第3話「不吉な気配」

 その後ヴォルクは能力使用後の説明をしてくれた。まず、使用した時にヴォルクは建物の中におり、外にいた僕を見ていなかったそうだ。

 

 そして、光が見えたから何事かと外に出ると、能力を使用した僕がいたとの事だ。そして、謎の光に包まれ、水中をさまよっているかのような感覚に陥った、との事らしい。

 

「その後はこの有様だ。おそらく前のように、全ての世界を記録したら元に戻るだろう」

 

「やはりか……すまない。二つ使うつもりじゃなかったんだ」

 

「いや、仕方がない。アビリタは長い期間使用しないと稀に自動発動されるケースがある。それが偶然起こったのだろう」

 

 自分でも使った覚えがないあたり、本当にそうなのだろう。僕のアビリタは、二つある。一つが『森羅万象の遷移(コンバージョン・ヴェルト)』、世界を根本から全く違う世界に作りかえる能力だ。使用すると、現実では起こりえない事象が起こる世界へと変わってしまう。

 

 二つ目が、『異能が遺る残骸(エンハンブレ・アビリタ)』だ。世界中のアビリタを持つ人間以外を消してしまうというものである。そして、今僕は二つ使った……つまり、今この世界には普通の人間が存在しないことになる。

 

「まぁせめてもの救いなのが、世界を戻せば消えた人たちも元に戻る可能性がある事だな」

 

「そうなのか?」

 

 ヴォルクのアビリタは『開闢の刻(シュピールベッケン)』という名前だ。本人いわく、自分が道具だと認識したものの使用用途を変えれるという能力らしい。例えば、紙なんかも何かを書く道具と見れば、その使用用途をなんにでも変更することが出来る。ライターにするのも拳銃にするのも全てはヴォルクの意向次第だ。

 

 昔にその能力を使用し、アビリタの詳細を知れる機械を作ったらしい。だから、僕よりもヴォルクの方がアビリタについては詳しいのだ。ヴォルクがこう言うということは、戻る可能性が本当にあるということだろう。

 

「ならば急がないといけないな。ここの測定が終わったのなら、もう他の場所に行くのか?」

 

「いや、今日はここで野営だ。薪を集めてきてくれ」

 

「了解だ」

 

 僕はそこら辺から燃えそうな木の枝なんかを集め始めた。その時に周りを少し散策していたが、何やら様子がおかしい。そういえばヴォルクはこの場所を革命の大農園と呼んでいた。

 

 確かに手入れされているような木々や、耕された地面等があり、農園と呼ぶに相応しいように感じる。しかし、革命……そこがどうも引っかかる。この場所のどこに革命という要素があるのだろうか。

 

「ヴォルク、燃えそうなものを集めてきたぞ」

 

「助かる。その辺りに置いていいぞ」

 

「あぁ、了解だ。……そういえばイニーは?」

 

「どうやらここの野菜なんかをとってきているらしい」

 

 僕は女性一人で出歩いて大丈夫なのかとヴォルクに問うが、ヴォルクはまぁ大丈夫だろうと言うばかりで心配していないようだ。まぁ、僕より彼らの方が付き合いは長い。信頼し合っている仲ということなら問題ないだろう。

 

 

 

 僕は少しイニーを探すことにした。いくらヴォルクが大丈夫とは言っても、心配にはなる。

 

 草木をかきわけ、イニーを探す。本当にどこを見ても緑が目に入る。そして所々に野菜と果物がある。

 

 

 ……!  なるほど、もしかして革命というのは……。

 

 

 パキッ

 

 

「……っ!  誰だ!」

 

 

 僕は背後から木の枝を踏む音が聞こえ、振り返った。

 

 END

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リターン・FR タナカタダヒコ @Tanaka-tadahiko

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