リターン・FR

タナカタダヒコ

第1話「世界は変わる」

「お前はこの世界にいてはいけない。自分でもわかっているだろう?」

 

 そう言われ、拳銃を額に突きつけられた。奴が引き金を引けば、僕は死んでしまう。

 

「僕を殺して何になる……!」

 

「そりゃあ、世界が平和になるさ。お前みたいなのはいるだけで害になる。さあ、諦めな。降参すれば死に方くらい選ばせてやる」

 

 使うしか……無いのか……。

 

「悪いが、まだ僕は死ぬ訳にはいかないんだ」

 

「この状況で何を……まさか!」

 

 僕は突きつけられた銃を掴んで、銃口を少しそらした。

 

「再構築の時だ」

 

 そう言うと、辺りが光に包まれ、視界が真っ白になった。

 

(眠い……これが反動か?  少しだけ眠るか……)

 

 

 

 

 

 この世界には二種類の人間がいた。普通の人間と、「アビリタ」と呼ばれる異能を持つ人間だ。異能というのは様々で、それに名前は付いておらず、持っているものは皆当たり前のようにそれを使っていた。

 

 そんな時、とある少年がアビリタの詳細を知れる道具を持って現れた。人々はその道具を使い、アビリタとはなんなのかを知ることとなる。

 

 アビリタを使用した際に生じる代償とはなんなのか、どの程度まで自分の能力が使用できるのか。それを知ることによってアビリタの価値は著しく上昇した。

 

 世界が変わったのはその時からだった。

 

 

 

 

 

 背中にざらざらとした感触を感じ、起き上がった。ここはどこだろう。見渡すと、辺り一面の砂漠。今までのことがよく思い出せない……。

 

「あー……なるほどね」

 

 私は現状を理解した。とにかく今は仲間を探した方が良さそうだ。

 

「……?  あれは……」

 

 近くに大きな穴を見つけた。穴とは言っても、地面が丸くえぐり取られたような形をしていた。その真ん中に、一人の少女と、倒れている少年を見つけた。

 

「うーん……なんだか困ってそう。他に行くあてもないし、行ってみよう」

 

 穴に向かって歩いていくと、人影が鮮明になっていく。誰か分かった途端、私は足を止めてにやっと笑った。

 

「おっと、つい止まっちゃった。覚えてるか確かめるためにも、あいつらの所には行かないと」

 

 穴はアリジゴクの巣のようになっていて、私を捉えようとしているかのようだ。坂を下っていって、二人に近づくと、

 

「おーい、そこのお二人さん、大丈夫?」

 

 と、話しかけた。

 

「ひっ……あ、あなたは……」

 

 目の前にいる少女は私の方を見て怯えているようだった。

 

「……ちっ、なんだ、覚えてるのか」

 

 私は懐にあったナイフを取りだし、少女に切りかかった。

 

「いやっ……!」

 

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 ……?  私はナイフで切りかかられて咄嗟に目を瞑ってしまったはずだったんだけど……痛くない……?

 

「イニー、大丈夫か?」

 

「あ、先輩!」

 

 背後を見上げると、白衣を着た身長の高い男性が立っていた。私は膝枕をしていた少年を地面に寝かせ、立ち上がった。

 

「デストの意識はあるか?」

 

「多分寝てるだけです。起こせば問題ないかと」

 

「よし、じゃあさっさと脱出するぞ」

 

「あの……あれは大丈夫なんです?」

 

 私は首から上がレーザーで吹き飛ばされた少女の死体を指さして言った。

 

「……そいつのアビリタは知っているだろう。早く行くぞ」

 

「なんでそんなに急いでるんです?」

 

「……いま『測定』が終わった。ここは『昼夜逆転の砂漠』というらしい」

 

 昼夜逆転……どういう意味なのだろうか。昼夜逆転といえば、人の生活が乱れていることを指すのだろう。でも、ここでの意味は異なるような気がする。

 

「ま、名前だけじゃわからんだろう。端的に言えば、砂漠の気温が逆転している。夕方は常温だが、これから50℃は上がるぞ」

 

「え……やばいですね」

 

「だから早く脱出するんだ。残り30分程だな。デストは俺が背負おう」

 

 先輩は地面に寝ているデストをおぶった。

 

「補助を頼む。強めにだ」

 

「わかりました」

 

 私は先輩の足に近づき、手をかざした。暖かい緑色の光が放たれた。

 

「ふむ……なんとかいけそうだ。走るぞ、イニー」

 

「わかりました!」

 

 END

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