2 フルボッコ
「それじゃあ、準備するか」
酔っぱらったそのテンションで聡がはしゃいで仕切りだした。
「準備って? 部屋はあるし4人で部屋の隅っこに立つだけだろ?」
俺がそう言うと聡は、
「それそれ、最も重要な事を決めないと! 誰が4番になる?」
みんな一瞬固まった。
そうだ、4番目は得体の知れない『誰か』に直接出会う可能性があるわけだ。
なんだ? 俺もそうだけどみんなのこの強ばった表情?
実は結構信じているんじゃないの?
「とりあえず俺は2番がいいんだけど」
聡が言った。
「えー? ずるいぞ聡、言い出しっぺだろ! 4番はお前がやれ」
満雄が悲痛な表情で声を荒げる。かなり怖がっている様子。すると孝昭が不敵な笑みを浮かべて満雄に目を向けた。
「この部屋に異常がない事を証明したいんだろ? だとしたら4番は家主の満雄で決まりだろ」
満雄は唖然として返す言葉すら思いつかない様子。しかしすぐに気を取り直したようだ。
「そ、そうか、そうだよな、わかった。俺が4番で……よし、4番は俺だ!」
満雄は自分に言い聞かせるように、半分あきらめたように? 明らかに空元気で承諾した。
結局3番は孝昭で俺が1番になった。これで準備は完了。
「満雄の立つ場所に部屋の照明スイッチがあるだろ。始まると俺が歩いていって満雄の所に立つわけだから、何か異変があったら俺がすぐに電気をつけるからな」
4人の中で最も冷静な孝昭にはうってつけの役目だ。俺たちはそれぞれ部屋の隅に立った。
「じゃ~始めるぞ。満雄、電気を消せ」
孝昭の指示で満雄は電気を消した。想像以上に部屋は真の闇につつまれた。
「うわ~こえ~、やばいよこれ!」
聡は相変わらずのノリではしゃいで叫ぶ。
「いいか、始まったら絶対に喋っちゃだめだ、みんな無言で歩いていって相手の肩の辺りをポンと叩くんだぞ」
孝昭の指示で皆口を閉じた。いきなり空気がどんより重くなった気がする。心なしか恐怖と緊張が昂ぶるように感じる。
「これからは無言で。それじゃ洋、始めてくれ」
背筋を得体のしれない寒気が襲った。俺は軽く深呼吸をしてゆっくりと歩き出した。
みんな息を殺して立っているのか? 暗闇の中で俺は一人きりなんじゃないかと錯覚する。
重圧がまとわりつくような真の闇の中、俺は壁を手で探りながら歩く方向を見定めて足音がしないようにゆっくりと歩いていった。
目がだんだん慣れてきた。
部屋を閉め切っていても、カーテンの隙間などからかすかに漏れる明かりがある。
それでも部屋は真っ暗で何も見えなかったが、壁のある位置はうっすらと確認できた。
そろそろだ。
聡がいると思われる場所に手を伸ばし肩のあたりと思われる場所をポンと叩いた。
手が肩にあたった。
風のかすかな動きで聡が歩き出したのがわかる。
聡が行ったあと、俺は部屋の中央を向いて角に寄りかかって立った。
まもなく「タン」と音がした。
聡が孝昭の肩を叩いた音だ。
そしてまた「タン」と音がした。
いよいよ4番目の満雄が歩き出す。
部屋中に漂う緊張感が更に重くのしかかる。
真っ暗闇の中、まるで黒い空気が充満しているようで息苦しくなる。
心臓もドキドキしてきた。
俺は壁の隅っこにもたれかかり、無意識に腕を組み、満雄の歩いていると思われる黒い空間に全神経を集中して事の成り行きを見守った。
「ひっ」
満雄が到達した部屋の隅、最初に俺がスタートした場所から満雄の声にならない声が聞こえた。即座に凄まじい悪寒が全身をつつみ鳥肌が立つ。
「うわ……うわ~、ぎゃぁ~!!!」
今度ははっきりと悲鳴に近い叫び!
誰かいたのか? いや、何かいたのかと言うべきか?
ガラーンとした部屋のせいか? 満雄の叫び声に妙なエコーがかかって耳にガンガンと響く。
叫び声がする方向の闇を凝視するだけで精一杯!
背筋がまたゾワワっと痺れ足がすくむ。
激しい悪寒が全身に伝わって微動だにできず身構える。
そうだ! 非常事態だ!
何かあったら孝昭がすぐに部屋の明かりのスイッチを入れることになっていた。
孝昭は何をしてるんだ?
「孝昭! 電気! 電気つけろ~~」
俺は上ずった声で叫んでいた。なのに電気はつかない。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ~やめろー!!!! 離せ! 離せぇぇ~!!!」
悲鳴とともに満雄が部屋の中央に倒れ込む音。
嘘だろ、この感じ? 倒れたのは二人いる気配!
「早く電気!!! おい! 孝昭!!! 電器つけろー!!!」
俺は壁の済みにへばりつきただ叫ぶ以外に何もできない。
「あった!」
孝昭の声がした。そうか暗闇で壁のスイッチの場所を探っていたんだな?
孝昭の声と同時にパチッと音がして明かりがついた!
部屋の中央を見た!
予想もしなかった恐ろしい光景が目に飛び込んでくる!
誰かが満雄の下半身にしがみついている!
満雄は泣きながらジタバタする以外なす術もなく暴れていた!
俺はこの場から逃げ出したいくらいのとてつもない恐怖心に襲われた!
……と思ったのはほんの一瞬……、
「おーい! 聡!」
俺と孝昭は同時にそう叫んでいた。満雄にしがみついていたのは聡だったのだ。
満雄は俺たちの声に気付き、はっとしてジタバタ動かしていた手足を止めた。
「まったく……」
俺は急に足の力が抜けてその場に座り込んでしまった。
「こ、このやろーーー!!!」
満雄はしがみついている聡を跳ね除けて立ち上がった。
「いってぇ~、満雄、本気で殴るから、耐えるのに必死だったよ」
聡は痛そうに頭を抑えてその場にあぐらをかいて座った。
すると満雄は涙を拭いて聡にとびかかり、聡の頭を脇に抱えグーで何度も殴りだす。
「このやろーてめぇ、冗談になってねーんだよ!!」
満雄は罵声を浴びせながら結構な力で何度も殴った。
「いてぇ、いてぇ~ごめん、悪かったぁ~ごめんよ~」
聡は必死になって謝っていたが、俺も孝昭も呆れ果て、満雄を止めようとはしなかった。
誰かがいる ~奇妙な現象の実験ルポ~ 白鷹いず @whitefalcon
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