今のはなし
俺が小学校の低学年の頃だった。
じいさんはまだ元気で、田植えの時期を迎える前、俺を膝の上に乗せて「昔はなあ」なんて、酔いに任せて懐かしげに語る。その一つにふしぎな話もあった。昔はそんなものもいたんだなと、子ども心に怖かったり、驚いたり。
「今はもう、そんなのも消えてなくなったなあ」
村が賑わうのはいいのだがと、その時じいさんは少し寂しげだった。
子どもの俺には、そこのほうがピンと来なかったが。
集落の景色はしかし、じいさんが子どものころとも、俺が子どもだったころとも変わっている。
一時はこんな
別荘も多く建って、それを相手の商売も盛んだったものだ。
それも今は昔。なにせ、電車も来ていないので不便だ。ブームが過ぎれば落ちるのは早く、ご多分にもれず過疎化。
Uターンで戻ってきたときには、こんなにこの集落は寂しかったかと驚いた。
だからこそ、今は地域振興にもがんばっているわけだが。
「お父さん! お父さん! 今ね!!」
山の仕事から帰ってくるなり、まだ小さい息子が飛び付いてきた。
女房は笑っている。
一生懸命、息子は話すんだ。
怖さ半分、もう半分は不思議なものを見たとの興奮で顔を赤くして。
セピア色の想い出が、世代を超えて急に色付いた気がした。
一緒にお風呂に入ろうと俺は息子を誘った。
そこでじいさんから聞いた昔話をしてやった。
「人がいなくなったらなったで、寂しくなって出てきたのかもしれんな。ひょっとしたら、脅し甲斐のある子どもがまた来たんだと嬉しくなって、かもしれないなあ」
俺も笑ったもんだ。
赤いくちびる 歩 @t-Arigatou
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