第2話「記憶の行方」
果ての無い砂漠を走り続けてどのくらい時間が経ったのだろうか。自分のアビリタのおかげで疲れは無いけれど、先輩の言った夜になると気温が上がるということが気にかかる。確かにさっきから汗を普通じゃないくらいかいている気がするし、気温もどんどんと上がっている気がする。
「先輩! まだなんですか?!」
「もう少しだ……!」
デストを背負っているからか、先輩は息があがっている。私は少し無理をして、補助を強めた。
「……! あれだ、イニー! 飛び込め!」
目の前には水で出来た壁があった。原理は分からないが、こちらに水は流れてこない。私は言われるがまま水の壁に飛び込んだ。水に包まれているような感覚に陥った。でも何故か呼吸はできるし、濡れもしない。私は平泳ぎのようにして出口をめざして泳いだ。
「……ぷはぁっ!」
呼吸はできるとは言っても、何となく息を止めていた私は息が切れていた。
「よし、何とか脱出できたな」
「なんだかこれまでとは違いますね……」
「恐らく二つとも使ったんだろう。また元に戻さないとな」
先輩は抱えていたデストを地面へと寝かせた。
「デストを頼む。しばらくしたら起きるだろうから、見張っておいてくれ」
「分かりました!」
先輩は白衣をたなびかせながら周辺の探索を始めた。私はデストの顔を見ながら目覚めるのを待った。
しばらく見ていたが、寝苦しそうだったので、膝に寝かせてあげることにした。
ーーーーーーーーーーー
……寝苦しい感覚が変わった。頭の下に何か枕のようなものがあるような……。
「……っ?! ここは……」
前が見えない。恐らく寝かされているんだろうが……。
「あ、起きた? デスト」
「あ、あぁ……たった今目覚めた……だが、その……ここはどこだ? ちょっと前が見えないんだが」
「……え? なんで見えないの?」
「なんでと言われても……言わせる気か?」
「???」
イニーはどうやら気づいてないらしい。僕は横から当たらないように起き上がった。途中柔らかい感触がしたが……まぁ気のせいだろう。
起き上がると、そこには木々が生い茂る空間が広がっていた。いや、これは天然のものでは無い。僕はそう感じた。何故かは分からないが地面には田畑が耕されている。
「ここは……」
「ここは『革命の大農園』だ」
僕は後ろから声が聞こえ、振り返った。後ろには見慣れた白衣姿があった。
「ヴォルク、いたのか?」
「いや、たった今戻った。ここの測定が終わったからな」
「仕事が早いな」
「そうだ、お前には一応いくつか質問をしておこう。記憶でも失っていたら大変だからな」
いつの間にかイニーも周りを散策していた。僕はヴォルクにいくつか質問される。
「まず自分の名前とアビリタを言ってみろ」
「あぁ、『デスト・リュクシオン』だ。アビリタは『森羅万象の遷移(コンバージョン・ヴェルト)』と『異能が遺る残骸(エンハンブレ・アビリタ)』だ」
「ふむ、合っているな。じゃあ次に俺達の名前を言ってみろ」
「『ヴォルク・ツォイク』と『イニーツィオ』だ」
「よし、じゃあ次に……」
その後様々なことを質問された。しかしどれも覚えている。
「記憶は問題ないようだ。身体にも特に影響なし……」
「なぁ……僕はあの後どうなったんだ?」
「む、そこは覚えていないのか?」
「あぁ、アビリタを使った後の記憶が曖昧だ」
「ふむ……そこの説明は必要そうだな」
END
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