぐにでも梅安の鍼を受けたがったが、予約の取れない梅安治療院だ。雅は梅安に電話をかけ、話し合った結果、週末に行うことで話がついたのだった。

大量に女性ホルモンを排出させるためには、女性になり切ったところから始めた方がいいと雅は考える。

課長には、朝から女装し、女装のままで治療院に来るべきだと主張した。

雅の主張をすんなり了承した課長であったが

「一つ、頼みがありますねん」

と頭を下げるのだ。

「なんですか?」

「実は、ワテの女性ホルモンの出具合を純さんやネネさんにも見てもらいたいんどす。あかんやろか?」

「仕事でもないのに来いというのは、無理でしょ!」

「せやけど…… 自分は女性ホルモンをいっぱい出せる女以上の男であるところを見てほしいんだす」

「なんで、そんなにこだわるのです?」

「ワテ、彼女達の仲間になりたい。一緒に女として遊びたい。お願いだす。聞いておくれやす。」

課長は両手を組んで胸にあてるのだ。

上司にそこまでされると断ることができない。

「じゃ、セッティングまではしますから、あとは自分で聴いてみてくださいよ」

と雅はうけたのである。

決行の前日、雅は課長と純とネネを会議室に呼んで面談をさせた。

「純さん、どうする?」

ネネは純の顔色をうかがう。

「そうねぇ…… 係長、外に出て行ってもらえますか? 課長とさしで話がしたいんですが……」

純は真顔なまなざしで雅を見つめる。

このまなざしは、純に黄色信号が灯り出したということだ。

危険を察知した雅は

「そ、そうだね、課長とじっくり話し合ってみるのがいいよ」

とそそくさと会議室の外に出た。

会議室のドアが閉まると、純は椅子にドサッと座り足を組む。

事務服のスカートから素足の太ももが出た。

唇をすこし尖らせ課長を手招きで呼ぶ。

課長は恐る恐る純の前に出た。

「なに…… 私たちと付き合いたいって?」

「そ、そうなんどす。いっしょに、料理を作ったり、スィーツ食べたり、ショッピングに出かけたり、し、してみまへんか?」

課長の声が震えていた。

「ふーん…… いいわよ」

「え、ええんどすか?」

「ただし条件があるわ」

「じょ、条件ってなんどす?」

「私の犬になりなさい。それが条件よ」

「犬って?」

「犬ったら、犬よ! この首輪を首に付けるの」

いつの間に用意したのか、純はバックの中から白い本革のペット用首輪を取り出し、課長の前に投げる。

「拾いなさい!」

首輪を拾い、大事そうにポケットの中にしまおうとした時だ。

「今つけるの!」

「い、今ですか?」

「そう、そしてずっとつけたままでいるのよ。それが私たちの仲間にはいる誓いの印よ」

「ほ、ほんまどすか、今、ここでつけたら、仲間に入れてもらえるんどすか?」

「入れてあげるわ。ただし奴隷としてね。私たちだけになったときは、その首輪にこのリードをつけるから」

純は、バックの中から首輪とセットの白いリードを取り出し課長に見せた。

課長は、純の持つリードを見るだけで、へなへなと床に座り込んだ。

「ネネ、課長の首に首輪をつけておあげ!」

ネネは課長の持っていた首輪を取り上げ、首に巻きつけた。

「このリードもつけておやり!」

純はネネにリードを渡すと、ネネは首輪にリードを取り付けた。

課長はいつの間にか四つ這いになっていた。

純がリードを思いっきり引っ張る。

首を引っ張られた課長は四つ這いのままで会議室の中をはいずりだした。

「ワンとお鳴き!」

純が命令すると

「ワンワン」

と課長が小さく吠えた。

「それでいいわ。今日から、あなたは私の犬。わかったわね」

「ハイー」

「ハイじゃないでしょ! 鳴くのよ!」

「ワンー」

その声を聴いて、満足したように純は会議室を出ていった。

「課長、大丈夫ですか?」

うつろな目をしている課長のほほをネネが叩く。

課長が正気に戻るまで何度もネネは課長を叩いたのであった。

長い時間出てこない課長を雅が心配し始めたころ、

ようやく純が出てきた。さらにしばらくたって課長とネネが出てきたのだ。

首輪を巻いている課長を見て、ただならぬ異変が生じたことを感じた雅であるが

見ないふりをした。

ペット用の首輪を巻いている上司に

「課長、首輪!」とは聞けなかったのである。

ほかの社員も同じ気持ちなのだろう。

課長の首輪はだれもが見て見ぬふりをしていた。

課長の鍼治療を行う日になった。

この日は、梅安の好意で治療院は午後から休診となっていた。

集合時間は一時と決まり、雅に純とネネ、それに梅安が集合時間前に治療室に集まった。

しかし、阿部課長だけが現れない。

もう少し待ってみようと雅がみんなの怒りを抑え込んで十分ほどが過ぎたころ、阿部課長がかつらをかぶり、真っ赤な口紅、長いつけまつげの女装姿で現れたのである。

相変わらず首輪は巻かれたままだ。

「ごめんやでぇー、化粧に時間がかかってしもうてなぁ」

課長の言う通り、化粧はかなり厚い。

美しくなりたいという思いが化粧を濃くしているのだろう。

だが、どうみても女性には見えない。

品のいいおかまというのが精いっぱいだ。

「遅いじゃないですか」

文句を言おうとした雅であるが、女性ホルモンを出そうと懸命に取り組んできたことが分かるので遅刻については大目に見ることにした。

「とりあえず始めましょう。課長、早く治療着に着替えてください」

「へぇ、わかりました…… けど、みんなの前で着替えるんどすか?」

雅たちの前で女の服を脱ぐのが恥ずかしいのだ。

「何してるの!」

もどかしい動作にイラッときた純がハイヒールの踵を床に打ち付けた。

カツーン!と音がして、課長の体が硬直する。

「ハイー!」

課長は慌てて服をぬぎ下着姿になった。

どこで買ってきたのかブラジャーをつけている。パンティはピンクのTバックだ

「下着も脱ぐんだすか?」

「全部、脱いでください」

梅安がきっぱり言いきった。

課長は恥ずかしそうにブラをはずしたが、Tバックはなかなか脱ごうとしない。

「早く脱ぎなさい!」

純が今度は声を上げた。

「ワン!」

思わず出た課長の返事に雅と梅安が顔を見合わせる。

課長はおずおずと恥ずかしそうにパンティを脱いだ。

エステでハートマークに刈り取られたアンダーヘアーがピンクに染まっている。

みんなは思わず目をそらした。

「すいません。それ、なんか首輪のようですが、はずしませんか……」

梅安が課長の首輪を見て尋ねる。

「安心してください。これはネックレスです」

「ペットの遺品なのかな?」

「ウ~ ワンワンワン」

課長がオオカミのように吠えた。

驚いて梅安が目を見張る。

さすがに首輪については答えたくないのだろうと感じた梅安は、それ以上何も言わなくなった。

「仰向けに寝てください。まずは全身の経絡治療から始めていきます」

と宣言し、課長の両手両足に手際よく鍼を刺してゆく。

課長は気持ちよさそうだ。

鍼を打ち終わると、十分間ほど置鍼して様子を見る。

「どうですか、痛くないですか?」

「気持ちよろしいおますぅ」

課長は眠たそうだ。

置鍼の間に、梅安は今回の治療方針を課長に説明する。

「今回は、男性ホルモンのテストステロンを女性ホルモンのエストロゲンに変化させようとする試みです。よろしいですね」

「はい、エストロゲンがバンバン出るとうれしいわぁ」

「まずは、精巣つまり睾丸に刺激を与えて、ありったけのテストストロンを放出させます」

「ワテに男性ホルモンなんか残ってますやろか?」

「少ないかも知れませんが、やってみましょう」

「その後、前立腺マッサージを行い、M性感を感じてもらいます」

「M性感って、なんですのん?」

「男性にマゾのような感覚を覚えてもらう性感技法なのですが、今回は前立腺マッサージで女性になった気分を味わってもらいます」

「はぁ……? 女性……?」

「そうです。肛門に指を挿入し、奥にある前立腺を触診するのです。普通の性行為の女性役をあなたが演じるのです。肛門を女性の膣だと思ってください。指が挿入されることであなたは女性の気分を味わうのです。その気持ちがあれば、テストストロンは女性ホルモンに変化するはずです。思いっきり女性になって感じることが大切ですよ。よろしいですか?」

「ほぉー、す、すごい。わわかりましたえ、思いっきり女性でいきますわぁ」

「それでは、施術を始めます」

梅安は腕と足に刺した鍼を抜き、へそ下指四本分の所にある関元というツボを刺激する。ここを刺激すれば精力絶倫になると言われているツボだ。

ゆっくりとツボ押しを続けた梅安は

「どうです。感覚が変わってきましたか?」

と尋ねる。

「なんか、タマタマちゃんが、燃えてるような感じどす。ズキズキ、ムラムラしてきましたわ」

「いい兆候です。テストストロンが出始めたんですよ」

「ワテにも男性ホルモンがおましたんやなぁ…… なんかうれしいような悲しいような不思議な気分だすわ……」

女装している男の気持ちは複雑で自分にはわからないと梅安は思うのだった。

しかし、今は邪念を持つ時ではない。

テストストロンを絞り出すことに集中すべきだ。

そうと決めると梅安は課長の睾丸をギュッと握り締める。

「うっ、うっ、いや~ん」

胸まで上がってきた痛みに、たまらず悲鳴を上げる課長だ。

「がまんしてください。タマタマを上げたり下げたりすることで、睾丸を上からつっている睾挙筋を鍛えるんです。違和感があるでしょうが、今は我慢です」

苦汁を浮かべ、額から汗を垂らす課長だ。

梅安は指で睾丸をはさみ一個ずつ上げたり下げたりを繰り返す。

「うう~、うう~」

課長が奥歯をかみしめ痛みをこらえている。

この施術が効果的なのかどうか梅安自身もわからない。

ただ、これで男女ホルモンの変換が実証されたなら、LGBTQの人たちに朗報を届けることができる。

梅安は真剣にそう思うのであった。

「どうやら、テストストロンは出尽くしたようですね」

「ほんまに、もう堪忍しておくれやす」

課長の目には涙が浮かんでいた。

「わかりました。それでは、これから男性ホルモンをエストロゲンに変えていきます。うつぶせになってください」

課長がうつぶせになる。梅安は手袋をはめ肛門の触診を始めた。

「ゆるんでますねぇ」

「え~ ゆるんでますかぁ? やっぱりや、クリッチに何発もやられたからなぁ」

課長の愚痴りを聞いて、雅は課長と栗田部長はやっぱりできていたのだと確信したのである。

「とにかく、力を入れて肛門を閉めてください」

梅安に言われ、課長は思いっきり力を入れるのだが隙間は埋まらない。

「う~ん、今回は指二本でマッサージを行います」

当初の予定を変更し、梅安は指を一本追加した。

「え~、二本も入れるんだすかぁ。いや~ん、もう……」

と言いながらではあるが、課長の尻はゆっくりと上下運動を始めていた。

梅安はワセリンを肛門に塗り込み、中指と人差し指の二本をずぶずぶずぶと肛門の中に挿入する。

「う~ん、い、い、……」

「痛いんですか」

「いい~、いいのぉ~」

「なんだいいんかい!」

梅安は指をさらに付け根まで挿入する。

「うお~、うう~」

課長の声が大きくなる。

付け根まで差し込んだところで指が曲がる。

梅安の指に前立腺のボコッとした感覚が伝わってくる。

ゆっくりとその部分を押したり撫でたり繰り返す。

「あはぁ~ あはぁ~ いきそうだすぅ」

課長が両手で口を押える。

課長の男性器は大きく反り返っていた。

まだテストストロンが脳内を支配していると見た梅安は

「女性の気持ちになってください。男性に性器を挿入されていると感じてください」

と声を上げた。

ここからが本番だ。エストロゲンに変換できるかどうかは、ここにかかっているのだ。

梅安の指は、猛烈な速さで動きだす。

「君はできる。女性になれる。女性になるんだぁ!」

真面目な梅安にしては珍しく、箱根駅伝の監督のように大声を出して課長を激励する。

「はいぃ~、ワテは女だす。女でおますぅ」

課長の腰が動きを早めた。

クライマックスはもうすぐだ。

そのときだった。突然、梅安の手が止まったのだ。

指に集中していた梅安は課長の尻しか見ていなかった。

女装している課長だからと安心していたのだ。

ふと目を上げると、まさかが起きていた。

なんと課長は自分の男性器を手でしごいていたのだ。

「裏切者! それじゃ、男性ホルモンでいくことになるじゃないか!」

思わず課長の手をつかもうとした梅安であるが、片手が肛門の中にあって片手だけでは課長の手を押さえつけられない。

梅安にダメ出しを食らっても、課長の手は動き続けていた。激しさが増していた。

「いくぅ~! あ、止めんといて、もっと動かしてぇ!」

と課長が叫んだとき、雅が慌てて課長の手をつかんだのだ。

間に合った。

課長の男性根は、まだビクンビクンとして自身の腹を打ち付けていたが、いってはいなかった。

「だめじゃないですか! 男性ホルモンでいってしまうでしょう!」

雅も声を上げて注意したが。課長は放心状態に陥っている。

まったく! なんて野郎だ! と思う雅だったが、ふと見ると純が目に入った。

そうだ、根本さんに頼もうと思いついたのだ。

「悪いけど、課長の手を縛ってほしい」

前回課長を縛り上げた純のことを雅は思い出したのだった。

断られても仕方がないと思ったが、今ここでは他に方法がない。

対応策はこれしかないのだ。

切なる雅の願いに純は承諾した。

「拘束用の縄がありませんか?」

純が梅安に聞いた。

「ボンデージテープなら治療用に使うのでありますけど……」

と梅安がとっさに答える。

「それそれ、それだぁ」

と雅は言ったものの、なんでそんなテープが治療に必要なのか釈然としない気持ちがこみ上げてくる。

そんなことを考えている場合ではない。時間がないのだ。

雅は梅安からテープを受け取ると純に手渡した。

純は治療台にうつぶせになっている課長の両手を後ろ手に素早く縛る。

「うう~、純さんだすか、すんまへん。思わずいってしまいそうになったんどす」

「ばか! 女性の気持ちでいくのよ。あとで梅安先生に変わってお仕置きよ!」

「はい~ いやワン~」

後ろ手に縛られた課長は顔と両足に力を入れ腰を浮かせた。

梅安の指の挿入をまっているのだ。

いよいよ、施術が再開する。

指二本だと女性の気持ちになれないと見た梅安は、更にもう一本指を加えることにした。

指三本で肛門に挑戦するのだ。

ずぶずぶずぶと三本の指が肛門に差し込まれる。

指が根元まで入ったところで指を曲げる。

「強烈ですやん~ はぁ、はぁ、けど、ええ、ええわー」

課長が再び声を上げ始めた。

指の動きを速めると叫びが激しくなる。

「あぁ、お願いやぁ、叩いておくれやすぅ」

課長の本性が顔を出した。M性感が現れたのである。

「根本さん! 申し訳ない。課長の願いをかなえてやってもらえるか?」

ここで不発に終わっては、何の成果も出ない。

雅は必死に頼み込んだ。

「わかりました」

純はバックの中から鞭を取り出したのだ。

「なんで鞭持ってるの?」

思わず声に出そうなった雅であるが、それはこらえた。

純が鞭を持つと腰やら背中やらに鞭を振り降ろす。

治療室にパチンパチンと音がこだました。

梅安は指三本を激しく動かした。

腰を激しく動かし首を思いっきり振り回す課長だ。

あまりの激しさにかつらがふっとび禿げ頭が露出した。

化粧は汗で半分が解け始めていた。

「ぷひゃぁ~ ぴくぅ~ はひゃ」

訳の分からない言葉を発しながら課長が絶頂を迎えようとしていた。

厚化粧の頭の禿げたオヤジが治療台の上で後ろ手に縛られ、鞭打たれ、肛門に指を挿入され興奮している光景は、よほどのゲテモノ食いでなければ耐え切れない。

あまりにもグロテスクな光景に雅とネネが立ち上がり、部屋を出ようとしたときだ。

「クリッチ~ 愛してるぅ~ いくぅ……」

と雄たけびを上げ、失禁と同時に課長は果てたのだった。

梅安も含め全員があわてて外に避難した。

あまりにも破廉恥な出来事に全員が吐きそうになっている。

外の新鮮な空気を吸いこみながら雅は思う。

普通の人達に囲まれて仕事をしたい。

女性ホルモンなんかどうでもいいと思うのだった。

(了)

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すきにして2 団周五郎 @DANSYUGORO

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