色について一家言あるタイプの人の創作論
げっと
色って色々あるんですよ。
みなさん、小説の中に出てくるものや人物の、色について考えたことはありますでしょうか。小説だとそのキャラが最初に出てきたときとか、新しい場所にたどり着いたとき、ビジュアルがなにもないので、その姿を文章にして読み手にそのキャラや場所の雰囲気や姿について伝えないといけないシチュエーションというのは、往々にしてあると思うのです。私はその時に、色の表現を工夫して、暗喩を忍ばせるような表現が好きで良く使っているのです。
色というのは元来、植物や鉱石から顔料を取り出して使われることが多くありました。そのため、色、特に伝統色と呼ばれるものは花や植物、鉱石なんかの名前が多く使われています。例えば茜色なんかはアカネの根っこから取り出した色ですし、藍色はアイの葉っぱから取り出した色(に、キハダの樹皮から取り出した黄色を混ぜた色)です。海外の色で言うと、エメラルドグリーンは有名でしょう。こちらはエメラルドに由来する色なのですが、エメラルドから取り出したわけではないようです。ウルトラマリンなんかはラピスラズリに由来する色で、こちらはラピスラズリを砕いて顔料として利用されていたようです。あまりに高価で希少だったために、青を使った絵を所望する場合は特別料金を取られてたのだとか。
と、このようにちょっと調べるだけで花や宝石の名前がいっぱい出てきますし、それに紐づく歴史も芋づる式にたくさんでてきます。これ、なにかに使えませんかね?歴史の方は扱うのがとんでもなく難しいでしょうが、モノの名前が入った色のほうは、なんとなく使えそうな感じがしませんか?
例を一つ上げましょう。以下は私の過去作「星空と旅」の一節なのですが、これを引用してみます。
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少年はその子に近づいてみます。
細身で、自分より背が少し高そう。
全身をぴっちりと覆う、のっぺりとしたような、
つやつやしたような、不思議な質感の真白な服。
胸元に光る、八つのぎざぎざがついた星のネックレス。
肩まで伸びた、月白の髪。
流れ星に似た、翠玉の瞳。
あどけなさを残した、でもすこし大人っぽくも感じる顔つき。
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主人公である少年と、女の子が出会うシーンを描いた一節です。ここでは「白」「月白」の二色と、直接には出てきませんが「エメラルドグリーン」が混ざっています。白は白でいいじゃん、と思うところに、わざわざ「月白」という日本の伝統色を持ち込んでいます。どうしてでしょうか。
元来、月というのはどことなく神秘性のあるものと描かれていることと思います。例えば満月の夜に昂る狼男の話だとか、月の神、ダイアナやアルテミス、月読尊だとか。満月の夜には不思議なことが良く起こると言いますし、満月の夜は月の引力と太陽の引力が同じ方向にかかるために、潮の満ち引きが大きくなったりします。他にも十五夜の月もありますし、月を題材にした漫画、アニメも多くありますよね。そうでない作品にも、夜の象徴として満月や三日月が描かれることは非常に多いでしょう。
そこで、「白」という色を「月白」にすげ替えてみます。そうすると、人の頭の中には月の色が思い浮かべられ、ついでに月が思い浮かべられます。そうすると、月との関連性を匂わせることが出来ます。月との関連性を匂わせると、その神秘性まで連想されることとなります。
つまり、色をちょこっと変えただけなのに、月が持つ神秘性を借りることが出来るのです。上記の女の子は宇宙から迷い込んできた、という設定もあるので、それともマッチしていたのも採用した理由の一つです。
同じように、瞳の色もただの「緑」ではなく、エメラルドの和名である「翠玉」を採用しています。翠玉が伝わるかはちょっと読めませんでしたが―というか、
どうでしょう?色々な色、使ってみたくなりませんか?知ってみたくなりませんか?もちろん色には限りがあるので、汎用性の高い表現とは言い難いのですが、うまく使うことで、表現の幅がもっと広がることと思います。この知識が、考え方が、貴方の表現の幅を増やすことに活きるようなことがあれば幸いです。
終わり
色について一家言あるタイプの人の創作論 げっと @GETTOLE
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