「え゛え!? 今世のお金を来世に持っていけるのかい!?」

ちびまるフォイ

命あってのものだね

「あーー、きみ、きみ」


「え、俺ですか?」


「これをあげよう」


「え、これ……お、お金!? しかもこんなに!?」


「受け取ってくれ。私にはもう必要ないんだ」


「でもおじいさん! こんなに受け取れないですよ!

 というか、出どころが怖すぎて受け取れません!」


「そうか……たしかにそうかもな。

 それじゃ君は輪廻転生を知ってるかい?」


「義務教育は異世界で済ませたんで」


「それはよかった。私は実は二巡目の人生なんだよ」


「はあ……。それで?」


「君はまだ死んだことないから知らないだろうが

 実は死んだあとも自分の財産は持ち越せるんだよ」


「そうなんですか!?」


「そうさ。だから二巡目の人生ではお金をためてたんだがね。

 先日、妻に先立たれてしまって、それもなんだかばからしくなってしまったんだ」


「……でも、だとしてもお金をあげる理由にならないじゃないですか」


「二巡目の人生があまりに充実していてね。

 お金なんか必要ないとわかったんだ。

 

 私はお金ばかりに目がくらんで妻との時間をおろそかにした。

 だから三巡目はお金を手放して自由に生きたいと思うんだ」


「なんだかもったいない話ですね」


「本当に大事なものはお金じゃ買えないとわかったんだよ」


「それはお金を持ってる人しか言えないセリフですよ」


「とにかく、受け取ってくれるかな。

 寄付も考えたんだが、やっぱり楽しんで使ってもらいたくなってね」


「そりゃもちろん。後ろ暗さもなくなったんで、ありがたく受け取りますよ!」


「それはよかった。それじゃさようなら」


「またね、でいいじゃないですか」


「いや、もう私は三巡目に向かうよ。もう二巡目は終わりさ。さようなら」


数日後、大富豪の死は一時的にネットニュースなんかで取り上げられたが

翌朝には近くにできた美味しいフードコートに紙面をもっていかれた。


「こんな大金、なにに使おうかなぁ」


唐突に発生した臨時収入に目が「¥」のマークになる。

誰かに話したい気持ちもあったが、話せば金の亡者がやってくるだろう。


「よーーし、前からやりたかったこと全部やるぞ!!」


まずは物欲のすべてを解放した。

ありあまるお金でもってほしいものを買い漁った。


そこまで欲しくなくても気になったものは全部買った。


それにより部屋に収まりきらなくなったので家も買う。

ついでにデカい犬や、たくさんの猫、池には鯉を飼った。


仕事なんかはとっくに辞めている。


平日も祝日も休日も境界線がなくなった。


毎日、朝から晩まで飲み歩いては

きれいな女性に囲まれてバカ高いお酒を購入する。


「私、こんなに羽振りがいい人はじめて」


「がっはっは! そうだろうそうだろう!!

 君が俺の愛人になるというなら、これ以上の待遇を用意するぞ!!」


「ステキ!!」


「にゃっはっは!!」


女を両脇にはべらせ札束のお風呂にとびこむ。

浴槽横にあるライオンの口からは毎秒お金が吐き出されていた。


「お金持ちって最高~~!!!」


来世も必ずお金持ちに輪廻転生するぞと誓った。




誓った瞬間、一気に血の気が引いてきた。



「……貯金しなきゃ」



なにをこんな序盤で豪遊しているのか。


せっかくお金を手に入れて一巡目で使い切ったら、

来世はすかんぴんの人生しか待っていない。


まして一巡目が楽しかっただけに、二巡目に感じる落差は絶望的。


せめて二巡目のほうが一巡目よりも充実してなきゃ耐えられない。


ライオンの蛇口を締め、札束風呂をあわてて電子マネーに変換。

女を帰らせ、食事はかいだめたもやしを取ることにした。


「今の我慢はきっと来世につながるはずだ!」


親切な大富豪からもらったお金はすでに半分以上を浪費したが、

それでもまだ引き返せるはずだろう。


仕事も再開し、残ったお金は投資にあてて資産運用を始める。


すべては豊かな二巡目の生活のため。



それから10年後。


禁欲生活が日常になるころには、お金はすっかり貯まっていた。


「ぐふふ。もう最初にお金をもらった以上の財産だ」


口座ひとつじゃ到底おさまらない金額の財産を見て、

顔のにやけが止まらなくなっている。


最高の二巡目をスタートするには十分すぎる財産だ。


「さて、そろそろ死ぬべきタイミングかな。

 年老いてくると、お金が出ていくばかりで稼ぎようもないし」


もともと一定額をためたら死ぬつもりだった。

そのための準備もしっかり進めている。


首吊り用のデカいハリを大工に作らせ、

そこにしっかりしたロープを巻いて、足元の台に乗る。


あとは台を蹴飛ばせば人生終了。

待っているのは二巡目のハッピーハッピーな人生。


さあ、台を蹴ろう!


さあ!



さあ!!




「……ま、まじで二巡目あるのかな」


ここに来て急に腰が引けてきた。


お金を渡したおじいさんの言葉をうのみにしたが、

あの言葉は本当なのだろうか。でまかせだったらどうなのか。


もし二巡目なんかなかったら。

輪廻転生なんかできなかったら。


ただ節約アンド禁欲生活をして自殺するだけのわびしい人生じゃないか。


だったら、いっそ二巡目に夢と希望をたくすんじゃなく

今貯めたお金を全解放して遊んだほうがまだいいんじゃないか。


「ああーー! くそ!! どうすればいいんだ!!」


首吊りポジションであれこれと悩んでふんぎりがつかない。

そのときだった。


急に窓が破られ、目出し帽の男たちがやってくる。


「オラァ! 動くんじゃねぇ! 動かずに金を出せぇ!!」


「うわぁあ! びっくりした!!」


急にやってきた強盗に驚きバランスを崩した。

そのまま台から足がはずれる。



「あ」



その言葉は強盗が発したのか自分が放ったのかもうわからない。


強盗はただ呆然とアクシデント自殺をしてしまった

おばかなお金持ちの首吊り死体を静かに眺めていた……。






「はっ!? こ、ここは!?」


目が覚めたのはどこでもない空間だった。


「目が覚めたようですね、1回目の人生お疲れ様でした」


「あなたは……まさか女神!?」


「あいえ、あの世の公務員です」

「あそっすか」


「ちょうどあなたの生前財産を計算してたんですが……。

 ずいぶん貯め込んでたんですね。こんな金額みたこともない」


「ご、強盗に襲われたんですけど、お金取られてないんですか」


「あなたの有り様にあわてて逃げ帰りましたからね」


「よかったぁ……。それじゃサクっと二巡目お願いします!」


「それはいいんですが、オプションはいらないんです?」


「オプション?」


「一定の金額以上を二巡目に持ち越す人向けにご案内してるのですが

 財産をつかって二巡目にオプションをつけられるんですよ」


「……え? ということは、オプションつけたら

 次回輪廻転生するときに財産減っちゃう?」


「そうですね」

「じゃあいりません」


「まあまあ見るだけ見てください。

 二巡目スタートしてからじゃ手に入らないものもあるわけですから」


MENUと書かれた二つ折りのでかい木の看板を渡された。

中を開くと金額に応じたオプションがずらりと書かれている。



-----------------


<オプション項目>


・容姿端麗にする … \100000000


・兄弟or姉妹をつける … ¥10000000(1名毎)


・性別固定 … ¥10000000


・スポーツ万能にする … ¥10000000

(※才能を指定する場合は別途追加料金が発生します)


・生まれる国の指定 … ¥1000000000


・頭脳明晰にする … ¥100000000


・身体面の拡張/縮小 … 1部分あたり¥10000000


・ハゲ防止保険 … ¥1000000


・人生のチャンス(運)倍増 … ¥10000000


・一巡目の記憶を持つ … ¥1000000000


… and more

-----------------



「こ、これはすごい!! オプションつけたくなる!!」


「でしょう。お金持ちの方はみんなつけてますよ」


多少オプションをつけても二巡目の軍資金は十分。

いや、むしろオプションをつけてから転生したほうがいいんじゃないかとさえ思う。


ブサイクで金持ちよりも、イケメンで貧乏なほうが人生イージーモード。


今まではなんとかお金をもった状態でスタートしたほうが良いと思ったが、

お金がなくてもオプションをフル武装にしたほうがいいんじゃないか。


ブサメンの一巡目でもお金を稼げたんだ。

二巡目でもお金は稼げる。


生まれ持っての才能はこのオプション選別タイミングでしか得られない。


「オプションを全部つけてください!!!」


「え、全部!?」

「ぜんぶです!!」


「それをやったら、もう二巡目にお金を持っていけませんよ?

 死んじゃったら一文無しで三巡目に突入ですよ?」


「はっはっは。バカいっちゃいけません。

 頭脳明晰でイケメンでスポーツ万能。

 それらの才能があったなら、お金なんて向こうから寄ってきますとも」


「ほ、本当にいいんですね? オプションに全ぶっぱしますよ?」


「ここぞというときにケチらないのが、大物になるためのコツですよ」


「ギャンブル依存症へのコツでしょうよ」


そういいつつも客の要望を断ることもできない。

すべてのオプションを二巡目の人生に付与された。


「オプションつけましたよ」


「ああよかった。それじゃ早く二巡目に行かせてください。

 きらびやかな人生が俺を待ってるんですから」


「あでも保険入っとかなくていいんですか?」


「保険? まだ人生はじまってもいないのに?」


「だからこそです。お金はなくても二巡目開始後に回収もできるので、保険入っといたほうがいいですよ。万が一のために。」


「保険なんかいりませんよ。

 オプション全部盛りのパーフェクト・ヒューマンですよ?

 どんなトラブルが合っても心配ないです」


「でもみなさん入ってますし、説明だけでも……」


「ああ、もううるさい。早く輪廻転生させてくださいよ!!」


手元にあった「転生GO!」ボタンを押した。

足元が開いて落とし穴に吸い込まれる。


「うぉぉぉ! 新しい人生のはじまりだぁあぁぁ!!」


ウォータースライダーのようなチューブを滑り降り、

まもなく光あふれる二巡目の人生の入口が見えた。



そしてーー。




病院では泣き崩れる夫婦がいた。


「どうして……そんな……」


特に妻の絶望は深く、医者もかける言葉がない。

その様子を現世ライブ配信で見ていた公務員は残念そうにコメントした。




「やっぱり安産保険は必須だったな……」

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「え゛え!? 今世のお金を来世に持っていけるのかい!?」 ちびまるフォイ @firestorage

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